第1節 占有権の取得

【横断理解】即時取得や質権設定の引渡しに,なぜ占有改定は含まれない?

2022年4月21日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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ウリム

民法の勉強をしていると,即時取得や質権設定の場面で,ことごとく占有改定が仲間はずれにされてるんだけど,なんでなん?

本記事は,以上のような疑問を抱いている方にむけて,なぜ占有改定は仲間はずれにされがちなのか,について解説しています。

本記事では,以下を達成できるように執筆しています。

  • 引渡し4パターンの特徴を横断理解できる
  • 即時取得や質権設定のにおける”引渡し”に,占有改定が含まれない理由がわかる

 

記事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログ管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち

 

読者さんへの前置き

赤文字は,行政書士・宅建・公務員試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

結論:占有改定だけ,物の移動も無く,占有移転を客観的証明できない

民法182条(現実の引渡し・簡易の引渡し)183条(占有改定)184条(指図による占有移転)にて,民法は占有の移転方法を4パターン認めています。

占有移転の4パターンは,以下の表のとおりです。

民法・引渡し4パターンの特徴一覧表
民法・引渡し4パターンの特徴一覧表

4パターンの占有移転のうち,占有改定だけは,物の移動が無く,占有の移転を客観的に証明できるものも存在しません

その意味で,占有改定は非常に『弱い』移転です。

この『弱さ』が影響し,取引の安全保護の要請の強い即時取得や,質物の占有継続が要件である質権において,仲間はずれにされがちな結果となっています。

 

解説:占有改定の特異さをしっかり理解する

民法が認めている占有移転4パターンが,それぞれどの様なものなのかについての詳細解説は,別の記事に譲ります。

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この記事では,4種類存在する占有移転方法のうち,占有改定がかなり異質な存在であることにフォーカスして見ていきましょう。

4種類の占有移転方法の特徴を,表にまとめると,以下のとおりです。

民法・引渡し4パターンの特徴一覧表
民法・引渡し4パターンの特徴一覧表

 

本記事では,表にも記載されていますが,以下の3点に沿って,引渡し4パターンを詳しく見ていきます。

  • 観点①:物の移動
  • 観点②:占有の移転という事実を客観的に証明するもの
  • 観点③:当事者以外の第三者から見た"占有者=所有者"という外観

 

この3つの観点に沿って,引き渡しを学んでいくことで,即時取得や質権設定のおいて,占有改定が含まれないという結論がわかるようになります。

 

『物の移動』の観点

まず,少し意外かもしれませんが,”引渡し”という名前の行為なのに,物が人から人へ手渡され,現実に物が移転するという行為は,現実の引渡しでのみ発生します

引渡し・物の移動

引渡しと言っているのに,実際に「はい,これ」と,現実に相手に対して渡すという行為は,現実の引渡しのみなのです。

(そういう意味で,『現実の引渡し』というネーミングはなかなか素晴らしいと,筆者は感じています。)

 

現実の引渡し以外の3パターンは,いずれも,占有移転が発生する以前から物を保持している者が,保持を継続し続けることになります。

つまり,物の移動は発生しない,ということです。

 

『物の移転を客観的に証明するもの』がなにかという観点

次に,物の移転を客観的に証明するものが何か,という観点で考察してみましょう。

現実の引渡しは,現に物が譲渡人から譲受人に対して渡されているのですから,この行為(物の移動)があったこと自体が,占有移転の客観的な証明となります。

 

指図による占有移転は,4パターンの中で唯一,譲渡人と譲受人という当事者以外の存在である占有代理人が登場します

占有代理人は,当事者たちの代わりに物を占有してあげているだけで,物について利害関係を持っていません。

そのため,第三者が占有代理人に対して「その物の所有者は誰ですか?」と確認すれば,ほぼ確実に現在の物の所有者が判明することになります。

よって,占有代理人という存在が,指図による占有移転という事実を客観的に証明することになります。

 

一方で,簡易の引渡しと,占有改定は,登場するのが当事者(譲渡人と譲受人)のみであり,前述のとおり,物の移動も無いので,占有移転の事実を客観的に証明する方法がありません

 

ここまでの話を表に追記すると,以下のとおりになります。

引渡し・占有移転という事実を客観的に証明するもの追記
引渡し・占有移転という事実を客観的に証明するもの追記

以上のことから,ここまで見てみると,簡易の引渡しと占有改定は,『弱い』引渡しであることがわかります。

 

『当事者以外の第三者から見た,占有者=所有者という外観』が存在するかという観点

※話をわかりやすくするため,占有を得た人を新たな所有権者として記載します

ここまで見てきた2つの観点では,簡易の引渡しと占有改定は,同程度の『弱さ』(下図で×を2つ)を持つ引渡しでした。 

簡易の引渡しと占有改定では×が2つ
簡易の引渡しと占有改定では×が2つ

 

