第2節 意思表示

民法93条:心裡留保【言ったなら,責任持てよ,心裡留保(字余り)】

2021年10月21日

伊藤かずま

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今回は民法93条を3分でわかりやすく解説します。

※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語です
太文字は,解説中で大切なポイントです

 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

民法 第93条【心裡留保】

 

条文の性格

「好きです!付き合ってください!」

なんて言われたことはありますか?または言ったことがありますか?

僕はありません。

告白してもらったこともありません。

。。。告白って、法律行為とも言えます。

「付き合ってください」という申込みの意思表示に対して、相手方の「はい」の承諾の返答だと,お互いの意思表示ががっちゃんこします。

これによって,めでたく純異性交友契約(僕が勝手に名付けました)の成立です。

さて、この純異性交友契約の申込みもとい告白は,告白した側が本当に付き合うことを希望して行うのが本来あるべき姿です。

ところが,本当は付き合う気はないのに告白をするという,嘘告なんて言うとんでもない行為が存在するようです。

嘘告の倫理的是非はひとまず置いといて,嘘の告白の申込みというものはどのように扱うべきでしょうか?

嘘とは言え告白した以上は有効で,責任を持って付き合わなければならないのでしょうか?

それとも,嘘告は肝心の本心を伴っていない意思表示なので無効として,告白効果は存在せず,付き合わなくてもいいのでしょうか?

上記の嘘告のような,真意ではない(本当は付き合う気のない)意思表示をどのように扱うか定めた民法上のルールを,心裡留保と言います。

先に本記事の結論を書くと,民法は,真意とは違う意思表示(嘘告)は、原則有効として扱います

要するに「嘘だろうと付き合ってくださいって言ったなら、ちゃんと責任取って付き合えよ!」ってことです。

心裡留保の条文は非常に義理堅い、情に熱い条文ですね。

しかし、心裡留保の条文が義理堅すぎて、ガッチガチの頑固おやじみたいなやつで,真意でなく言ったことを全て有効ってことにすると、冗談や嘘を一切言えない窮屈な世界になってしまいます。

その辺りも93条はバランスを取っている分別ある条文ですので、しっかり確認していきましょう。

 

条文の能力

心裡留保は,瑕疵ある意思表示5人衆のひとり

心裡留保は、瑕疵ある意思表示の5パターンのひとりです。

「瑕疵」とはキズがあることを表します。 キズのある意思表示,つまりは意思表示の不良品です。(ちなみに「瑕疵」は行政書士試験の筆記試験で書く可能性のある漢字なのでキチンとかけるようにしておきましょう!)

皆さんも今までの人生で新品買ったのに,最初から傷有りの不良品だった…,なんて経験はあるのではないでしょうか?

実は,世の中の法律の意思表示にもキズありの不良品が存在するのです。

民法は,意思表示の不良品である瑕疵ある意思表示を5種類に分類しています。

それが,心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫の以下の5つです。

  • 心裡留保:嘘告や冗談
  • 虚偽表示:相手と共同で創る噓表示
  • 錯誤:勘違いでした意思表示
  • 詐欺:騙されてした意思表示
  • 強迫:無理やりさせられた意思表示

これらは,不良品がゆえに,その扱いをどうするかパターンごとにその扱いをマニュアル化しています。

今回は,そのうちの心裡留保です。

 

心裡留保は原則有効

93条1項を改めて見てみましょう。

 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない

民法 第93条【心裡留保】

この部分が,心裡留保とその扱いを定めた記載です。

条文の『表意者がその真意ではないことを知ってしたとき』は,少しわかりにくい言い回しですが,『真意ではないけど,あえて意思表示しちゃうよ~ん』て意味です。

冒頭の嘘告の例で表すと,『真意は付き合いたくないけど,あえて告白しちゃうよ~ん』です。

そして,心裡留保に分類される意思表示は,『そのためにその効力を妨げられない』=有効という意味です。

上記を踏まえて,民法93条1項をバッキバキにかみ砕くと以下のとおりになります。

 意思表示は、表意者が嘘や冗談でしても、その効力は有効とする。

民法 第93条【心裡留保】

つまり大原則として,心裡留保は有効ということです。

 

ただし、相手方が悪意又は有過失なら無効

見て来たとおり,心裡留保は原則として有効です。

つまり,噓告(心裡留保)をした場合,その告白は有効です。 「はい♡」と返事されたなら,倫理的にも法律的にもキチンと付き合いましょう。

前述のとおり,心裡留保は原則有効として,一度行った意思表示には冗談だとしても責任を持てよ,というのが民法のスタンスなのですが,例外として無効となる場合が実は有ります

