心裡留保(民法93条)や通謀虚偽表示はなんとかついて行けましたが,錯誤あたりから憶えることが多くて,いきなり難しくなります…。
なんで錯誤だけ第三者対抗要件に善意無過失まで要求されるのかもサッパリわかりません…。
わかりやすく教えて!!!!
本記事は,民法95条の錯誤について,条文を基に徹底的に解説します。 どこよりも民法95条を解剖・詳細解説していますので,是非みなさんの学習に役立ててください!
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 錯誤についてのルールがなぜ今の姿をしているのか根本から理解できる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
※本ブログでは,記事内容を要約したものを先に【結論】としてまとめ,その後【解説】で詳細に説明をしていますので,読者さまの用途に合わせて柔軟にご利用ください!!
【結論】錯誤の大原則:勘違いは取消せる!
※本条文は解説する内容が非常に多いので,【結論】フェーズは非常に簡潔に記載しています!
民法95条 【錯誤】
1 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,次に掲げる場合を除き,第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第1項の規定による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
■1項
”勘違いは取消せる”という民法の錯誤ルールの大原則を定めたものです。
■2項
動機の錯誤については,動機が表意者の内心にしかないことから,取消しできる条件を厳しくしたものです。
■3項
表意者が重過失=ワザと勘違いしたようなケースでは,原則として取消しを認めないものと定めたものです。
■4項
”錯誤を理由に取り消した事実”は,善意無過失の第三者には主張できないことを定めたものです。
心裡留保や虚偽表示と違い,第三者に善意無過失まで要求される理由についてはこちらの記事で解説しています。
【解説】勘違いしたからってなんでも取り消せるわけではない
民法の錯誤の条文は非常に長く,第4項まで存在します。
そのため,原則がしっかりおさえられていないと,理解しきれずパッパラパーになりがちです。
でも大丈夫です。 この記事で各項丁寧に解説しますので安心してください。
後日分からなくなったら,是非またこの記事に戻って来て復習してください。
では,解説をはじめます。
民法95条第1項:錯誤=勘違いという意味
まず,錯誤とは勘違いのことです。
錯誤→勘違いに置き換えて,民法95条1項の条文の柱書部分のみ抜き出すと次のようになります。
民法95条1項 柱書 【錯誤】
意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
↓ 『錯誤』を『勘違い』に変換
意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その勘違い錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
↓ 余分箇所を削除
意思表示は,その勘違いがあるときは,取り消すことができる。
そうなんです。
勘違いして行った意思表示は,取り消せるんです。
この勘違い意思表示は取り消せるというのが,錯誤を理解するための大原則であり,スタート地点です。
資格試験に合格するだけでなく,民法のこれから先の学習で必ず必要になる知識ですので,勘違いでしたことは取り消せる,これを頭に叩き込んでください!
(ちなみに資格試験対策としては,95条1項の『錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき』については,些細な勘違いではダメで,重要な勘違いでないと取り消せないんだな~程度の理解でOKです。 当記事ではこの程度の説明とさせていただきます。)
勘違いなら何でも後から取消せるのか?
先ほど,勘違いの意思表示は取り消せることを条文から確認しました。
民法95条1項 柱書 【錯誤】書き換えVer
意思表示は,その勘違いがあるときは,取り消すことができる。
勘違いしたのなら,どんな些細な勘違いでも,後から何でも取り消して無かったことにできるの?
例えば,みなさんがスーパーで「あ!美味しいそう!」って思って買ったけど,想像していた味と違った…なんて経験あるのではないでしょうか?
これだって,味を勘違いしていたと言えるので,民法95条1項の錯誤を主張して,「やっぱり購入したの無しで!」なんて,後から取り消せるのでしょうか?
民法は,さすがにわがまますぎる勘違いは認めません。
つまり,勘違いの中にも,取り消せる勘違いと取り消せない勘違いがあるのです。
民法は,取り消せる勘違いとして,以下の2つを認めています。(ここまで導入として錯誤のことを「勘違い」と表現してきましたが,ここから先は「勘違い」と「錯誤」を併用していきます。どちらも同じ意味で使用しますので使い分けに意図はありません。)
【民法95条1項が取消しを認める勘違い】
- 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
- 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
条文も確認しておきましょう。
民法95条1項 【錯誤】
1 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
(以下,略)
意思表示に対応する意思を欠く錯誤・・・?
表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤・・・?
・・・・・・?
