本記事では,民法96条の詐欺・強迫における,法律行為の取消し可否について,わかりやすく解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 民法の詐欺・強迫時に,法律行為を取り消せるパターンがわかる
- 民法96条の条文を深く読み込んで,規定を基礎から理解できる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人が記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
【結論】瑕疵ある意思表示の詐欺・強迫は,原則取り消せる
民法96条 【詐欺又は強迫】
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
意思表示を行うに際して,詐欺や強迫があった際に,不本意な意思表示をした本人が,その意思表示を取り消すための条件が定められた条文です。
詐欺・強迫は瑕疵ある意思表示と呼ばれ,原則・例外・vs第三者は以下のとおりです。
※以下に記載する【詐欺・書き換えVer】【強迫・書かれざる条文追記Ver】の条文の作り方は,解説フェーズで言及します
【詐欺】
- 原則:取り消せる
- 例外:第三者が詐欺した場合,相手方が詐欺について悪意又は有過失なら取り消せる
- vs第三者:取消し前の第三者に対しては,本人は取り消しを対抗できない
民法96条【詐欺/書き換え】
1 詐欺による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方が悪意又は有過失のときのみ、その意思表示を取り消すことができる。
3 相手方の詐欺・第三者の詐欺を理由に意思表示を取り消したいという主張は、善意無過失の第三者に対してすることができない。
【強迫】
- 原則:取り消せる
- 例外:なし
- vs第三者:取消し前の第三者に対しても無条件で対抗できる
民法96条 【強迫/書き換え】
1 強迫による意思表示は、取り消すことができる。
(2 相手方に対する意思表示について第三者が強迫を行った場合においても、その意思表示を取り消すことができる。)
(3 強迫による意思表示の取消しは、どのような第三者にも対抗することができる。)
【解説】強迫については反対解釈を用いる
詐欺・強迫とは?
詐欺とは,欺罔行為(嘘を伝えたり,相手が勘違いしているのに真実を伝えないなど)によって,相手を錯誤(勘違い)状態にさせることです。
強迫とは,他人に害悪を告知し,他人に畏怖を与えることによって,他人に望まない意思表示をさせることです。
本条は,詐欺や強迫によって行われた意思表示(契約など)をどのように扱うかについてのルールを規定しています。
民法における,意思の欠缺・瑕疵ある意思表示群の仲間です。
- 心裡留保 民法93条
- 通謀虚偽表示 民法94条
- 錯誤 民法95条
- 詐欺 民法96条
- 強迫 民法96条
非常に優れた書かれ方がされている民法96条
私的な感情になって大変申し訳ないのですが,個人的に民法96条は非常に優れた構成で書かれていると思っています。
法律系資格試験においては,「条文を素読しましょう。」と良く言われますが,この民法96条が,条文の素読の練習として,民法の中で最もふさわしいと,筆者は考えています。
というのも,本条の条文は,反対解釈などを駆使して,詐欺と強迫の2つのルールを,民法96条という,ひとつの条文中に,綺麗にまとめあげているからです。
この点にも触れながら,以下に民法96条を整理していきます。
民法96条の文言を,①詐欺について書かれている部分を青文字に,②強迫について書かれている部分を赤文字に,2つに分割したいと思います。
民法96条 【詐欺又は強迫】
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
こうして条文を眺めてみますと,民法96条は,詐欺と強迫について定めている条文なのですが,実は,強迫について言及しているのは,民法96条1項のみであることがわかります。
すなわち,民法96条2項と3項は,詐欺についてしか言及していないのです。
では思い切って,民法96条を,詐欺Verと強迫Verに分離してみましょう。
民法96条【詐欺/書き換え】
