第2節 取得時効

【民法163条:債権界の大谷翔平!二刀流の賃借権】所有権以外の財産権の取得時効

2023年7月31日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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ウリム

取得時効は,一定期間,物を占有すると,その物の“所有権を”取得できる制度でしたよね?

ということは,取得時効で取得できる権利は所有権のみなの?

他にも時効取得できる権利はあるの?!

本記事は,民法163条の【所有権以外の財産権の取得時効】について,わかりやすく解説しています。

 

本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。

  • 所有権以外の財産権が何なのか知ることができる
  • 所有権以外の財産権に対する取得時効が成立する要件がわかる
  • 債権界の大谷翔平である,二刀流の不動産賃借権の特殊性が理解できる

 

記事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち

 

読者さんへの前置き

赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

※本ブログでは,記事内容を要約したものを先に【結論】としてまとめ,その後【解説】で詳細に説明をしていますので,読者さまの用途に合わせて柔軟にご利用ください!!

【結論】占有できない権利にも取得時効制度を拡張!

民法163条 【所有権以外の財産権の取得時効】

所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い20年又は10年を経過した後、その権利を取得する

本条文は,占有を観念できない権利たちにも取得時効制度を拡張したものです。

本来,民法162条に規定されているとおり,取得時効は,他人の物を一定期間占有継続すると所有権を手に入れるものです。

これを,入手できる権利を,所有権以外の財産権に拡張しているのがこの民法163条です。

 

取得時効(民法162条と民法163条)で手に入れることができる権利はまとめると以下のとおりです。

【民法162条により時効取得できる権利】
 所有権(民法206条)

【民法163条により時効取得できる財産権(物権)】
 地上権(民法265条)・永小作権(民法270条)・地役権(民法280条)

【民法163条により時効取得できる財産権(債権)】
 不動産賃借権(民法601条)

本来,債権は取得時効で手に入れることができませんが,時効取得できる地上権とほぼ同内容である土地(不動産)賃借権は時効取得することが判例で認められいます。(最判昭43.10.8)

 

【解説】債権界の二刀流である不動産賃借権は,債権なのに時効取得可能!

占有できない権利にも取得時効を拡張する条文

本条163条は,ひとつ前の民法162条に規定されている所有権の取得時効制度を,所有権以外の財産権に拡張したものです。

民法163条 【所有権以外の財産権の取得時効】

所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い20年又は10年を経過した後、その権利を取得する

取得時効とは,占有をしているという状態を長期間継続した者に,その長期間占有を継続したという状態,すなわち所有者としての外観を長い間備えた点を評価して,その占有者に所有権の原始取得を認めるという制度でした。

すなわち,民法162条の取得時効で手に入れることができるのは所有権なのです

 

それに対し,民法163条は条文中に,『所有権以外の財産権・・・を取得する。』とあるように,所有権以外の財産権を時効効果によって取得できることを規定しており,時効制度を所有権以外にも拡張する役割を果たしています

後ほど,『所有権以外の財産権』が何なのかは詳しく解説しますが,具体例としては地上権(一定の範囲で他人の土地を利用できるという財産的価値をもつ権利)などが該当します。

 

占有できない所有権以外の財産権を時効取得するためには?

民法162条の所有権の取得時効では,一定期間,以下を満たす必要がありました。

【民法162条 所有権の時効取得の要件】

  • 『所有の意思をもって』いたこと
  • 『平穏に,かつ,公然と他人の物を占有し』たこと

民法162条1項 【所有権の取得時効】

20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

 

対して,地上権のような財産権は,占有をすることができません。(地上権に基づいて,他人の土地を占有はしておりますが,地上権という権利自体を占有することはできない,という意味です。)

そのため,取得時効を所有権以外にも拡張しようにも,占有を観念することができない権利たちに拡張を認める際に,その時効取得の要件に修正が必要となるのです。

そこで,民法163条は,162条の要件を以下のように修正しています。

【民法163条 所有権以外の財産権の時効取得の要件】

  • 『自己のためにする意思をもって』いたこと
  • 『平穏に,かつ,公然と行使』したこと

 

つまり,整理すると...

  • 民法162条:所有の意思をもって占有
  • 民法163条:自己のためにする意思をもって行使

というように,『占有』から『行使』へと変更され,それに伴って,『所有(占有)の意思』を持てないのにあわせて,権利行使について『自己のためにする意思』をもっていることへ修正されています

『自己のためにする意思』とは,めちゃくちゃ簡単に言うと,他人の財産権を自分の物のように利用しようという意思です。(地上権ならば,“他人の土地を地上権の範囲内で使用する”という意思です)

『自己のためにする意思』については,こちらの記事で詳しく解説していますので,ぜひ併せて読んでみてください!

あわせて読みたい

 

所有権以外の財産権とは?

