第2節 意思表示

民法97条:意思表示の効力発生時期【到達主義はピストル理論で攻略しよう】

2021年11月24日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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今回は民法97条を3分でわかりやすく解説します。

※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語です
太文字は,解説中で大切なポイントです

 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

 相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。

 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

民法 第97条【意思表示の効力発生時期等】

 

条文の性格

民法97条は,タイムラグのある意思表示をどのように扱うかのルールを定めた条文です。

意思表示は言葉で伝えるだけでなく,場面によっては指で指し示すようなジェスチャーなどの方法ですることができます。

言葉やジェスチャーで意思表示する場合,基本的には意思表示の相手方は目の前にいるので意思表示した瞬間と相手が意思表示を受け取った瞬間が同時と考えられるので,意思表示のタイムラグを考える必要はありません。

ところが,意思表示は言葉やジャスチャー以外にも,手紙やLINEなどを利用した方法でも可能です。 そうなると多くの場合で,手紙やLINEなどの意思表示は送信から到達まで,短ければ数分~長ければ数日のタイムラグが存在します。

ここで問題となるのが,手紙ですと手紙をポストに投函→相手方のポストに手紙が到達→相手が手紙を読む,LINEですとメッセージを送信→未読の状態→相手が既読になる,というように意思表示の発信から到着までの一連の流れが存在する中で,一体どこで意思表示の効果を認めるかです。

意思表示はLINEを送った瞬間に効力を生じるのでしょうか? 未読でもメッセージ自体を相手が読める段階になった時? それとも,LINEを受け取った側が既読をつけて実際に読んだ瞬間でしょうか?

上記の問題に一定の答えを与えるのが97条の役割です。

その他,相手が意図的に意思表示を受け取ろうとしない,たとえばLINEを未読スルーなどした場合の意思表示の処理をどうするのかも,97条の役割です。(97条2項)

97条の内容の憶え方として,私が考えたピストル理論を紹介します。

(筆者のオリジナルの理論ですので,学校などで「ピストル理論で~…」などと言わないようにしましょう。 先生方から「なんだ,そのふざけた理論は!」と怒られるかもしれません。)

 

条文の能力

民法の意思表示は到達主義

民法において意思表示がその効力を発揮するタイミングは,原則として意思表示が相手方に到達した時です。 この考え方を到達主義といいます。

逆に,意思表示する側が意思表示をした瞬間に効力を認める考え方を発信主義といいます。

 

意思表示のピストル理論

97条はピストルと弾丸で考えるピストル理論で考えると理解しやすく憶えやすいです。

  • 意思表示する=ピストルで弾丸を発射する
  • 弾丸=意思表示
  • 弾丸が着弾(してダメージ発生)=意思表示の効果発生

以上の様に意思表示や弾丸がなどが対応すると考えてください。

 

弾丸着弾で意思表示の効果発生→到達主義

意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

民法 第97条1項

97条1項は到達主義をそのまま条文にしています

ピストル理論で考えてみます。

弾丸(意思表示)を発射しても,弾丸が空中を飛んでいる間はまだ相手に到達していないので,相手からしたらまだ何もダメージ発生(意思表示の効果発生)していないわけです。

ところが,弾丸が着弾した瞬間に,つまり相手に意思表示が到達した瞬間にダメージ(意思表示の効果)が発生するという理解です。

※到達主義には,相手方又は相手方の所在地が不明の場合に,意思表示ができないという欠点があります。 この欠点の補完は98条が担当しています。
 併せて読んで,理解を深めておきましょう!

 

弾丸着弾を意図的に阻止した場合→着弾したとして到達したとみなす

相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。

民法 第97条2項

場合によっては相手方がその意思表示を受け取りたくなくて,意思表示の通知(手紙など)の到達を妨げる場合もあり得ます。

たとえば,「金返せ!」というような自分に都合の悪い督促状を受け取りたくないから,意図的に督促状の郵便物の受取を拒否したような場合です。

この場合もピストル理論で考えてみましょう。

相手向かってピストルを発砲し,弾丸を発射したとして,弾丸が相手方を護る護衛の盾によって弾丸がはじかれてしまったとしても,弾丸はひとまず相手側の護衛に達して少なからず盾にキズを与えている効果(=ダメージ発生効果)を発生させているので,到達したとみなしてよい,という理解です。

護衛なんて大げさなものじゃなくても,防弾チョッキで考えてもOKです。

防弾チョッキによって相手方の肉体への弾丸到達が妨げられたとしても,弾丸が直撃して防弾チョッキが無傷はあり得ないので,到達したとみなしてよいとして憶えます。

ちなみに,97条2項は「みなす」なので覆すことのできない強力な効果です

本来は到達するべき意思表示を意図的に到達しないようにした人に反論や言い訳して言い逃れする余地を与えないためです。

※「みなす」と「推定する」の違いはこちらで解説しています

 

弾丸発射後にピストルが壊れても有効→発射した意思表示は有効

意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。

民法 第97条3項

97条3項は,意思表示を発射した時点で正常な意思能力を有していた場合は,発射後に意思能力を喪失してしまっても,既に発射済みの意思表示は有効と規定しています。

この97条3項も,ピストル理論で憶えてしまいましょう。

ピストルで弾丸を発射した際にピストルが壊れて(意思能力を喪失して)しまったとしても,既に発射した弾丸は正常に相手に向かって飛んでいることになります。

既に発射された弾丸(意思表示)にとっては,発射元のピストル(表意者)が壊れて(意思能力を失って)いても関係なく相手に向かって進むわけです。

そのため,発射後にピストルが壊れても,発射済みの弾丸が相手に着弾すれば有効にダメージ(意思表示の効果)が発生するという理解です。

※制限行為能力者についてはこちらで解説しています

 

相手のテリトリーに入ってしまえば到達扱い

民法が,原則として到達主義であることは前述しました。

では厳密にはどのような状態になれば到達したことになるのでしょうか?

借金の催促の督促状を受け取ったけど,見たくないから督促状を捨ててしまった場合は意思表示の通知は到達したのでしょうか? それとも読んでいないので未到達なのでしょうか?

手紙の場合ですと,意思表示を記した書面などが相手方の郵便受けやその家族,使用人の手もとに到達すれば足り,相手方がそれを読むなどして内容を理解することまでは必要ない,とされています。

つまり,相手のテリトリーにさえ意思表示の通知が入りこめば到達として扱われることになります。

そのため本記事の冒頭のLINEの場合は,何か特別な事情が無い限り「未読スルー」の時点で,意思表示の到達が認められると考えられます。

 

コメント

ちなみに,不可抗力で意思表示の通知が到達しなかった場合は,どうなるでしょうか?

この場合は,意思表示の効果は発動しないと考えられます

不可抗力とはいえ到達していない以上は97条1項の要件を満たしていないので本条1項は使えませんし,到達を相手方が妨げた事実もないので97条2項も使えないためです。

 

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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