それは,心裡留保の相手方(嘘告された人)が嘘告であることを知っていた(悪意)又は知ることができた(有過失)場合です。

 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする

民法 第93条【心裡留保】

この場合は,嘘告を知っていた相手方なら別に保護しなくていいよね,ということで心裡留保(嘘告)は無効となります。

例えば,筆者が大ファンの橋本環奈さんが会ったことも話したこともないのに,いきなり私の事務所に電話をかけてきて,「好きです。付き合ってください!」と告白してきた場合です。

そんなことどう考えてもあり得ないので「はい,嘘~!(モニタリングかな?)」と,嘘告であることを理解できるはずですし,少し天然入っていて「え?!マジで?」と思ったとしても,普通に考えれば嘘告であることに気づくことができるはずです。

その場合,橋本環奈さんは,心裡留保の但し書きを主張して,嘘告の無効を主張できることになります。

『無効』についてはこちらで解説しています。

 

無効が主張できると時でも、善意の第三者には主張できない

心裡留保によって意思表示の無効が主張できる,すなわち相手方が意思表示に真意が無いことを知っていた又は知ることができた場合を考えます。

そこに,意思表示が心裡留保によって無効だと知らずに,有効だと信じてる第三者が関わってきたときに,心裡留保による無効をどう扱うかが問題になります。

例えば,Aさんが,橋本環奈さんの直筆サイン入り写真集を冗談で「あげるよ」と言って,相手方Bにプレゼントしたとしましょう。

相手方Bは,「橋本環奈さんの大ファンのAが,タダでサイン入り写真集をプレゼントしてくれるわけねぇ」と,プレゼントは真意でないことを見破っていました

ここで,相手方Bは「そういえば,親友Cもめちゃくちゃ橋本環奈さんの大ファンだったな」と思い出し,「Aから貰ったんだけど,橋本環奈さんの大ファンのCにあげるよ」として,心裡留保の事情を知らない第三者の親友Cにあげてしまいました

その後,Aはサイン入り写真集を取り戻したいと考え「Bにサイン入り写真集を渡したのはあくまでも冗談であって,それはBもわかっていたのだから,民法93条1項但し書きによって,心裡留保によるBへの贈与契約は無効です。 そのため,Bにはサイン入り写真集の所有権は無いので,Cにサイン入り写真集を返せ。」と請求しました。

さて,この場合,冗談でAがBにサイン入り写真集をあげたという事情を知らなかった(=善意の)第三者である友人Cは,サイン入り写真集をAに返さないといけないのでしょうか?

心裡留保は相手方Bが,意思表示が真意でないことを悪意又は有過失だった場合は,93条1項の但し書きにより無効でありました。

 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする

民法 第93条【心裡留保】

すなわち,誰から見てもそんな契約は存在しなかったという93条1項の但し書きの無効ルールを貫くと,第三者の友人Cは元々のAからBへの贈与契約自体が存在しないのですから,無権利者の相手方Bからサイン入り写真集を貰っても,有効に所有権を持っているのは冗談を言ったAということになります。

ここで考えたいのが,たとえ冗談だったとしても自分自身で他人にサイン入り写真集を渡した人Aと,他人の意思表示(AやBの意思表示)を純粋に信じている善意の第三者の友人C,どちらを保護してあげるべきでしょうか?

民法は,善意の第三者である友人Cを保護すべきと考え,その結果として93条2項を用意しました。

 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

民法 第93条【心裡留保】

つまり,たとえ民法93条1項但し書きによって心裡留保として無効を主張できる場合でも,心裡留保だと知らずに関係をもった人に対しては,無効を主張することは許さないルールを追加したのです。

 

前述のサイン入り写真集を返せ・返さないのトラブルの原因を作ったのは誰だったでしょうか?

おおもとの原因を作ったのは冗談を言ったAさんですよね。 そのため,Aさんには多少落ち度があると言えます。 そんなに大切なものなら冗談だとしても他人に渡すなよ,という非難が可能です。

一方で,Cさんには何の落ち度もありません。 Bの「知り合いから橋本環奈さんの写真集貰ったからあげるよ。」という写真集の入手方法と,写真集をくれるという贈与の申出を信じたピュアなハートの持ち主だっただけです。

そのため,AさんvsCさんと比較した場合,何の落ち度もないCさんを守ってあげるべきだ,という考え方で心裡留保は設計されているのです。

 

コメント

さて,今回の心裡留保は,第三者の対抗要件は善意であればOKでした。

一方で,同じ瑕疵ある意思表示5人衆の錯誤の第三者の対抗要件は善意無過失が必要でした。

ここの違いを暗記しなくても解ける方法を以下で解説しているので,是非併せて読んでみてください。

善意・悪意・善意重過失・善意有過失あたりがフワフワしている方はこっちも読んで基礎をしっかり固めておきましょう!

 

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