自然人は,権利能力・意思能力・行為能力の3つの能力を持つことは前に学習したけど,なんか受領能力って能力もあるらしいじゃん...。
どゆこと?
民法98条の2【意思表示の受領能力】について,豊富な図を用いて,初学者の方にもわかりやすい解説をしています。
法律行為・意思表示・取消し・単独行為の概念にも触れ,受領能力だけでなく,たくさんの法的概念の学習ができるようになっています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 意思表示の受領能力という概念がどのようなものわかる
- 受領能力という概念が創られた理由が事例でわかる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で行政書士・2週間の独学で宅建に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
※本ブログでは,記事内容を要約したものを先に【結論】としてまとめ,その後【解説】で詳細に説明をしていますので,読者さまの用途に合わせて柔軟にご利用ください!!
【結論】意思表示を受け取るのにも能力が必要
民法98条の2 【意思表示の受領能力】
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。
一 相手方の法定代理人
二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方
民法98条の2 本文
意思能力を失っている者(民法3条の2),未成年者(民法4条)及び成年被後見人(民法8条)には,意思表示を受領する能力がないことを定めた条文です。
上記の者たちは,法律行為から生じる経済的影響が,自身にとって有利か不利かを判断することが難しい(orできない)ことから,意思能力を失っている者,未成年者及び成年被後見人に対する意思表示は,その有効性を主張できないとしたものです。
民法98条の2 ただし書き
民法98条の2の本文だけでは,意思能力を失っている者,未成年者及び成年被後見人に対して意思表示が不可能になってしまい,相手方が困ってしまうため,どのようにすれば意思表示を有効に行えるかについて,ただし書きが規定しています。
『法定代理人』(1号)か,『意思能力を回復し,又は行為能力者となった』元無受領能力者(2号)が,意思表示を知ることとなれば,意思表示の効果が有効に発動することとなります。
【解説】受領能力という概念で,未成年などを保護する
※民法98条の2は『意思表示』全般を適用範囲としています。 しかし,条文趣旨や存在理由などをイメージしやすいように,また,民法典の総則の横断理解ができるようにように,という目的で【解説】の前半では『意思表示』を『取消し』に代表させて解説しています。
民法総則における取消しの構成
取消しを例に解説しますので,総則の横断理解も兼ねて,民法総則における取消しの立ち位置や構成を,全体を眺めながら一度確認しましょう。
民法の総則は,以下のような構成になっています。
制限行為能力者・瑕疵ある意思表示・代理などで,合理的判断能力のもとでされたとは言えない意思表示や,正常とは言えない意思表示については,取消せる又は無効というルールが置かれています。
これに対して,第5章第4節【無効及び取消し】にて,取消したり無効になったりとどうなるのか,取消すにはどうすればよいのかというルールが規定されています。
これが取消し・無効にまつわる民法総則の大きな構成です。
取消権は能動的に意思表示した側の保護ルール
ここで,日常で用いられる一般用語としての「取り消す」を一度考えて頂きたいです。
ある人が「さっきのやっぱりなしで! 取り消させて!」と言うようなとき,この人は何かしらの行為をした側・何かしらの行為をされた側のどちらでしょうか?
これは,やはり“何かしらの行為をした側”であるはずです。
何かしらの行為を”された側”が取消しを行おうとすることはないはすです。
この話は一般用語の「取消し」だけでなく,法律用語の「取消し」にもあてはまる話です。
法律用語の「取消し」が取消す対象は「法律行為」です。
「法律行為」=①法的効果発生の目的+②意思表示であり,①は目的であって行為ではありませんので,法律行為の取消しで取消すのは,実質的に“法律行為=意思表示(②)”となります。
以上から,法律用語における「取消し」で取消すのは”意思表示”だったのです。
つまり,法律的な話においての「取消し」を行うのは,“意思表示をした人”となります。
そのため,取消しに関する民法典上のルール(第5章第4節【無効及び取消し】民法119条~126条)はすべて,“意思表示をした側”が取消す(=取消権を行使する)場合を想定して規定されています。
※「法律行為=①法的効果発生の目的+②意思表示」の関係性や,法律行為・事実行為の違いなどについては,以下の記事で詳しく解説していますので,あわせて確認してください。
取消し = 一方的意思表示である単独行為
さきほども触れましたが,取消し=法律行為です。
そして,法律行為には以下の3種類が存在します。
【法律行為 3種類】
- Ⅰ:契約(行為)
- Ⅱ:単独行為
- Ⅲ:合同行為
※契約・単独行為・合同行為については,こちらの記事で詳細に解説しています!
