『担保物権』ってなんや?
本記事は,担保物権の横断理解を,基礎の基礎から解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 担保物権の存在理由がわかる
- 留置権・先取特権・質権・抵当権の,それぞれの特徴の概要が理解できる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人が記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論:『担保』は,債務履行のための人質
担保とは,債務(借金の返済など)の履行を確保するための人質です。
民法は,“担保として”物を支配することに,強力な効力を持つ物権としての立場を与え,担保物権なるものを4つ認めています。
これは,日本が採用している資本主義という社会構造の要請から来るものです。
4つの担保物権は大きく2つのグループに分けられます。
最初の2つは,当事者たちの契約で成立する約定担保物権です。
- ①質権
- ②抵当権
残りの2つは,法律で定められて要件を満たすと自然発生する法定担保物権です。
- ③留置権
- ④先取特権
※本記事は担保物権のバックグラウンドを解説していますが,用益物権のバックグラウンドはこちらの記事で解説していますので,是非併せて確認してみてください。
解説:全ての始まりは“資本主義”
民法典の物権編において,担保物権は,留置権→先取特権→質権→抵当権の順に規定されています。
各テキストや基本書もこの順で記載されていますが,
私は①質権→②抵当権→③留置権→④先取特権の順で学習すべきと考えています。
なぜなら,『担保』というものを考えるとき,皆さんがイメージされる姿(事例)に一番近いのが①質権だからです。
なので,“担保物権の全体像を横断理解する”ことを目的とする本記事では,①質権から解説します。
ですが,その前に,質権をはじめとして,『なぜ民法は,担保という存在を,わざわざ物権という権利にまでして認めようとしているのか』という,担保物権のバックグラウンドについて解説します。
それには,法学から離れて,資本主義という概念から解説をはじめようと思います。
資本主義とは
日本や世界中の数多くの国は,資本主義を採用しています。
資本主義とは,(乱暴に言えば)ひとりひとりの国民が自由にお金儲けができる経済構造のことです。
行政書士の資格を取り,自身の知識を商品として利益を得るのも自由ですし,労働者から労働力を購入した企業が,その対価よりも高い価値の商品を市場で販売して利益を得ても良い,というように,個々人が自由に経済活動を行うことができるのが資本主義です。
資本主義とは異なる経済構造には,個人の生産性とは別に,国が平等に国民に富を分配する社会主義が存在します。
社会主義は,社会の富を国が平等に分配するため,個人が自由にお金儲けをできる資本主義とは全く別物となります。
資本主義は,私たち人間の「儲けたい」という欲望から登場したと言われており,今のところ,ほぼ全ての先進国がこの資本主義を採用しており,最も支持を獲得している経済構造です。
なぜ資本主義が支持を集めているのかというと,資本主義は,人間の「儲けたい」という欲望が持つエネルギーが,経済を大きく発展させやすく,国を豊かにし,革新的なサービスを産み出しやすい経済構造だからです。
最たる例はアメリカです。
GAFAMという,5つの世界的超巨大企業(Google,Amazon,facebook,Apple,Microsotf)は,全てアメリカの企業です。
GAFAMのいずれも,国が主導して作った企業ではなく,個人の創設者がお金儲けを行うために設立し,発展してきた企業たちです。
これも,自由に経済活動を行うことを保証し,お金儲けをしてよいことを後押しする資本主義という土壌が存在したからです。
資本主義という社会構造の上で,GAFAMたちが発展したことで,現代においてアメリカは世界最大の経済大国となっています。
資本主義における最強の経済発展法は…“超天才にお金を貸す”
資本主義という社会構造は,人間の持つ欲望をエネルギーとして,経済を大きく発展させるという側面をここまで述べました。
しかし,ただ単純に,資本主義という土壌を用意すれば,勝手にその国の経済が発展していくという訳ではありません。
資本主義という土壌の上に,以下の2つが揃わなければ,経済の爆発的な発展や革新的なサービスの発明は起こりません。
- 軍資金
- 経営の天才
資本主義においては,自由な経済活動が認めれていますが,ある一定規模以上の経済活動(商売)を行うには,多かれ少なかれ元手となるお金,軍資金が必要です。
軍資金というお金も,ギャンブラーに渡ってしまうと,ただ浪費して終わってしまうため,その軍資金を有意義に使って軍資金以上の富(サービスや商品)を産み出すことのできる知恵・知識を有する優れた経営者も必要です。
したがって,国の大きな発展は,
“ 資本主義 + 軍資金 + 経営の天才 ”
が全て揃ったときに起こるのです。
国が経済発展すると,国民の生活水準は向上し,豊かになっていきます。
それは民法をはじめとする日本の法律も理解しています。
では,“資本主義+軍資金+経営の天才”を成立させるために,法律にできることは何かあるのでしょうか?