では最後に,引渡しが行われた後において,当事者以外の第三者から見た,占有者=所有者という外観が存在するか?という観点で考察してみましょう。

 

引渡しが発生しても,引渡し後に物を占有している者が所有者と一致しているのなら,後から現れた第三者が,占有の外観を誤認して無権利者と取引する危険は小さくなります

 

まず,現実の引渡しでは,物が現実に引渡されて,譲受人が占有者であり所有者となります。

そのため,現実の引渡しが行われた後は,占有者=所有者としての外観が存在します

 

次に,簡易の引渡しですが,物の移動自体はありませんが,元々引渡し前から物を占有していた者が,意思表示の合意によって,新たな所有者となります。

したがって,簡易の引渡しのおいても,引渡し実行後,占有者=所有者が成立します

 

次は,指図による占有移転を確認してみましょう。

この場合も,引渡しの前後を通じて代理占有者が占有し続けるため,物の移動はありません。

しかし,指図による引き渡し後は,譲受人が占有代理人を通して物を代理占有している状態が完成します。

したがって,指図による占有移転でも,代理人に代理占有させている譲受人(占有者)=所有者が成立します

 

では,占有改定はどうでしょうか。

占有改定は,引き渡し前後を通じて,譲渡人が物を占有し続けるため,物の移転はありません

さらに,引き渡し後も譲渡人が占有を続けるため,占有者=譲渡人であり,所有者=譲受人となります

 

したがって,占有改定による引渡し後では,占有者≠所有者という外観が成立することになります。

 

まとめると,4パターンの引渡しにおいて,

占有改定のみ,占有者=所有者という関係が成り立たない

ことになります。

民法・引渡し4パターンの特徴一覧表
民法・引渡し4パターンの特徴一覧表

 

占有改定が,即時取得・質権設定の引渡しに含まれない理由

上記までの話を,改めて一覧表で見てみましょう。

民法・引渡し4パターンの特徴一覧表
民法・引渡し4パターンの特徴一覧表

 

占有改定のみ,物の移転・占有移転の客観的証明・占有者=所有者という外観の,3つの観点のいずれも確保できていないのです

3つの観点すべてで,占有の移転を証明できないという意味で,占有改定は非常に『弱い』占有移転であるわけです

 

この占有改定の『弱さ』が,占有改定の引渡しでは,即時取得が認められず,質権設定も認められないことの原因です。

 

 

即時取得は,即時取得が成立すると,その反射的効果によって,真の所有者が犠牲になる側面を有します

即時取得を主張する者と,即時取得成立を否定したい真の所有者がバトルになったとき,即時取得成立を否定したい真の所有者が「即時取得の要件である引渡しが行われてない!」と主張したとします。

 

占有改定は,外観上,物は全く動かず(本記事の観点①),それを証明するものも存在しません。(本記事の観点②③)

(※参照)

  • 観点①:物の移動
  • 観点②:占有の移転という事実を客観的に証明するもの
  • 観点③:当事者以外の第三者から見た"占有者=所有者"という外観

 

これをいいことに,後出しじゃんけんで,

即時取得を主張する者「いやぁ,実は即時取得で引渡しは終わっていたんだよね」

と主張すると,(仮に本当は占有改定による引渡しがされてなかったとしても)真の所有者は太刀打ち出来なくなり,所有権を失います。

 

これに対し,最高裁は,(本当に引渡しをしたのか分からない占有改定を理由に)即時取得を主張する者か,真の所有者を天秤にかけたとき,真の所有者を保護すべきと考えています

そのため即時取得を主張する者は,観点①②③のいずれも備えていない占有改定ではなく,それ以外の引渡しを利用し,客観的に引渡しを証明できるようにしろ」ということで,即時取得の『引渡し』に占有改定は含まれていないのです。

 

また,質権設定においては,”質権者が”物を占有し続けることが成立要件であり,継続要件です。

現実の引渡し・簡易の引渡しでは,最終的に物は譲受人(質権者)の手元にあるため,質権設定要件をクリアしています。

指図による占有移転でも,占有代理人を使用して譲受人(質権者)の元に物があるため,質権設定要件として問題ありません。

 

ところが,占有改定は,物が移動せず(観点①),譲受人(質権設定者)が引き続き占有し続けます。

これは,質権を設定するための要件(以下の条文中の赤文字)を満たせていません。

質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った(=引渡しされた)物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

民法342条 質権の内容

したがって,引渡し4パターンの中で,占有改定のみ,質権設定の要件を満たせていないのです。

 

解説はここまでです。 最後までありがとうございました。

 

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参考文献など

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この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。

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最後まで読んでくださりありがとうございました!

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