日本語でおけ
この条文を読んで,初見で,一発でなんの勘違いのことを言っているのかわかる人,マジでこの世に存在するんですかね…?笑
それぞれ錯誤について,見ていきましょう。
意思表示に対応する意思を欠く錯誤
これはつまり,表示行為の錯誤と言われるもので,意思表示の内容と意思が完全一致していない錯誤のことです。
たとえば,言い間違いや書き間違いや表示間違いです。
ちょっと”言い間違い”の事例で確認してみましょう。
筆者の高校の友人に映画監督がいるのですが(マジです),筆者の誕生日プレゼントに好きな有名人のサインを貰ってきてあげるという嬉しい申込があったとします。
筆者は橋本環奈さんが好きなので,環奈さんのサインをお願いする意志を持ったとします。
しかし,いざ意思表示をするタイミングで,なぜか弁護士の橋本徹さんがチラついたことで,頭の中は橋本環奈さんなのに,口は「橋本徹さん」と言ってしまったとします。
このとき,『意思』=“橋本環奈さん”である一方,『意思表示』=“橋本徹さん”となっており,意思表示と意思との間にズレがあります。
このように,意思表示と意思との間にズレがあると,意思表示に”正しく”対応する意思が筆者の中に存在しない,すなわち『意思表示に対応する意思を欠く』状態と言えます。
よって,言い間違いは(表示行為の)錯誤といえるのです。
では,言い間違えて橋本徹さんのサインをお願いしたこの意思表示がどうなるのか,見ていきましょう。
まず,友人からの誕生日プレゼントに有名人のサインをあげるという申込の意思表示に対して,言い間違いの錯誤がある不良品とはいえ「橋本徹さんのサインが欲しい」という承諾の意思表示がされたことで,双方向の意思表示がガッチャンコしたため,この瞬間に契約が有効に成立しています。
しかし,契約が成立したとしても,筆者の承諾の意思表示に言い間違いという大きな欠陥が存在し続けることには変わりありません。
当事者たちが,この欠陥が存在するままでもいいやと納得していればこのままでもよいですが,民法は「あるべき姿に直す機会を与えるべき」と考えるようです。
それが,錯誤の大原則ルール”勘違いの意思表示は取消せる”に繋がります。
事例における筆者の錯誤は,民法95条1項1号の表示行為の錯誤に該当しますので,これは取消すことができる勘違いです。
したがって,橋本違いの勘違い意思表示は取消すことが認められます。
よって,筆者は無事にこの意思表示を取り消して無かったことにできるのです。
その後,改めて橋本環奈さんのサインがほしい旨の意思表示を行うなりして,あるべき姿の誕プレ契約を結び直せばOKというわけです。
表示行為の錯誤と心裡留保(民法93条)の違い
あれ? 今さっき確認した表示行為の錯誤と心裡留保の違いってなんですか?
どっちも,意思表示した内容が,本心と一致していないような気がするんですが…?
心裡留保とは,真意ではないと認識しながら,真意ではない意思表示をすることをいいます。
当ブログでは心裡留保は,嘘告を具体例として憶えることを推奨しています。
嘘告は,本当は付き合う気がない(付き合うことが真意ではない)と認識しながら,「付き合ってください」と真意ではない意思表示するため,心裡留保と言えるのです。
さて,表示行為の錯誤と心裡留保ですが,どちらも意思(本心)≠意思表示になっている共通点があります。
では,完全に同じものなのかというと,そういうわけではなく,意思表示をした本人が“意思(本心)≠意思表示”であることを知っているかそうでないかの大きな違いがあります。
つまり,以下のとおりです。
【意思表示をした本人が“意思(本心)≠意思表示”であることを知らない:表示行為の錯誤】
【意思表示をした本人が“意思(本心)≠意思表示”であることを知っている:心裡留保】
”意思表示≠本心”の事実を知っているか,知らないかでは保護すべき者を誰にするか?などの点で区別が必要となるため,別々の条文にてルールが規定されているのです。
表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
取消すことができる錯誤としてもうひとつ,『表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤』があります。
民法95条1項 【錯誤】
1 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
(以下,略)
これは動機の錯誤と言われるものです。
『表意者が法律行為の基礎とした事情』とは,「俺は意思表示をするぞー!うおー!」と決意するに至った理由,つまり動機のことです。
そして,『その認識(=認識している動機)が真実に反する』ことが必要ですので,意思表示をする決断に至った動機の認識が,実は間違っていると,動機の錯誤となります。
たとえば,Aさんが東京ディズニーシーのチケットを2枚安く譲ってくれると言ってきたが,Bさんが東京ディズニーランドなら行きたい!と思い,ランドのチケットだと勘違いして買うと意思表示したような場合です。
Bさんはディズニーランドのチケットなら欲しいという動機があったわけですが,この動機に対し,Aさんが売ってくれるチケットはディズニーシーのものであるので,Bさんが買おう!と思い至った動機について勘違いが発生しているのです。
このような動機の錯誤も,民法95条1項2号により,取り消しOKというルールになっています。
民法95条第2項
民法95条2項 【錯誤】
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる。
『前項第2号の規定』は動機の錯誤のことです。
つまり,民法95条1項によって取消しが認められている表示行為の錯誤と動機の錯誤のうち,動機の錯誤だけは,意思表示するに思い至った動機があらかじめ取引の相手に対して表示されていなければ,取消しができないということです。
民法95条2項 【錯誤】書き換えVer
2 動機の錯誤による取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる。
したがって,動機の錯誤は,取消すための条件が厳しくなっており,表示の錯誤よりも取消しが認められにくいルールとなっています。
なんで動機の錯誤は,動機をあらかじめ表示していないといけないんですか?