資本主義は,既に日本がこの社会構造を採用しています。
経営の天才は,国民の中から優秀な人物が現れるのを待つことしかできないでしょう。
となると,最後の“軍資金”はどうでしょうか?
ある特定の才能ある人に軍資金を集めるには,その才能ある人に対して,お金を譲渡するか,お金を“貸す”ことが手段となりえます。
ただ,お金を集めようとする時,お金を他人から譲渡してもらうのは,かなりハードルが高いです。
みなさんも,お金を他人にあげるなんてことは,そうそうしないでしょう。
となると,軍資金の確保において,強力な手段となりそうなのは“貸す”です。
あくまでも“貸す”のですから,貸主は,一度はお金を手元から手放すことになりますが,いつかは返してもらえるのですから,お金の譲渡という手段よりも,軍資金の収集の難易度はぐっと下がります。
しかし,いくら譲渡するよりも,“貸す”の方が軍資金の収集の障壁が少ないと言っても,お金が返って来ないリスクが大きければ,やはり通常は,他人にはお金は貸しません。
そこで,活躍するのが『担保』です。
担保というのは,お金を借りる側が所有する金銭的に価値がある物を,「貸したお金が返せなかったら,この(担保)物を売ってお金にして,そのお金で返済してね」として人質にすることを言います。
担保があれば,万が一,お金の借主が返済不能に陥っても,担保から貸したお金を回収できる保険があるため,お金の貸し借りがしやすくなります。
そこで民法は,この『担保』に物権という強力な立場・効力を認めて,厚く保護することで,お金の貸し手がかなり有利なチカラ関係になるようにしました。
担保を厚く保護し,貸し手が有利なようにし,お金を貸しやすい環境をつくるのです。
これにより,才能ある人がお金を欲しいと願った時に,お金(軍資金)を集めやすくし,“資本主義+軍資金+経営の天才”の達成を容易にし,日本の経済発展が起きやすい社会を,民法は後押ししているのです。
担保物権のベースは“①質権”
ここまで,資本主義から始まる,民法が担保物権という存在を認めるまでのバックグラウンドをお話ししました。
少し前でも言及しましたが,担保とは,金銭的に価値がある物を,「貸したお金が返せなかったら,この担保物を売って,お金に換金し,そのお金で返済してね」と,人質として預かることです。
この「お金を貸した側が,担保物を人質として預かる」という形態の担保がまさに,ズバリそのまま質権です。
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
民法342条 【質権の内容】
質権の内容を定める条文を見ても,まさに担保のベーシックな姿が書かれていますね。
質権こそが担保物権の最初におさえておくべきスタンダードケースなのです。
この後に出てくる,抵当権は,質権の欠点を補完したものであり,留置権や先取特権は,限られた場面に,限られた範囲で担保を確保できる制限的なものになります。
①質権の欠点 “担保物を債権者に渡さないといけない”
質権は,担保物権のスタンダードケースではあるのですが,ひとつ大きな欠点があります。
それは,”担保の対象物(質物)を,債権者(お金貸した側)が預かり,手元に置いておかなければならない”という点です。
質権を定める,民法342条の条文に『占有し』とあるとおり,質権を設定して担保を取る場合,担保物は債権者が手元に置いておく必要があります。
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
民法342条 【質権の内容】
債権者は,せっかく担保物が手元に置いてあるのに,基本的には質物を使用・収益することはできません。
すると,質権を設定して担保にした物は,ただこの世に存在するだけ物に成り下がります。
これは経済的にとって単純に損失となります。
担保の対象物にはしたものの,引き続きお金を借りた人がその担保を設定した物を使用したいケースもあるはずです。
このようなケースやニーズに,質権は応えられないのです。
そこで,この欠点を改善し,生み出されたのが抵当権です。
お金を借りた側が,担保を設定した不動産を引き続き使用できる②抵当権
質権には,お金を貸した側が担保設定物を,必ず手元に置いておかなければならないという,融通の利かない欠点がありました。
この質権の欠点を補うのが,抵当権です。
1 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
民法369条 【抵当権の内容】
抵当権は,担保設定をする対象物は不動産に限られるものの,お金を借りた側が,担保に供した不動産を引き続き,占有・使用し続けることができます。
まさに質権ができなかった部分を,抵当権は綺麗に補っているのです。
抵当権の,担保に供した不動産(家)を引き続きお金を借りた側が住み続けることができる,という最大の利点を活かして,多くのマイホーム購入時のローンの担保設定のときに用いられています。
①質権と②抵当権は,“約定”担保物権カテゴリー
民法において,担保物権は,以下の4つが定められています。
