占有権を手に入れるために必要な『自己のためにする意思』って一体なにもの?!
本記事では,民法180条の,占有権の取得と,その要件である『自己のためにする意思』を解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 占有権の取得の要件がわかる
- 『自己のためにする意思』の意味がわかる
- 『自己のためにする意思』が客観的判断されている理由がわかる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログ管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論:占有意思を持って所持を開始することで,占有権を手に入れる
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
民法180条 【占有権の取得】
本条は,占有権を取得するための要件を定めています。
【占有権の取得要件】
自己のためにする意思をもって,物を所持すること
『自己のためにする意思』とは,物を所持することで発生する事実上の利益を自己に帰属させようとする意思のことです。
『自己のためにする意思』をバッキバキにかみ砕くと…
「買った,貰ったものを自分のために使うぞ!」「弁償したくないから,預かったものをちゃんと大切に管理するぞ!」というようなイメージです。(詳しくは解説フェーズを参照してください)
また,『自己のためにする意思』が本当にあるかどうかは,所持を始めた当の本人にしか分からないため,“物の所持を生じさせた原因の性質から客観的判断する”とされています。
解説:『自己のためにする意思』があるかどうかは客観的に判断
占有権取得の要件
民法の世界では,何かしらの要因が無ければ,権利・義務が発生することはありません。
つまり,ボーっと椅子に座っている間は,(民法の世界では)何かの権利を得ることも,失うこともないということです。
占有権も権利であるため,何かしらの要因(要件)を満たさなければ手に入れることはありません。
では,何を(どんな要件を)満たせば,占有権という権利は手に入るのでしょうか?
それを民法180条がズバリ規定しています。
占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。
民法180条 【占有権の取得】
民法180条に書かれていることを整理すると以下のとおりになります。
【占有権の取得要件】
自己のためにする意思をもって,物を所持すること
つまり,自己のためにするぞ!って意思をもちながら,物を所持することで占有権が手に入れられるわけです。
『自己のためにする意思』とは
しかし,『自己のためにする意思』というのが,非常に抽象的に書かれている,かつ,聞きなれない表現なせいでイマイチ意味がピンときませんよね。
筆者は最初,
「よ~し! 自分のために占有開始しちゃうぞぉ!」
ってニュアンスの意思のことだと思っていました。
が,どうやら違うようです。
どのような意味なのか,確認してみましょう。
事実上の利益
『自己のためにする意思』とは,『物を所持することで発生する事実上の利益を,自己に帰属させようとする意思』のことだそうです…。
余計に意味がわからんぞ!
と言う声が聞こえてきそうなので,もう少し掘り下げます。
積極的利益
“物を所持することで発生する事実上の利益”というのは,積極的利益と消極的利益の2つに分けることが出来,積極的利益と消極的利益を足したものが”物を所持することで発生する事実上の利益”です。
まず,積極的利益ですが,これは占有している物を利用することで得られる利益のことです。
たとえば,物を借りた場合,その借りた物を使用収益できる利益のことです。
物を売買で手に入れた場合も同じで,購入したものを煮るなり焼くなり好きに出来る利益のことです。
消極的利益
次に,積極的利益と対の存在である,消極的利益を解説します。
消極的利益とは,法的不利益を被らないようにする利益です。
たとえば,寄託契約において,受寄者はただ単に物を預かる立場の人ですが,受寄者が寄託物を紛失したりすると,(弁償とか)法的責任を取らないといけません。
受寄者は,物を占有し続けることで法的責任を回避することができるため,消極的利益(法的責任を回避する利益)を受けていると言えます。
“事実上の利益”には,この消極的利益も含まれるとされています。
“事実上の利益”=積極的利益+消極的利益
ここまでの話を整理すると,『自己のためにする意思』の解釈である『物を所持することで発生する事実上の利益を,自己に帰属させようとする意思』は,以下の様に言い換えられます。
『物を所持することで発生する事実上の利益を,自己に帰属させようとする意思』
↓
『物を所持することで発生する積極的利益・消極的利益を,自己に帰属させようとする意思』
これが,民法180条『自己のためにする意思』の解釈です。
つまり,「買った,貰ったものを自分のために使うぞ!」「弁償したくないから,預かったものをちゃんと大切に管理するぞ!」というようなイメージと考えて頂ければOKです。
『自己のためにする意思』が認められるには
ここまでで,占有権の取得要件と,『自己のためにする意思』の解釈を確認してきました。
ここで,ひとつだけ気をつけることがあります。
それは『自己のためにする意思』は,どのような場合に認められるのか?です。
は? 『自己のためにする意思』が認められるには,『自己のためにする意思』があればいいに決まってんだろ?
はい,そのとおりなのですが,実は少し問題があるのです。
その問題とは,『自己のためにする意思』は,所持を始めた人の心の中にしかないので,本当に『自己のためにする意思』が存在するのかは,所持を始めた本人にしか分からないということです。
『自己のためにする意思』が有るのか無いのかは,占有権が取得できるかどうかに影響します。
また,占有権が取得できるかどうかは,取得時効・即時取得・占有の訴え…などなど,多くの権利を主張できるかどうかに大きく影響を与えます。
さらに,弁償などをしなければいけない状況に陥った際に,消極的利益を回避するために,後から「実は『自己のためにする意思』を持ってなかったんですよね~」なんて主張ができてしまう可能性があります。
なぜなら,本当に『自己のためにする意思』が無かったのかは,当の本人しか分からないからです。
このような主張を許すと,世の中の法律関係が非常に不安定なものになります。
以上のような実状から,『自己のためにする意思』を持っていたのかどうかを,明確・明瞭な基準で判定する必要性が生まれました。
そこで採用されているのが,“物の所持を生じさせた原因の性質から客観的に判断する”という基準です。
たとえば,売買で物を手に入れた場合,買ったものを使用・収益・処分しようとするのが一般的に通常であるので,客観的判断により,『自己のためにする意思』が存在するとされます。
寄託における受寄者も,受託の目的達成や法的責任回避のために物を管理しようとするのが通常であるため,同様に『自己のためにする意思』が存在します。
また,盗人が他人の物を盗んだ場合,盗んだ物を使用・収益・処分しようとするために盗んでいることが一般的に通常であるので,『自己のためにする意思』が認められます。
対して,『自己のためにする意思』が認められない場合はどのようなものでしょうか?
たとえば,スーパーで何を買おうか歩いていたとき,棚から商品が落ちてきて知らないうちに持っていたマイバッグに入ってしまい,そのまま気付かずに持ち歩いているような場合です。
このような場合は,本人は気付いていないですし,別に万引きしようともしておらず,所持した物を使用・収益・処分しようとしているとは一般的には判断されないので,『自己のためにする意思』は存在しないと判断されるでしょう。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
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※前条の解説はこちらです。
(現在準備中!)
※次条の解説はこちらです。
参考文献など
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最後まで読んでくださりありがとうございました。