第2節 取得時効

民法162条:取得時効の要件&何が推定されるかをわかりやすく解説

2022年5月27日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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ウリム

取得時効の成立要件や,推定される?されない?が,ごちゃごちゃしていてよくわかりません…。

この辺りの条文たちの連携を整理したいな…。

本記事は,以上のようなモヤモヤを解消するために,取得時効の成立要件と,各要件のうち,推定されるものとされないものを整理して解説しています。

 

記事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログ管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発合格(202点)した勉強法
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読者さんへの前置き

赤文字は,行政書士・宅建・公務員試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

結論:民法162条と186条(と188条)の関係を整理しよう

取得時効の要件と推定について,整理すると以下のとおりになります。

※上図は短期取得時効の成立をベースに整理しています。 悪意による長期取得時効の場合は成立要件⑤⑥は不要となります。

後述の“解説”フェーズでは,各条文の記述から,上図の関係性を導いていきます。

 

解説:民法162条が要件を定め,186条が一部推定してくれている

民法162条と186条の連携関係

取得時効の要件と推定の関係は,民法162条と186条(と188条)が連携し合って規定しています

連携における162条・186条のそれぞれの役割は次のとおりです。

  • 民法162条:取得時効の成立要件を定める
  • 民法186条:(取得時効を達成しようとしている人の)占有について,推定されるものを定める

まず,この“162条が取得時効の成立要件を定め,186条が一部推定してくれる”という条文同士の立ち位置をしっかり確認してください。

 

取得時効の要件整理(民法162条)

民法162条の条文を確認してみます。

1 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

民法162条 【所有権の取得時効】

162条1項が,占有開始時に悪意であった場合の長期取得時効の要件を定めます。

また,162条2項は,占有開始時に善意であった場合の短期取得時効の要件を定めています。

(ここから本記事では,より多くの要件が課されている,162条2項の短期取得時効をベースに話を進めます。)

民法162条2項に書かれている要件たちに番号を振り,要素ごとに分解してみます。

2 ④10年間①所有の意思をもって、②平穏に、かつ、公然③他人の物④占有した者は、その⑤占有の開始の時に、善意であり、かつ、⑥過失がなかったときは、その所有権を取得する。

↓書き換え

2 ①所有の意思をもって,②平穏に,かつ,公然③他人の物を,④10年間占有継続した者は,その⑤占有開始の時に,善意であり,かつ,⑥無過失だったときは,その所有権を取得時効により取得する。

民法162条2項 【所有権の取得時効】

上記の①~⑥を,一覧にすると,以下の表のとおりです。

これら①~⑥を全て満たしたとき,取得時効が成立し,所有権を手に入れるという法律効果が発動することになります。

※②の平穏かつ公然の意味については,こちらの記事で解説していますので,一緒に確認しておきましょう。

 

時効における証明の困難さを補う186条

取得時効の効果は,所有権を手に入れる,というものです。

取得時効が成立するということは,その反動として,真の所有者が所有権を失います

 

本来,権利の保護を目的とする民法のスタンスに逆行するような,いわば時効制度の“負の”側面を考慮し,民法は,取得時効の成立に10年又は20年の占有の継続という,非常に長い時間を要求することでバランスを取っています

※真の所有者を犠牲にするような時効制度がなぜ存在するのか?については,以下の記事で解説しています。

ところが,このような長期間の占有継続を課すと,“取得時効が成立したことの証明が困難になる”という状況に陥りやすくなります。

 

10年ないしは20年も前のこと,皆さんは明確に憶えていますでしょうか? 20年前の今日,夕飯は何を食べたか証明できますか?

