引渡しで一番有名(?)な,占有改定がどのようなものなのか教えてください。
そもそも,占有改定がどのような引渡しなのか自体,難しくてよくわかりません...。
本記事では,民法183条の,占有改定について,ノートと天使の(デ○ノート)事例を用いて,わかりやすく解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 占有改定がどのようなものなのかが理解できる
- 占有改定の特徴が理解できる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人が記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論:占有改定は,所有者が目的物を手元に残したまま,占有を他者に移す移転
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
民法183条 【占有改定】
ウルトラスーパー理解しにくい条文だと思います。
民法183条は,4パターンある引渡しのうちのひとつである,占有改定という引渡し方法を規定しています。
【引渡し4パターン】
- ①:現実の引渡し (民法182条1項)
- ②:簡易の引渡し (民法182条2項)
- ③:占有改定 (民法183条)
- ④:指図による占有移転(民法184条)
占有改定とは,所有者が目的物を手元に残したまま,意思表示のみで占有を他者に移すというものです。
↓
占有改定は,物の移動は無く,外形上・客観的に占有の移転を証明するものが存在しないという特徴があります。
引渡しの4パターンは必ず横断理解しておきましょう。
解説:占有改定は,外形上全く変化が起こらない
事例の説明
前述でも記載しましたが,占有改定は引渡し方法の一種であり,所有者が目的物を手元に残したまま,占有を他者に移すというものです。
概念自体はそんなに難しくないのですが,とにかく条文がわかりにくいせいで,簡易の引渡しとごっちゃになる方が多いです。
そこで,この記事では,”名前を書かれた人が生き返るノートをめぐる人々の物語”のストーリーに沿って,占有改定の図解をしたいと思います。
出来の悪い小説を読んでいるつもりで是非読んでみてください。
(あまりにわかりずらい場合は将来書き直します。)
事例のあらすじ
【スーパー大雑把なあらすじ】
名前が書かれた人は生き返るという魔法のようなノートを拾ったAさんは,過去の偉人たちを生き返らせて,より良い世の中にしようとしていました。
しかし,人を生き返らせすぎたため,地球の人口増加が止まらず,食糧不足など,深刻な事態を招いていた...。
そこに,数々の難事件を解決していた探偵が現れて...。
名前が書かれる人は生き返るノートをめぐる物語 あらすじ
ふたつだけ,知っておいて欲しい設定があります。
【知っておいて欲しい設定】
- ノートには必ず1体の天使がセットになっていて,この天使は必ずノートの“所有権者”に憑いていなければならない
- ノートに触れている(直接占有している)者か,ノートの所有者でなければ天使を見ることができない
なんか...どこかで見聞きしたことあるような設定な気が...?
。。。気のせいかと...笑
登場人物
事例の前に,登場人物を整理しておきます。
Aくん:今現在のノートの所有権者です
Bさん:Aくんの彼女で,Aくんの偉人生き返り計画に賛同しています。
探偵Cくん:数々の難事件・殺人事件を解決してきた名探偵。 事件の被害者を生き返らせたいと思っています。
ノート:名前を書かれた人は生き返ります。
ノートの天使:ノートの所有者に憑く精霊です。 この記事での天使は,ノートの『所有権』です。
この記事では,所有権者に憑いていなければいけない天使は,所有権と思ってください。
占有改定の概念
この登場人物たちのもとで以下のような状況とします。
今はAくんがノートを占有・所有しているので,所有権である天使はAくんに憑いています。
さて,ここで,Aくんが「Bさんにノートを,占有改定で引き渡す。」と意思表示しました。
すると,どうなるでしょうか?
