今回は,法律用語の善意・悪意・善意有過失・善意重過失を徹底的にわかりやすく解説します。
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語です
※太文字は,解説中で大切なポイントです
法律の勉強の中で、1番有名な法律用語は善意と悪意だと思います。
日常用語の善意と悪意の意味とかけ離れているけど、法律用語としての善意と悪意もなんだがイメージしやすいので憶えやすい用語と思います。
ところが、ここに過失や重過失、”知り又は知ることができたとき”なんかが参戦してくると、ごちゃごちゃになって訳わかめになってきます。
キチンとこの辺りを整理して憶えておかないと,意思表示の第三者の対抗要件を丸暗記することになって地獄を見ます。
例えば,心裡留保に対する第三者は善意で保護されるのに対し、詐欺に対する第三者は善意無過失で保護される…と、微妙な規定の違いの丸暗記を強いられます。
実は,意思表示の第三者の対抗要件は暗記しなくても試験で解答できます。
「え?そこはテキストの表を見て暗記するんじゃないの?」って方は,今回の記事で,試験日当日にド忘れしても正解にたどり着ける魔法の図を紹介するので是非見て行ってください。
善意・悪意の理解は3つの図だけでOK!
まずは,以下の図たちを見てみてください。



これらを見て,元々少し勉強していて下地のある方で「あー!すっきりした!」と頭がクリアになった場合は,本記事での解説は終了です。
それだけ善意・悪意は,整理すればわかりやすい分野なのですが,いかんせん基本書などは文字でしか解説されてなくて,なんとなくわかったつもりになってしまいます…。
上図を見て,善意・悪意について完璧だぜ!って方は,上図を使った意思表示の第三者の対抗要件の問題の解き方を以下の記事で解説しているので,ぜひ読んでいってください。
図を見ても,腑に落ちない方は,ここから下に上図が作られる過程を書いておくので目を通してみてください。
まず大前提は、知らない・知っている
まず、「善意=知らない」,「悪意=知っている」です。
この、知らない/知っているの、善意/悪意の2分割は、善意悪意を理解するのにスーパー大前提ですのでしっかり抑えましょう。
ここで,より知らない方を大として不等号を使って,①善意>悪意としておきます。
(善意)重過失=ワザと知らない=知っているってことにする=悪意
さて、善意と悪意の2分割をしたら、次は重過失を憶えます。
重過失は、お前ワザとやっただろってレベルのミスによって知らない状態を指します。
敢えてキチンと書くと善意重過失です。
善意重過失も、厳密には知らない状態だから、知らないってことで、善意です。
ところが、民法をはじめ法律は、基本的に善意である人の味方をするように設計されています。
そのため、善意重過失を善意として扱ってしまうと,本当は知っているべき立場なのにワザと(=重過失で)知らない状態にすることで,法律によって護ってもらおうなんてことをする不誠実な人が保護されるなんてことになってしまいます。
よって、法律は、意図的にワザとミスして知らない(=善意重過失な)事態にした奴は、もう知ってる(=悪意)って事でいいよね、という扱いをします。
つまり、②(善意)重過失=悪意ということで、重過失は悪意に吸収されて,重過失は悪意と同じ扱いをします。
悪意の世界の話はここまでです。
善意は(軽)過失の有無で,善意無過失と善意有過失の2つに分かれる
さて、悪意の世界を離れて,次は善意ですが,善意は(軽)過失の有無で次の2つに分けることができます。
- ミスもなく、本当に何も知らなかった(善意無過失)
- ウッカリミスレベルの軽過失で知らなかった(善意軽過失)
つまり,③善意=善意無過失+善意軽過失といえます。
善意軽過失と善意無過失の意味はそれぞれ以下のとおりです。
善意無過失とは、完全に落ち度も無く、注意をしていたにも関わらず、知らなかった状態を指します。
善意軽過失とは、注意さえしていれば知ることができただろって状態を指します。
「注意さえしていれば知ることができた」とは、督促状を不注意で誤って他の郵便物と一緒に捨ててしまったが故に知らなかった様なパターンです。
ここで,善意の純度,つまりより「めっちゃ善意じゃん!」って順に並べると④善意無過失>善意軽過失ということになります。
①~④を合体
今まで出てきた①~④の大小関係を羅列すると以下のとおりです。
①善意>悪意
②(善意)重過失=悪意
③善意=善意無過失+善意軽過失
④善意無過失>善意軽過失
それぞれの式を順に合体させます。
まず,
①+②⇒善意>(善意)重過失=悪意
また,③善意=善意無過失+善意軽過失を①+②に代入して,
①+②+③⇒善意無過失+善意軽過失>(善意)重過失=悪意
最後に,④善意無過失>善意軽過失を加味して” 善意無過失+善意軽過失”を” 善意無過失>善意軽過失”に変換して
①+②+③+④⇒善意無過失>善意軽過失>(善意)重過失=悪意となります。
この 善意無過失>善意軽過失>(善意)重過失=悪意 の関係を図にしたのが冒頭に出したこの図です。

条文の"知り,又は知ることができたとき”の理解
令和2年の行政書士試験の記述式でも問われた民法96条2項に”知り,又は知ることができたとき~”という表現があります。
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
この表現は知っているか否かを表現しているので,善意・悪意についての条件を定めた言い回しなのですが,皆さんはこの表現がどのような範囲を言っているか正確に理解していますでしょうか?
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
民法 第96条【詐欺又は強迫】
まず,”知り,又は知ることができたとき~”の『知り』は知っている場合を指しているので悪意であることを言っているのは大丈夫と思います。
次に『知ることができたとき』は,「現状はその事実を知らない(善意である)けど,お前知ってないとおかしいよね? 過失で知らなかった? 言い訳すんな,知るチャンスあったやろ」というニュアンスで,『知ることができたとき』=善意有過失=善意軽過失+善意重過失を指します。
整理すると”知り,又は知ることができたとき~”は”悪意or善意軽過失or善意重過失のとき~”ということになります。
これを,善意悪意の理解の時に使った図をベースにして図解すると下図のようになります。

まとめ
最後に,今回作った図を並べると次の様になります。


上記の2つの境界線には位置に差があることはしっかり認識しておいてくださいね。

なんだか今回は,数学みたいな解説になってしまいました…。
今回作成した図を使って頭の中の整理を是非して頂ければ嬉しいのですが,実は今回作った図を使用すると,意思表示の第三者の対抗要件の問題を暗記しなくても解けるようになります。
せっかく最後まで読んでくださったので,是非以下の記事も目を通して,暗記に頼らない,図を使った解答法もマスターして頂ければと思います。