1 詐欺による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方が悪意又は有過失のときのみ、その意思表示を取り消すことができる。
3 相手方の詐欺・第三者の詐欺を理由に意思表示を取り消したいという主張は、善意無過失の第三者に対してすることができない。
民法96条 【強迫/書き換え】
1 強迫による意思表示は、取り消すことができる。
分離したことで,見通しが良くなったと思います。
それでは,ここからは分離した条文をもとに,詐欺・強迫のそれぞれについて,詳しく見ていきましょう。
原則:民法96条1項(相手方の詐欺)
民法96条1項【詐欺】
1 詐欺による意思表示は、取り消すことができる。
民法96条1項にズバリそのまま書かれている通り,(相手方から)詐欺をされたことによる意思表示(契約など)は,“無条件で”取り消すことが出来ます。
詐欺を行い,騙してきた人(相手方)を保護する必要は全くないので,取り消すために必要な条件は何も課されていません。
よって,事例のブチギレた女性がやっているように,相手方が詐欺してきた場合は,無条件で取り消すことができます。
これが詐欺の大原則です。
まずはこの大原則をしっかり理解することが,詐欺の全体像を把握することへの第一歩となります。
しつこいようですが,この「相手方が詐欺してきた場合は,無条件で取り消せる」の原則は,ここで絶対に頭に叩き込んでおいてください。
この大原則には民法96条2項と3項の,ふたつの特則(例外)が用意されています。
詐欺は無条件で取り消せるという民法96条1項(相手方の詐欺)の大原則に,2項と3項の特則(例外)がぶら下がっている,という条文の構成はしっかり頭に入れておいてください。
特則1:民法96条2項(第三者の詐欺)
民法96条2項 【詐欺】
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
契約をした本人と相手方以外の,第三者が本人に対して詐欺をはたらいた場合が,民法96条2項の出番です。
(さきほどの民法96条1項は,相手方が詐欺してきた場合の条文です。 詐欺をした人が誰なのかで,適用条文が違いますので注意しましょう。)
結論から言いますと,第三者が本人に詐欺した場合は,無条件では取り消せず,相手方が詐欺の事実について悪意又は有過失のときのみ取り消すことができます。
なぜ,相手方が詐欺した場合は契約などを無条件で取り消せるのに,第三者が詐欺した場合は条件が課されているのか,条文を読み込みながら,紐解いていきましょう。
条文中の『相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り』は,『相手方が悪意又は有過失のときのみ』に言い換えることができます。
※ここの言い換えがなぜ成立するのかわからない方は,こちらの記事を確認してください。 条文の個性の中でもかなりアクセスがある非常に人気の解説です。
上記の言い換えを条文に適用してみると,以下の様になります。
民法96条2項 【詐欺又は強迫】
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り悪意又は有過失のときのみ、その意思表示を取り消すことができる。
↓書き換え
民法96条2項【書き換え】
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方が悪意又は有過失のときのみ、その意思表示を取り消すことができる。
また,『相手方が悪意又は有過失のときにのみ,その意思表示を取り消せる』というのを反対に解釈すると,『相手方が善意無過失のときのみ,その意思表示を取り消せない』になります。
したがって,本来の民法96条2項は“意思表示を取り消せない”をベースに書かれていますが,“意思表示を取り消せる”をベースに考えた場合は以下のとおりになります。
民法96条2項【書き換え】
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方が善意無過失のときは、その意思表示を取り消すことができない。
論理的にはどちらも同じことを言っていますので,好きな方で憶えればOKです。
ではなぜ,相手方が詐欺した場合(1項)は無条件で取り消せるのに,第三者が詐欺した場合は(2項)は“相手方の悪意又は有過失”という,取り消すための条件が設けられている理由はなぜなのでしょうか?