ノートの所有権はBさんに移りますので,天使(所有権)はBさんに憑くことになります。
一方で,目的物であるノートは依然としてAくんの手元に残っています。
これが占有改定です。
占有改定では,目的物であるノートは元々の所有者であるAくんのもとから全く動くことなく,所有権だけがBさんのもとに移ります。
メリットは,Aさんは所有権を失っても,引き続きノートを使用し続けられる点です。
所有権という天使が移動したことで,”占有権”はどのような状況になっているか,確認してみましょう。
占有改定後の占有権は以下のとおりになっています。
Bさんは,ノートの所有権を得たことで,Aくんを代理占有人とした間接占有権を取得します。
Aくんは,所有権者ではありませんが,ノートを所持していますので,占有改定前から変わらず直接占有権を保持しています。
つまり,占有改定では,直接占有権に変化はなく,間接占有権だけが意思表示によって移転することになります。
占有改定の弱点:外形上,誰が所有権者なのか分かり辛い
ここから,占有改定の弱点を見ていきます。
先ほどの,AくんからBさんへの占有改定による占有移転の事例の話は一旦リセットしてください。
占有改定があったかもしれないし,なかったかもしれない,そんなまっさら状態に心を一旦リセットして,先を読み進めてください。
ここで,憶えおいて欲しい設定の2つ目を思い出してください。
【知っておいて欲しい設定】
- ノートには必ず1体の天使がセットになっていて,この天使は必ずノートの“所有権者”に憑いていなければならない
- ノートに触れている(直接占有している)者か,ノートの所有者でなければ天使を見ることができない
つまり,直接占有している者か,ノートの所有者でなければ,天使(=所有権)は今,誰のところにいるのか分からないのです。
ここで,数々の難事件を解決してきた探偵Cくんが,人を生き返らせることができるノートの存在を耳にします。
探偵Cくんは,事件を解決する中で,犠牲になった被害者を生き返らせたいと思っており,このノートを手に入れようと考え,Aくんの元にやってきました。
探偵Cくんは,“正当な手段”(売買や譲渡)でノートを手に入れたいと考えています。
そのため,探偵Cくんは,ノートの所有者と交渉をすることにしました。
もちろん,探偵Cはノートの直接占有者でも無いし,所有者でも無いので,天使=所有権は見えません。
では,皆さんも探偵Cくんの立場になって,次の質問の答えを考えてみてください。
【質問】
今,ノートの天使(=所有権)は,誰のところにいますか?
Aくんが所有者でしょうか?
じゃあ,Bさんが所有者でしょうか?
どうやらAくんは,ノートを手放したくないようですね。
天使=所有権が目に見えないことをいいことに,占有改定があったのかどうかあやふやにする...。
実はこれが占有改定の特徴であり,弱点でもあります。
占有改定は,元々の所有者の手元から目的物(ノート)が動かず,さらに当事者(Aくん&Bさん)以外に占有移転に関わった人がいないので,占有移転の事実を証明できるものが存在しないのです。
したがって,新たに取引関係に入ろうとする第三者(探偵Cくん)は,取引相手を誰にすればいいのか分からず,取引相手を誤るおそれが大きいのです。
現実の引渡しでは,物の実際の移転により,外形的に占有移転の事実が判断できます。
また,現実の引渡し後は,直接占有者=所有権者であるため,直接占有者と取引を行っても第三者が不利益を被ることはありません。
簡易の引渡しでは,物の移転こそありませんが,引渡し後に直接占有者=所有権者が成立しているので,直接占有者と取引を行っても第三者に不利益は発生しません。
指図による占有移転では,物の移転は無いですが,占有代理人に聞けば,現在誰が所有権者なのか証言が取れるので,第三者は不利益発生を回避できます。
ところが占有改定においては,前述のとおり,物の移動は無いし,占有移転を証言してくれる者も存在しません。
その意味で,占有改定は,非常に“危うい”移転方式であり,『弱い』引渡しと言えるのです。
所有権は目に見えない
本記事では,ノートに関わっていない人の目には見えない天使を,所有権というものに置き換えて解説していますが,実はこれにはちゃんと意味があります。
というのも,民法における所有権という権利も,天使同様,人間の目には見えないのです。
今までの人生で,所有権を目で見たことのある読者の方はいますでしょうか?