- ①質権
- ②抵当権
- ③留置権
- ④先取特権
ここまで見た,①質権と②抵当権は,約定担保物権と言われるカテゴリーに属します。
約定担保物権とは,当事者の担保設定契約によって成立する担保物権のことです。
つまり,お金の貸し借りをする当事者間で「よし!お前の持ってる土地に抵当権を設定させてくれて,担保とするならお金貸すよ」「OK!」というように,両者の合意と契約が有って初めて①質権と②抵当権は成立するのです。
③留置権と④先取特権は,“法定”担保物権カテゴリー
では,残った③留置権と④先取特権は何なのかと言うと,法定担保物権と呼ばれるカテゴリーに属します。
法定担保物権とは,法律に定められた条件を満たした場合,自動的に物や財産に担保が設定されるものを言います。
法定担保物権は,特例であるので,限られた場面に限られた効力しか有さない
担保物権の,ベーシックな姿は①質権でした。
つまり,①質権が原点にして頂点の担保物権であり,①質権で対応できないケースは②抵当権を利用すればよい,という民法の原則的な考えがあります。
したがって,『担保が欲しいなら約定担保物権を設定しておけ』というのが,民法の基本スタンスです。
それでも,「この場面なら,約定担保物権は無いけど,特別に担保物権を認めてあげてもええか」ということで,緊急的・例外的に認められるのが法定担保物権の③留置権と④先取特権です。
そのため,③留置権と④先取特権は,緊急で認められた,限られた範囲で効力を有するにすぎず,①質権や②抵当権のように,広く安定して担保状況をカバーしてくれるわけではありません。
それは,③留置権には優先的弁済効力が認められず,物上代位性も無いという特性に現れています。
また,④先取特権も,留置的効力・収益的効力が無く,そもそも先取特権という担保権が発生する場面が,かなり限られているという特性も同様です。
※優先的弁済効力・留置的効力・収益的効力・物上代位性の詳細については,以下の記事で詳しく解説しています。
③留置権は“債務の履行を促す目的の範囲で,物を人質にできる”権利
留置権は,他人の物を占有している人が,その物に関して生じた債権の弁済を受けるまで,その物を手元にキープしておける権利です。
1 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。
民法295条 【留置権の内容】
例えば,スマホの割れた画面を修理した修理屋さんが,お客さんが修理代金を支払うまで,「スマホを返さないよ」と主張できるわけです。
債務を履行しないと,キープされた物を返してもらえない,という心理的圧迫を与えることで,債務者を間接的に強制して,債務の履行(代金の支払い)を担保しようというわけです。
留置権は,あくまでも物を手元にキープして,間接的に債務履行を強制出来るにすぎず,手元にキープしている物を使用・収益したりはできませんし,物上代位性もありません。
法定担保物権である留置権は,緊急的に認められたものであり,完全な担保が欲しいのなら,約定担保物権を設定しておけばいいからです。
④先取特権は,特定の債権を有する場合に自分が最優先にお金を回収できる権利
先取特権とは,法律で定められている特定の債権を有する場合,他の債権者よりも優先して弁済を受けられる権利です。
その債権の性質上などから,特別に例外的に,ごく限られた場合に,他の債権者に優先して債権回収が認められます。
先取特権を持っていても,担保対象物を使用・収益はできませんし,留置権の様に手元にキープすることも出来ません。
約定担保物権ではなく,法定担保物権であるため,あくまでも例外的・限定的に認められた担保権だからです。
まとめ
今回の記事では,つらつらと担保物権の全体像を,資本主義の話題からスタートして解説しました。
ここまで読んで頂けた読者の方なら,民法典の順番では無く,以下の順番で担保物権を眺めていくのをオススメする意味を,ご理解頂けたのではないかと思っています。
- ①質権
- ②抵当権
- ③留置権
- ④先取特権
民法が目指している”日本経済の発展”に着目して,担保物権のバックグラウンドをおさえておくことで,担保物権の見通しが大変良くなると思います。
この記事が,皆さまの学習に少しでも役に立てば大変嬉しく思います。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※本ブログでは,民法の理解に役立つ情報を発信しています。 以下の記事も大変人気なので是非読んでみてください!
参考文献など
この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。
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筆者が,行政書士試験に,4ヶ月の独学で・仕事をしながら・202点で一発合格したノウハウや勉強法,使用書籍を無料公開しています。
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