取消しは,これら3種類のうちのⅡの単独行為とされており,相手方の同意なく法的効果が発生する一方的意思表示であるとされています。
取消しが,相手方の了承なく一方的な意思表示のみで法的効果が発生する理由は,そもそも取消しができる(=取消権を有している)という状況そのものにあります。
総則において,取消権が認められる場面と言うのは大きく以下の3つが存在します。
【民法総則において取消権が認められる場面】
- 1:正常な経済的判断能力のもとに意思表示されたことが担保されていない(制限行為能力者)
- 2:意思の不存在のもとでの意思表示(民法93条心裡留保,民法94条虚偽表示)
- 3:瑕疵ある意思表示(民法95条錯誤,民法96条詐欺・強迫)
つまり,何かしらの理由で,法律行為(=意思表示)が正常であるとは言えない状況の時に,取消権が認められるんだよ!
取消権を行使された側の事情を一切考慮しなくてよいのか?
前述の通り,取消しに関するルールは,取消しをする側を想定して規定されています。
しかし,ここに取消しが一方的意思表示である単独行為である性質が加わると,一点考慮すべき点が浮かび上がります。
それは,取消権を行使された側の事情を一切考慮しなくてよいのか?という点です。
え? でも,取消しは単独行為なんだよね?
相手の了承の必要なく,意思表示のみで法的効果が発動するんだから,相手方のことを考慮する必要あるの?
相手方のある単独行為は,単独行為だからって壁に向かってつぶやいて意思表示するだけでは当然ダメだよね。
そうなると,承知は不要でも,取消しされる側に取消しの事実は伝えなければいけない。
そしてこのとき,取消しされた側が,“取消しされた”という事実を正確に判断できない可能性があるんだ。
たとえば,未成年者と取引した者が,錯誤を理由に取消しをしたとします。
未成年者はまだ経済的判断能力が不十分であることが多く,相手方によって取り消されたという事実が,どのようなことで,自身にどのような経済的影響を与えるのかわからないことも十分にありえます。
そうなると,未成年者は「え? 取り消され? お金渡さないといけないのかな?」と勘違いし,悪い大人にお金を渡してしまうことも考えられます。
このように,いくら取消権が一方的な意思表示だからといって,相手方の事情を一切考慮せずにその取消権行使を認めることは,非常に危険であることがわかります。
そこで民法典は,取消権を行使する場合に,取消し効果が問題なく発動するための規定で“相手方の事情に関する”ルールを,たった1条ですが置くこととしたのです。
それが本条民法98条の2です。
受け手に受領能力がなければ,意思表示の効果について対抗不可 (民法98条の2本文)
※ここから『取消し』を条文の表現どおりの『意思表示』に戻して解説します。
民法98条の2 本文【意思表示の受領能力】
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。(以下,略)
意思表示をされる者が,意思能力を失っている者(民法3条の2),未成年者及び成年被後見人に該当する場合には,意思表示を受領する能力が無いものとし,その意思表示の法的効果を対抗できなくしたものです。
これにより,意思能力を失っている者(民法3条の2),未成年者及び成年被後見人は,自身で経済的判断が難しい意思表示(法律行為)を主張されることがなくなり,保護されることになります。
本条文が適用されるのは,法律行為(意思表示)によって発生する経済的効果の良し悪しを判断する能力が”無い”者たちです。
すなわち,以下の3者です。
- 意思能力を失っている者
- 未成年者
- 成年被後見人
対して,事理弁識能力が著しく不十分な被保佐人や,事理弁識能力が不十分な被補助人たちは,能力が多少なりとも有る者ですので,受領能力も有るものとされ,本条の対象とはなりません。
相手方はどうすればよいのか?(民法98条の2ただし書き)
民法98条の2の本文だけでは,意思能力を失っている者,未成年者及び成年被後見人に対して意思表示が不可能になってしまい,意思表示をしたい側が困ってしまいます。
この点,どのようにすれば意思表示を有効に行えるかについて,ただし書きが規定しています。
民法98条の2 ただし書き【意思表示の受領能力】
(本文,略)ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。
一 相手方の法定代理人
二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方
『法定代理人』(本条1号)か,『意思能力を回復し,又は行為能力者となった』元無受領能力者(本条2号)が,意思表示を知ることとなれば,意思表示の効果が有効に発動することとなります。
なんで1号・2号に規定されている人が知ることになれば,意思表示は有効に主張できるようになるの?
代理人(1号)や,その後の事情で意思能力・行為能力を備えた状態になった本人(2号)は“経済的判断能力が十分な者”と言えるよね。
その者たちが取消された事実を知るところになれば,受け取った意思表示を十分に合理的判断できるはずで,不測の不利益を被る可能性がなくなるからだよ。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
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※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。
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参考文献など
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