動機というのは,基本的には表意者の心の中にのみ存在するからです。
みなさんがコンビニに行って買い物するとき,「喉乾いたなぁ(動機)」と思ってコーラをレジに持って行った際,店員さんから「なんでコーラ買うんですか?」と,購入の動機を聞かれたことはありますでしょうか?
多分無いと思います。
私たちが生きる実社会において,取引を行う際,いちいち動機の確認を行う慣習はほとんどなく,表意者の心の中にしかない動機が表面化しないことがほとんどです。
そのため,動機の錯誤において,相手方としては錯誤の存在が目に見えないため,相手方が錯誤の存在に気付ける可能性はほぼゼロです。
それは,相手方からすれば”何ら異常なく,正常に取引は完了した”というふうに見えていることを意味します。
正常に取引は完了したと信じている相手方に,後から「実は動機の錯誤があったのよ~ん」みたいに民法95条1項2号を理由とした取消しに従わせるのは酷と言えます。
したがって,相手方が錯誤の存在に気付ける可能性を創り出すため,民法は95条2項で,動機の錯誤の取消しをする場合には,あらかじめ動機が相手方に表示されていないといけないこととしたのです。
一方で,表示行為の錯誤(95条1項1号)は,表示する行為に錯誤という勘違いミスがあるので,相手方が気付けるチャンスが多いです。
たとえば,打ち合わせでずっと売値1,000万円で話をしていたのに,いざ用意した契約書に100万円って書いてある(書き間違い=表示行為の錯誤)ようなら,錯誤が目に見えるカタチになっているため,錯誤発見チャンスがあるのです。
よって,表示行為の錯誤では,95条2項の要件は課されていないのです。
民法95条第3項
いったん,ここでここまでの話を,条文の個性名物の大胆に書き換えた条文を用いて整理しましょう。
民法95条 【錯誤】
1 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤表示の錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤動機の錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の動機の錯誤を理由とする取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができるだけOK。
↓
1 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものは,取り消すことができる。
一 表示行為の錯誤
二 動機の錯誤
2 ただし,動機の錯誤を理由とする意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときだけOK。
さて,続きである民法95条3項は以下のとおりです。
民法95条3項 【錯誤】
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,次に掲げる場合を除き,第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
この第3項なんですが...
「〇〇のとき,××の場合以外なら,△△できないよ。 肝心の××の場合は①と②で~…」というような,少し回りくどい言い回しになっているので頭に入って来にくいです。
なので,また乱暴ですが,条文を書き換えたいと思います。
民法95条3項 【錯誤】
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,次に掲げる場合を除き,第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
↓
3 原則として,錯誤が表意者の重過失によるときは,表示行為の錯誤又は動機の錯誤を理由とする取消しはできない。 ただし,例外として,以下の場合は取消しを認める。
一 相手方が表意者に錯誤があることについて悪意又は重過失のとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
民法は,95条1項で,基本的には錯誤での取消しを認めています。
つまり,民法はうっかりミスには寛大なわけです。
ところが,そんな寛大で優しい民法にも我慢の限界があり,表意者が重過失,すなわちワザとレベルでミスをした場合には,民法は取消しを認めません。
錯誤によって取消しを認めるということは,相手方は一旦成立した取引が後から無かったことにされます。
つまり,錯誤による取消し制度は,相手方を犠牲にしたうえで成り立っているのです。
このような事情の下,ワザとレベルと評価できる重過失がある表意者か,特に過失のない相手方を比較した際,やはり守るべきは相手方です。
よって,相手方を保護するため,表意者に重過失があるとき,錯誤による取消しを原則として認めていません。
民法95条3項 【錯誤】書き換えVer
3 原則として,錯誤が表意者の重過失によるときは,表示行為の錯誤又は動機の錯誤を理由とする取消しはできない。
(以下,略)
原則あるところに,例外があります。
たしかに,表意者に重過失があれば,基本的には取消しを認める必要はありませんが,以下の2ケースについては,相手方にも悪い点があるため,重過失で錯誤してしまった表意者にも錯誤取消しが認められます。
- ①:相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
- ②:相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
①:相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
このケースにおいて,相手方の悪い点は,表意者が錯誤に陥っていることを知っていたか重過失で知らなかった点です。
重過失=ワザと,なので実質的には,表意者が錯誤に陥っていることについて,相手方が知っていたケースと言えます。
表意者が重過失で錯誤に陥っていたのを,相手方は知っていたのであれば「勘違いしてますよ??」と教えてあげればよいだけです。
したがって,表意者に重過失があっても,相手方が錯誤について悪意又は重過失ならば,民法は取消しを例外的に認めます。
相手方が悪意又は“重”過失のとき…重過失の表意者は取消しができるのね…!