ウリム

所有権以外にも時効取得できる権利があることは分かったけど,『所有権以外の財産権』って…なに?

“何かを利用・使用できる”という財産的な価値を持つのが財産権ですが,時効取得できる財産権は以下のものです。

【民法162条により時効取得できる権利】
 所有権(民法206条)

【民法163条により時効取得できる財産権(物権)】
 地上権(民法265条)・永小作権(民法270条)・地役権(民法280条)

【民法163条により時効取得できる財産権(債権)】
 不動産賃借権(民法601条)

 

試験対策としては,所有権・地上権・永小作権・地役権・不動産賃借権の5つが時効取得できる権利であると憶えておけば間違いないです

 

ウリム

ふむふむ…それならば,占有権や,担保物権権(留置権・先取特権・質権・抵当権)たちは時効取得できないのですか?

それらは時効取得できません

 

まず,占有権は,占有が一定期間継続すれば所有権が手に入る,という民法162条の取得時効の所有権を手に入れる“手段”として使用されています。

したがって,占有を継続すれば,占有権よりもずっと強力な所有権が手に入るという(民法162条の取得時効)制度がある時点で,占有権の取得時効を認める必要性がほぼ無く,占有権は時効取得できません

 

法定担保物権である留置権と先取特権は,法定の条件を満たせば,“その瞬間に”留置権や先取特権を手に入れることができます

よって,法定の条件を満たすのに“長期間”必要な取得時効を認める必要がなく,留置権・先取特権は時効取得できません

 

約定担保物権である質権・抵当権ですが,他人の担保権である質権や抵当権について,民法163条の要件である自己のためにする意思をもって+行使の継続を観念することができません

したがって,質権・抵当権も時効取得できないことになっています

 

※担保物権については,こちらで横断理解を解説しています。 人気記事ですので,是非あわせて学習してみて下さい!

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権利界の大谷翔平 二刀流の権利・不動産賃借権

ウリム

時効取得できる権利は,所有権・地上権・永小作権・地役権・不動産賃借権であり,その他の物権は時効取得できないこともわかりました…!

ところで…時効取得できる権利の中に,なんかひとりだけ異様な雰囲気な奴が混じっている気がするんですが…?

不動産賃借権…こいつだけ債権ですよね?

まず,原則として債権は時効取得できません

 

民法162条では要件に占有を要求しており,債権は占有できないので要件を満たすことができません。

民法163条では要件に『自己のためにする意思+行使』を要求しておりますが,債権者代位権や詐害行為取消権の場面のような例外を除き,他人の債権債務関係に入り込んで,他人の債権を行使することはできませんので,『自己のためにする意思+行使』が満たせません。

したがって,民法162条・民法163条のどっちよっても,債権は時効取得できないこととなっています。

 

しかし,日本球界やメジャーリーグで,投手でありながら野手としても規格外な活躍をしている大谷翔平選手のような,異次元な存在がどこの世界にもいるものなのです。

実は債権の世界にも,債権でありながら物権にも匹敵(又は圧倒)する強力な権利として実社会で活躍する債権がひとつだけ存在します

それが,不動産賃借権(民法601条)です。

 

不動産賃借権は債権なのですが,登記を備えることもできますし(不動産登記法3条),登記を備えると債権なのに他の物権に打ち勝つことすらできます。(民法605条)

不動産登記法3条 【登記することができる権利等】

登記は、不動産の表示又は不動産についての次に掲げる権利の保存等(保存、設定、移転、変更、処分の制限又は消滅をいう。次条第2項及び第105条第1号において同じ。)についてする

一 所有権
二 地上権
三 永小作権
四 地役権
五 先取特権
六 質権
七 抵当権
八 賃借権
以下略

 

民法605条 【不動産賃借の対抗力】

不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる

ウリム

名だたる物権たちに,債権である賃借権が肩を並べている...!

しかも,登記した賃借権は,他の物権に対抗までできるのか...!

不動産賃借権は,実社会で非常に重要な役割を担っていることから,以上のように,債権でありながら物権に匹敵する能力が各法律・各条文から与えられています。

 

それは取得時効でも同様で,本来,取得時効は債権には成立しませんが,判例によって,不動産賃借権については,取得時効が成立することを認めています。(最判昭43.10.8)

最判昭43.10.8

土地の継続的な用益という外形的事実が存在し,かつ,それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているときは,本条に従い土地賃借権の時効取得が可能である

以上のように,最高裁は土地(不動産)の取得時効を認めているのです。

その趣旨は,土地(不動産)賃借権は「他人の土地を一定の範囲で使用する」という側面において,時効取得できる地上権と全く同じであるため,土地(不動産)賃借権にも地上権と同様に取得時効を認め,足並みをそろえる方がよいだろう,というものによるものです。

 

解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

ウリム

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※前条の解説はこちらです。

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※次条の解説はこちらです。

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参考文献など

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