
心裡留保って普通に生活していたら絶対に出会うことのない用語がいきなり基本書に出てきたんだけどこれなに?
詐欺とかなら,字からでもなんとなくイメージ湧くんだけど...。
本記事は,民法93条の心裡留保について,嘘告をする場面を用いて,わかりやすく解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 心裡留保の概念を理解できる
- 心裡留保による第三者対抗関係について,図で基礎から理解できる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
※本ブログでは,記事内容を要約したものを先に【結論】としてまとめ,その後【解説】で詳細に説明をしていますので,読者さまの用途に合わせて柔軟にご利用ください!!
結論:心裡留保とは,冗談のこと
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
民法 第93条【心裡留保】
心裡留保とは,嘘や冗談の意思表示のことです。
心裡留保は,原則有効として扱います。
ただし,相手方が,表意者が嘘や冗談で意思表示をしていることについて悪意又は有過失であるならば,無効として扱います。

心裡留保による無効は,心裡留保についての事情について善意の第三者に対しては対抗することができません。
解説:冗談の意思表示でも有効なので,責任を持たないといけない!
心裡留保は,瑕疵ある意思表示5人衆のひとり
心裡留保は、瑕疵ある意思表示の5パターンのひとりです。
「瑕疵」とはキズがあることを意味します。
キズのある意思表示,つまりは意思表示の不良品です。(ちなみに「瑕疵」は行政書士試験の筆記試験で書く可能性のある漢字なのでキチンとかけるようにしておきましょう!)
皆さんも今までの人生で新品買ったのに,最初から傷有りの不良品だった…,なんて経験はあるのではないでしょうか?
実は,世の中の法律の意思表示にもキズありの不良品が存在するのです。
民法は,意思表示の不良品である,瑕疵ある意思表示を5種類に分類しています。
それが,心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫の以下の5つです。
- 心裡留保(民法93条):嘘告や冗談
- 虚偽表示(民法94条):相手と共同で創る噓表示
- 錯誤 (民法95条):勘違いでした意思表示
- 詐欺 (民法96条):騙されてした意思表示
- 強迫 (民法96条):無理やりさせられた意思表示
これらは意思表示として不良品がゆえに,そのままにしておくわけにはいかないため,民法がどのように処理すべきか,パターンごとにその扱いをマニュアル化しています。
今回は,そのうちの心裡留保です。
心裡留保は嘘告や冗談

なんて言われたことはありますか?
僕はありません。。。。
。。。さて,告白は、法律行為とも言えます。
「付き合ってください」という申込みの意思表示に対して、相手方が「はい」という承諾の返答だった場合,これによりお互いの意思表示ががっちゃんこします。
これによって,めでたく純異性交友契約が成立(僕が勝手に名付けました)です。
さて、この純異性交友契約の申込み(告白行為)は,告白した側が本当に付き合うことを希望して行うのが本来あるべき姿です。
ところが,本当は付き合う気はないのに告白をするという,嘘告なんて言うとんでもない冗談行為が存在するようです。
嘘告のような,真意ではない(本当は付き合う気のない)意思表示を心裡留保と言います。
嘘告の倫理的是非はひとまず置いといて,嘘の告白の申込みというものはどのように扱うべきでしょうか?
嘘とは言え告白した以上は有効で,責任を持って付き合わなければならないのでしょうか?
それとも,嘘告は肝心の本心を伴っていない意思表示なので無効として,告白効果は存在せず,付き合わなくてもいいのでしょうか?
結論を書くと,民法は,嘘告のような真意とは違う意思表示,すなわち心裡留保は,原則有効として扱います。
要するに嘘だろうと冗談だろうと,付き合ってくださいって言ったなら、ちゃんと責任取って付き合えよ!ってことです。
心裡留保の条文は非常に義理堅い、情に熱い条文といえます。
しかし、心裡留保の条文が義理堅すぎて、ガッチガチの頑固おやじみたいなやつで,真意でなく言ったことすべてを有効ってことにすると、冗談や嘘を一切言えない窮屈な世界になってしまいます。
その辺り,民法93条はバランスが取れている,分別ある条文ですので,ここから先でしっかり確認していきましょう。
心裡留保は原則有効
民法93条1項を改めて見てみましょう。
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
民法 第93条【心裡留保】
この部分が,心裡留保とその扱いを定めた記載です。
条文の『表意者がその真意ではないことを知ってしたとき』は,少しわかりにくい言い回しですが,『真意ではないけど,あえて意思表示しちゃうよ~ん』という意味で,乱暴に一言でまとめると,冗談のことです。
冒頭の嘘告の例で表すと,『真意は付き合いたくないけど,あえて告白しちゃうよ~ん』です。
そして,心裡留保に分類される意思表示は,『そのためにその効力を妨げられない』=有効という意味です。
上記を踏まえて,民法93条1項をバッキバキにかみ砕くと以下のとおりになります。
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
民法 第93条【心裡留保】 書き換えVer
↓
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってした冗談のときであっても、そのためにその効力を妨げられない有効とする。
↓
1 意思表示は、冗談のときであっても、有効とする。
つまり心裡留保は,原則として有効ということです。
ただし、相手方が悪意又は有過失なら無効
前述のとおり,心裡留保は原則として有効です。
つまり,噓告(心裡留保)をした場合,その告白は有効です。
「はい♡」と返事されたなら,倫理的にも法律的にもキチンと付き合いましょう。
このとおり,心裡留保は原則有効として,一度行った意思表示には冗談だとしても責任を持てよ,というのが民法のスタンスなのですが,例外として無効となる場合があります。
それは,心裡留保の相手方(嘘告された人)が,嘘告であることを知っていた(悪意)又は知ることができた(有過失)場合です。
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
↓
1 意思表示は、冗談のときであっても、有効とする。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
民法 第93条【心裡留保】 書き換えVer
嘘告であることを相手方が知っていたor過失で知らなかったのなら,別に相手方保護しなくていいよね,ということで心裡留保(嘘告)は無効となります。
例えば,筆者が大ファンの橋本環奈さんが会ったことも話したこともないのに,いきなり私の事務所に電話をかけてきて,「好きです。付き合ってください!」と告白してきた場合です。
そんなこと,どう考えてもあり得ないので「はい,嘘~!(テレビ番組のモニタリングかな?)」と,嘘告であることを理解できるはずですし,少し天然入っていて「え?!マジで?」と思ったとしても,普通に考えれば嘘告であることに気づくことができるはずです。
この場合,橋本環奈さんは,心裡留保の但し書きを主張して,嘘告の無効を主張できることになります。
無効が主張できる時でも、善意の第三者には主張できない
相手方が意思表示に真意が無いことを知っていた又は知ることができたとき,心裡留保の意思表示をした人は,その意思表示を無効と主張できるわけですが...
そこに,意思表示が心裡留保によって無効だと知らずに,有効だと信じてる第三者が関わってきたときに,心裡留保による無効をどう扱うかが問題になります。
例えば,Aさんが,橋本環奈さんの直筆サイン入り写真集を冗談で「あげるよ」と言って,相手方Bにプレゼントしたとしましょう。