てことは,相手方が“軽”過失のときは…重過失の表意者は取り消せない!であってます?
合っています。
悪いヤツ度合いは,重過失の表意者>軽過失の相手方となりますので,相手方が錯誤の事実について軽過失で知らなかったときは,重過失の表意者は取消しできず,民法は相手方の味方をします。
②:相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
このケースの相手方の悪い点は,相手方も表意者と同じ勘違いをしていた!ですので,お互い様であり,この場合は引き分け! つまり,ドローです。
したがって,お互いに勘違いしていたのだから,時を巻き戻して,勘違いの無い取引をやり直せばええやんってことで,重過失の表意者に取消権が認められます。
民法95条第4項
さて,長い長い錯誤の解説もとうとう最後の項まで来ました。
(くどいかもしれませんが)ここまで学んだ内容を,書き換え後の条文を眺めて,もう一度俯瞰しましょう。
第95条 【錯誤】
1 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものは,取り消すことができる。
一 表示行為の錯誤
二 動機の錯誤
2 ただし,動機の錯誤を理由とする意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときだけ取り消すことができる。
3 意思表示は,錯誤が表意者の重過失によるときでも,以下の場合には,取り消すことができる。
一 相手方が表意者に錯誤があることについて悪意又は重過失のとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
3の2項 ただし,原則は,錯誤が表意者の重過失によるときの意思表示は取り消せない。
ここに,最後の第4項がくっつきます。
民法95条4項 【錯誤】
4 第1項の規定による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
『第1項の規定による』ですが,これは「表示行為の錯誤又は動機の錯誤を理由とする」,すなわち「錯誤を理由とする」と思って頂ければOKです。
民法95条4項 【錯誤】書き換えVer
4 錯誤を理由とする取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
すなわち,取消した者は”錯誤を理由に取り消したという事実”を善意無過失の第三者に主張できません。
”錯誤を理由に取り消したという事実”としているのは,そもそも第4項は,表意者が錯誤を理由として取り消した後の世界で活躍する条項であるためです。
つまり,表意者が錯誤を理由として意思表示(取引)を取り消した事実というのは,この世にたしかに存在するのです。
しかし,善意無過失の第三者に対しては,この世に存在するはずの”錯誤を理由に取り消した事実”を主張することができません。
よって,第三者との関係では,錯誤で取り消したはずの意思表示は,取り消されていない有効な意思表示として生き残り続けているのとして扱われます。
心裡留保や通謀虚偽表示では第三者対抗要件は善意である一方,錯誤では第三者に善意無過失まで要求されている理由はキチンと存在します。
この理由は,以下の記事でかなり詳細に解説していますので,このまま必ず読んでみてください。
意思表示の第三者対抗要件について暗記をする必要が無くなる,当ブログでもかなりのアクセスがある大人気記事です。
まとめ
最後に,民法95条【錯誤】の条文と,私が乱暴に書き換えたオリジナル条文を比較できるようにまとめとして書き並べておきます。
民法95条 【錯誤】
1 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,次に掲げる場合を除き,第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第1項の規定による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
第95条 【錯誤】書き換えたオリジナルVer
1 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものは,取り消すことができる。
一 表示行為の錯誤
二 動機の錯誤
2 ただし,動機の錯誤を理由とする意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときだけ取り消すことができる。
3 意思表示は,錯誤が表意者の重過失によるときでも,以下の場合には,取り消すことができる。
一 相手方が表意者に錯誤があることについて悪意又は重過失のとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
3の2 ただし,原則は,錯誤が表意者の重過失によるときの意思表示は取り消せない。
4 錯誤による意思表示の取消しは,善意無過失の第三者に対抗することができない。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
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※前条の解説はこちらです。
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参考文献など
参考文献
この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。
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最後まで読んでくださり,ありがとうございました。