登記簿で見た!という方もいらっしゃるかもしれませんが,登記簿の記載は所有権ではありません。
登記簿は,所有権の存在を証明しているだけであって,登記簿の記載が所有権そのものではないのです。
つまり,私たちが日々勉強している所有権は,目に見えない存在なのです。
したがって,目には見えない所有権を自身が有していることを証明することは,実は結構大変なことなのです。
「皆さんの財布の中に入っている小銭・お札の所有権を証明してください」と言われたとします。
どうやって証明しますか?
…結構難しいですよね。
そのため,社会生活上の全ての取引において,自身に所有権があることを証明する義務を負わせると,経済活動が滞るほど重い負担になります。
そこで民法は,民法188条で占有者に対して正当な所有権があることを推定したり,民法192条で即時取得制度を用意したりして,動産取引において,所有権の証明義務を排除し,取引を円滑に行えるようにルールを整備しています。
「所有権は目に見えない」という(やっかいな)性質が,本記事の占有改定で少し顔を出しましたので,補足で説明いたしました。
行政書士・宅建対策としては,「所有権は目に見えない」という側面だけ認識しておけばOKかと思います。
条文を整理
占有改定の概要が理解できたところで,民法183条の条文を整理しておきましょう。
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。
民法183条 【占有改定】
う~ん…相変わらず少し分かりにくい条文ですね。
まず,条文中の『代理人』というは,占有改定が発生した後に占有代理人になる人のことで,本記事のノートの事例でいうところのAくんです。
次に,条文中の『本人』は,占有権を新たに取得する人のことで,本記事のノートの事例でいうところのBさんです。
民法183条の『代理人』をAくんに,『本人』をBさんに置き換えてみると,すごくイメージしやすくなります。
代理人Aくんが自己の占有物ノートを以後本人Bさんのために占有する意思を表示したときは、本人Bさんは、これによって(①所有権+)②間接占有権を取得する。↓
Aくんが自己のノートを以後Bさんのために占有する意思を表示したときは、Bさんは、これによって(①所有権+)②間接占有権を取得する。
民法183条 【占有改定】 ノート事例Ver
つまり,Aくん(占有改定後に占有代理人になる人)が自己のノートを以後Bさん(新たな所有者)のために占有する意思を表示したとき,
↓
これによって,Bさん(新たな所有者)は、(①所有権+)②間接占有権を取得します。
どうでしょうか?
民法183条は,少し難しい言い回しをしていますが,規定している内容自体はそんなに難しいものではありません。
“引渡し”の横断理解をしておきましょう
民法では,4種類の引渡し方法を認めています。
【引渡し4パターン】
- ①:現実の引渡し (民法182条1項)
- ②:簡易の引渡し (民法182条2項)
- ③:占有改定 (民法183条)
- ④:指図による占有移転(民法184条)
本来の意味の『引渡し』は,現実の引渡しのみですが,常に物を移転し合うことでしか占有移転できないとなると大変不便です。
そこで民法は,意思表示のみで占有移転できるように,簡易の引渡し・占有改定・指図による占有移転の3つを認め,引渡しの利便性を向上させました。
しかし,現実に物が移動しない意思表示のみでの占有移転方式たちは,利便性を向上させた一方で,それぞれに弱点があります。
それぞれの弱点を整理した表が以下です。
“引渡し”の学習は,4パターンのそれぞれの弱点を横断理解しておくと学習効率が大幅に上がります。
引渡しの横断理解は以下の記事で解説していますので,ぜひ併せて学習してみてください。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※占有改定は”権利は目に見えない”という性質のせいで,初学者の方が理解につまづきやすいのです。 ”権利は目に見えない”という点をしっかりおさえていれば,簡単に理解できる概念に”登記の公示力と登記の公信力”という概念があります。 以下で解説してますので,是非あわせて読んでみてください!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。
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参考文献など
この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。
行政書士合格を目指す方必見!
筆者が,行政書士試験に,4ヶ月の独学で・仕事をしながら・202点で一発合格したノウハウや勉強法,使用書籍を無料公開しています。
特にノウハウ集は,有料note級の1万2000文字以上の情報量で大変好評なので,是非読んでみてください!
最後まで読んでくださりありがとうございました。