答えは,本人・相手方・第三者のうち誰を保護すべきか,についてバランスを取っているためです。
民法96条1項のように,取引の相手方が詐欺をはたらいた場合は,契約を取り消されても詐欺をした相手方が悪いので,取り消されて勝手に困っとけという感じです。
ところが,96条2項では,詐欺したのは第三者であり,相手方は詐欺をしていません。
第三者が詐欺した場合に,誰が悪くて,誰が悪くないのかについて,確認していきましょう。
まず,詐欺をした第三者はクソ野郎なので保護する必要はありません。
すると,民法は「詐欺で騙された本人」と「相手方」の,どっちを保護してあげるのか決める必要があります。
ここが民法の辛いところですよね…。 どっちも悪くなかったとしても,必ず白黒つけて,どちらかの味方になって,保護してあげなければいけないからです。
「詐欺で騙された本人」と「相手方」のどっちに味方するか…。
民法は,“相手方が詐欺の事実を知っていたか,又は,気付くことができたか”を基準に決めることにしたのです。
相手方が詐欺の事実について悪意又は有過失
第三者が,本人に対して詐欺をして騙そうとしている事実について,相手方が悪意又は有過失(すなわち,知っていた又は気付けた)場合には,民法は「詐欺で騙された本人」の味方をします。
つまり,「詐欺で騙された本人」は,詐欺されたせいで行った意思表示を取り消して,取引(契約)を無かったことにできます。
相手方は詐欺の事実について知っていたのですから,倫理的・道義的に,本人に対して取引の中止を進言すべきであったと言えます。
もしも,詐欺の事実を知っているのに,相手方が取引に及んだ場合,キツイ言い方をすれば,相手方は詐欺に加担したとも言えます。
また,相手方は詐欺の事実について気付けた(有過失)の場合でも保護されません。
ちょっと酷かもしれませんが,“気付けた(有過失)”の裏側には,少し注意を働かせれば詐欺を防げたはずだ,という事情が存在します。(例えば,相手方から見えるところで,第三者が書類を偽造していた,など。)
そのため,「詐欺発生について,気付けたはずなのに見落とした点を過失と考え,相手方の責任がある」というのが民法のスタンスです。
以上のことから,相手方が詐欺の事実について悪意又は有過失である場合は,民法としては「騙されただけの完全な被害者である本人に味方し,取消権を認める!」という立場を取ります。
民法96条2項【書き換え】
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方が悪意又は有過失のときのみ、その意思表示を取り消すことができる。
相手方が詐欺の事実について善意無過失
第三者が,本人に対して詐欺をして騙そうとしている事実について,相手方が善意無過失である場合には,民法は「相手方」の味方をします。
つまり,「詐欺で騙された本人」は,詐欺されたせいで行った意思表示を取り消すことができず,「相手方」は取引(契約)を有効なものと扱うことができます。
善意無過失である相手方は,詐欺の事実について,全く知らなかった上に,無過失(詐欺に気づく可能性も無かった)わけです。
したがって,善意無過失の相手方は,詐欺事件に巻き込まれただけの完全に可哀そうな人です。
対する「詐欺で騙された本人」も,第三者に詐欺をされた被害者であり,やっぱり可哀そうな立場にいます。
相手方が詐欺について善意無過失だった場合,本人も相手方も,可哀そうな立場にいることになります。
この場合,民法は「騙された本人に落ち度がある」と考えます。
つまり,「詐欺で騙された本人」は,“騙された”という点で不注意であり,過失があると民法は考えるのです。
したがって,騙された本人はたしかに可哀そうではあるのですが,だからと言って,善意無過失の相手方を犠牲には出来ないということです。
以上のことから,相手方が詐欺の事実について善意無過失である場合は,民法としては「全く非が無い相手方と比べ,騙された本人は不注意だったという過失があるので,取消権を認めない!」という立場を取ります。
民法96条2項【書き換え】
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方が善意無過失のときは、その意思表示を取り消すことができない。
特則2:民法96条3項(善意無過失の第三者への対抗不可)
民法96条3項 【詐欺】
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
民法96条3項を色々とわかりやすい表現に言い換えてみましょう。