相手方Bは,「橋本環奈さんの大ファンのAが,タダでサイン入り写真集をプレゼントしてくれるわけねぇ」と,プレゼントは真意でないことを見破っていました。

Aが冗談で意思表示をしたことについて,相手方Bが悪意であるため,民法93条1項ただし書きにより,意思表示は無効となり,写真集贈与契約も未成立となります。

意思表示が無効(それにより契約も無効)であることから,引渡しをしてようがしてなかろうが,この場合の写真集の所有者はAであることに注意してください。
なぜなら,冗談の贈与の意思表示は無効ですので,贈与という行為は初めから無かった扱いになるからです。

その後,相手方Bは「そういえば,親友Cもめちゃくちゃ橋本環奈さんの大ファンだったな」と思い出し,「A橋本環奈さんの大ファンのCに売ってあげるよ!」として,心裡留保の事情を知らない第三者の親友Cに売却しました。

その後,Aはサイン入り写真集を取り戻したいと考え「Bにサイン入り写真集を渡したのはあくまでも冗談であって,それはBもわかっていたのだから,民法93条1項但し書きによって,心裡留保によるBへの贈与契約は無効です。 そのため,Bにはサイン入り写真集の所有権は無いので,Cにサイン入り写真集を返せ。」と請求しました。

さて,この場合,冗談でAがBにサイン入り写真集をあげたという事情を知らなかった(=善意の)第三者である友人Cは,サイン入り写真集をAに返さないといけないのでしょうか?
つまり,Cは,以下の2つ事実を受け入れ,認めて,無権利者Bとの売買契約は無効であるとして,写真集を諦めなければいけないのでしょうか?
- 事実①:A→Bの贈与の意思表示が心裡留保を理由に無効であること
- 事実②:Aが写真集の真の所有者であること
すなわち,下図の2つの事実を,Cは知らなかったとはいえ受忍しなければいけないのか?ということです。


事実①・事実②の両方ともAとBの間の事情であって,その事情を知らなかったCはいきなり返還を求められても困ってしまいますよね。

そこで,民法はこのような他人の心裡留保に巻き込まれたCを助けるためのルールを用意しています。
まず考えたいのが,たとえ冗談だったとしても自分自身で他人にサイン入り写真集を渡した人Aと,他人の意思表示(AやBの意思表示)を純粋に信じていて心裡留保について善意の第三者Cの,どちらを保護してあげるべきでしょうか?

前述のサイン入り写真集を返せ・返さないのトラブルの原因を作ったのは誰だったでしょうか?
おおもとの原因を作ったのは冗談を言ったAさんですよね。 そのため,Aさんには多少落ち度があると言えます。 そんなに大切なものなら冗談だとしても他人に渡すなよ,という非難が可能です。
一方で,Cさんには何の落ち度もありません。 Bの「知り合いから橋本環奈さんの写真集貰ったからあげるよ。」という写真集の入手方法と,写真集をくれるという贈与の申出を信じたピュアなハートの持ち主だっただけです。
したがって,民法は,善意の第三者であるCを保護すべきと考えます。
つまり,民法は,前述の事実①②は現実世界に確かに存在するのですが,A(及びB)は,Cに対しては心裡留保の意思表示が無効である(事実①)を主張することはできないとしました。(事実①が主張できなくなったため,当然に事実②も主張不可能です。)
その結果として,心裡留保の意思表示はA・B・Cとの間では有効なものとして扱われ,Cは写真集の正当な権利者Bから購入したことになり,Cが写真集の所有権を手に入れます。
よって,CはAからの返還請求に答える必要がありません。
このルールは民法93条2項に規定されています。
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
民法 第93条【心裡留保】
つまり,たとえ民法93条1項但し書きによって心裡留保として無効を主張できる場合でも,心裡留保だと知らずに取引関係に入ってきた人に対しては,無効を主張することは許さないルールを追加したのです。
何の落ち度もないCさんを守ってあげるべきだ,という民法の親切心が垣間見える条文でしたね。
※意思表示の条文によく出てくる『善意』『悪意』『有過失』についてはこちらの記事で,どの基本書よりも詳細に解説しています。 当ブログでも超人気記事ですので,是非このままあわせて学習してみてください!!
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

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※前条の解説はこちらです。
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参考文献など
参考文献
この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。
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最後まで読んでくださり,ありがとうございました。