『対抗することができない』と出てきたら,「主張を押し通すことができない」と,頭の中で変換するとよいです。
『前二項の規定による詐欺による意思表示の取消し』は,「相手方の詐欺・第三者の詐欺を理由に意思表示を取り消したいという主張」に言い換えられます。
これらを条文にあてはめてみましょう。
民法96条3項 【詐欺】
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消し相手方の詐欺・第三者の詐欺を理由に意思表示を取り消したいという主張は、善意でかつ過失がない善意無過失の第三者に対抗対してすることができない。
↓ 書き換え
民法96条3項【書き換え】
3 相手方の詐欺・第三者の詐欺を理由に意思表示を取り消したいという主張は、善意無過失の第三者に対してすることができない。
初学者の方は,この民法96条3項だけを読んでも正直ピンとこないと思います。
というのも,民法96条3項が活躍する場面を正確に理解するには,適用場面を,ちゃんとイメージしないといけないからです。
では,民法96条3項が活躍する状況を事例に沿って確認していきましょう。
まず,前提として,以下の3つが発生していることが必要です。
- 相手方又は第三者の詐欺による取引が発生している
- 全く事情を知らない(善意無過失の)第三者が,取引関係に入ってきた
- 本人が詐欺を理由に取引を取り消したいと考えている
このとき,詐欺を理由として①の取引を取り消して無かったことにして,相手方に渡してしまった所有権を取り戻したいのが,本人の立場です。
本人と相手方の①の取引が取り消され,無効となれば,相手方はブランド品の所有者では無くなるので,第三者は相手方からブランド品の所有権を手に入れることは出来なくなります。
これは,善意無過失の第三者からしたら,手に入れることができたと思っていたブランド品が手に入らなくなるので,第三者としては避けたい事態です。
対する,詐欺なんてしらねーよ!と,本人と相手方の①の取引は有効として確定して欲しいのが,善意無過失の第三者の立場です。。
本人と相手方の①の取引が有効ならば,ブランド品の所有権は有効に相手方に移るため,②の売買取引により,その相手方から有効に所有権を手に入れることが出来ます。
これは,詐欺された本人からすれば,騙された被害者なのに,ブランド品が手元に返ってこないことを意味するので,本人としては回避したい状況です。
以上のように,詐欺による取引発生という大事件が発生した後に,“その詐欺による取引が有効だと信じて”新たに取引関係に第三者が入ってきてしまうと,上記のような利害が対立する事態が発生することになります。
つまり,"取引を取り消したい本人" vs "取引を取り消されたくない第三者" の戦いです。
ここでもまた,民法はどちらかの味方をしなければいけません。
この場合,民法は「全く事情を知らなかった(善意無過失の)第三者からすれば,後から詐欺がどうのこうので手に入れた物を失ったら困るよね。」という判断基準を採用し,善意無過失の第三者の味方をすることとしています。
つまり,第三者に全く落ち度が無い(善意無過失)ならば,騙されたという落ち度がある(有過失の)本人は,詐欺を理由に取り消しができないということです。
本人は相手方との①の取引を取り消せないので,手放したブランド品は諦めるしかありません。
そして,このルールを定めているのが民法96条3項です。
民法96条3項【書き換え】
3 相手方の詐欺・第三者の詐欺を理由に意思表示を取り消したいという主張は、善意無過失の第三者に対してすることができない。
詐欺の解説はここまでです。 引き続き強迫を確認しましょう。
※本人が第三者に対抗できる要件が「善意」なのか「善意無過失」なのかについて,暗記しなくても憶えられる考え方を,以下の記事で解説しています。 超人気記事ですので,ぜひ読んでいってください。
原則:民法96条1項(強迫)
民法96条 【強迫/書き換え】
1 強迫による意思表示は、取り消すことができる。
民法96条1項により,強迫による意思表示は無条件で取り消すことが出来ます。
条文に書かれていることそのままですね。 これが強迫による意思表示の原則となります。
民法96条2項と3項は,詐欺についてしか言及していないので,強迫で憶えるのはこの原則のみということになります。
強迫の書かれざる条文
え,詐欺の場合のように,第三者が強迫したときや,強迫による取引の後に第三者が取引関係に入ってきたときは,どうなるんですか?!
そのような場合,本人は強迫による取引を取り消せるの?取り消せないの?
そうですよね,そのような疑問が湧くと思います。
詐欺の場合は2項・3項と長々と条文も,解説もあったのに,強迫は1項のみと,ずいぶんとスマートですよね。
結論から言うと,「強迫の場合は,いつでも無条件に取り消せます」。
第三者が強迫しようが,強迫の事情を知らない善意無過失の第三者が取引関係に入ってきたとしても,民法は常に,強迫された人の味方であり,無条件の取消権を本人認めます。
強迫というのは非常に悪質な手段であるので,厚く保護しようという民法のスタンスです。
でも,第三者が強迫しようが,強迫の事情を知らない善意無過失の第三者が取引関係に入って来ようが,いつでも取り消せるなんて,条文のどこにも書いてなくない?
実はその通りで,どこにも書いてありません。
では,なぜ強迫による意思表示の取消は,無条件にいつでも出来て,善意無過失の第三者にも対抗できるのでしょうか?
その根拠は,「民法96条は, 2項3項で詐欺については取消要件や第三者対抗要件に言及しているのに,強迫については何も言っていないから」です。
民法96条は,以下のような論理の流れで書かれています。
民法96条1項「相手方がした詐欺と強迫は,無条件で取り消せるよ。」
↓
民法96条2項「でも,詐欺は,第三者がした場合は相手方が悪意又は有過失のときだけ,取り消せるよ。」
↓
民法96条3項「あと,詐欺について善意無過失の第三者が取引関係に入ってきた場合は,第三者が善意無過失のときは,取り消しを主張できないよ。」
つまり,以下のようなロジックです。
- ロジック①:1項で,詐欺と強迫の“両方とも”,無条件で取消しできると言っている。
- ロジック②:対して,2項と3項は,詐欺と強迫のうち,“詐欺のときに限っては”,取消しなどするのに条件が設けられている。
ロジック②の「詐欺と強迫のうち,詐欺のときに限っては,取消しなどするのに条件が設けられている。」を反対解釈すると,
「詐欺と強迫のうち,強迫の場合は,取消しなどするのに条件は何もないよ」
という解釈ができます。そして判例・学説はこの解釈を採用しています。
冒頭で,私が民法96条は非常に優れた構成で書かれている,と言ったのはこの点にあります。
詐欺と強迫が,ひとつの条文に書かれているのを利用して,強迫については何も言及していないのに,2項3項を反対解釈させることでルールを導いています。
つまり,強迫には“書かれざる条文”が存在するのです。
条文の素読の面白さを感じられる素晴らしい条文だと思います。
最後に,強迫の条文に“書かれざる条文”として,2項3項を追記しておきましょう。
民法96条 【強迫/書き換え】
1 強迫による意思表示は、取り消すことができる。
(2 相手方に対する意思表示について第三者が強迫を行った場合においても、その意思表示を取り消すことができる。)
(3 強迫による意思表示の取消しは、どのような第三者にも対抗することができる。)
まとめ
お疲れ様でした! ずいぶんと長い記事になってしまいました...。
最後に,本来の条文と,分解した条文とをまとめておきます。
民法96条 【詐欺又は強迫】
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
民法96条【詐欺/書き換え】
1 詐欺による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方が悪意又は有過失のときのみ、その意思表示を取り消すことができる。
3 相手方の詐欺・第三者の詐欺を理由に意思表示を取り消したいという主張は、善意無過失の第三者に対してすることができない。
民法96条 【強迫/書き換え】
1 強迫による意思表示は、取り消すことができる。
(2 相手方に対する意思表示について第三者が強迫を行った場合においても、その意思表示を取り消すことができる。)
(3 強迫による意思表示の取消しは、どのような第三者にも対抗することができる。)
本記事で学習した内容の総復習に使ってください。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。
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参考文献など
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