おそらく無理だと思います。

そうなると,10年ないしは20年前の状況を証明できない人が多発し,取得時効制度は有って無いようなものになってしまいます

そこで,助け舟を出すのが民法186条です。

 

一部要件を推定してくれる民法186条

162条の定める取得時効成立の①~⑥の要件は,長期間の時間を要することも有り,証明が困難な側面を有していました

そこで,民法186条は,①~⑥の要件のうち,一部を“証拠が無くても”成立していると推定することで,取得時効の成立の証明負担を軽減するかたちで,162条をフォローしています。

 

186条の条文を確認してみましょう。

1 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。

2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

↓書き換え

1 占有者は、①所有の意思をもって、⑤善意で、②平穏に、かつ、公然③(他人の物の)占有をするものと推定する。

2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、④その間継続したものと推定する。

↓(さらに少し乱暴な)書き換え

1 占有者取得時効の成立を主張する者には、①所有の意思をもって、⑤善意で、②平穏に、かつ、公然③(他人の物の)占有するしたものと推定するしてあげる

2 前後の両時点において占有をした証拠があることの証明に成功したときは、占有は取得時効の成立を主張する者は、④その間継続したして占有したものと推定するしてあげる

1 取得時効の成立を主張する者には、①所有の意思をもって、⑤善意②平穏に、かつ、公然③(他人の物の)占有をしたものと推定してあげる

2 前後の両時点において占有をしたことの証明に成功したときは、取得時効の成立を主張する者には、④その間継続して占有したものと推定してあげる

民法186条 【占有の態様等に関する推定】

書き換えた186条を整理すると,以下とおり,①②③⑤は無条件で,④は証明した場合には証明に成功した期間についてのみ,推定してくれることがわかります。

【無条件に推定される】

  • ①所有の意思
  • ②平穏,公然
  • ③他人の物
  • ⑤善意

 

【証明に成功した期間のみ推定=すなわち実質は推定されない

  • ④占有の継続

 

これらの整理を,162条の要件一覧と突合すると,以下のとおりになります。

民法162条:要件・推定

 

⑥無過失の推定について

ここまで見てきたとおり,取得時効の成立要件につき,①②③⑤は無条件,④は証明した期間についてのみ推定が及ぶことがわかりました。

 

最後の要件である⑥無過失はどうでしょうか?

186条を見ても⑥無過失については何も書かれていない以上,186条によって推定はされません。

結論から言うと,186条以外にも⑥無過失の推定に言及する条文は存在しないため,取得時効の成立において,⑥無過失は推定されません

 

したがって,短期取得時効の成立を主張する人が⑥無過失を,自分で証明しなければいけません

 

民法188条は,⑥無過失を推定できないのか

ここで,よく話題になるのが,民法188条を根拠にして,取得時効の成立を主張する者の⑥無過失は推定されないのか?です。

占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。

民法188条 【占有物について行使する権利の適法の推定】

 

取得時効の成立を主張する者は,占有をしているので,188条の“占有者”に該当しそうです。

また,“適法に有する”とあるのだから,ここに⑥無過失であることを含めてもよいのではないか?という主張です。

 

たしかに,文言通りに考えれば,188条を根拠に,取得時効の成立を主張する者に⑥無過失の推定がされることを認めても問題なさそうです。

しかし,判例は,取得時効の成立を主張する者に対して,188条を根拠として⑥無過失の推定がされることは無い,としています。

 

その理由は,188条の趣旨から導かれています。

188条は,『第三者との取引』を想定して作られた条文であるとされ,物を占有している者の外観を信じて取引した人を保護すること(権利外観法理)が目的とされています。

したがって,188条は,取引の当事者が2名以上存在する場合に適用される条文ということです。

 

また,188条は,権利外観法理を目的としていることから,物を占有している者を保護するのではなく,物を占有している者と取引する者”を保護するための存在です。

よって,(これも少し乱暴ですが)188条の条文の主語に,少し日本語を書き足すと以下のとおりになります。

前主である”占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。

民法188条 【占有物について行使する権利の適法の推定】 書き換えVer

 つまり,188条が適用される場面は,前主である占有者と第三者との取引行為ようなケースです。

 

取得時効は,このケースに当てはまるでしょうか?

取得時効は,原始取得であるとされているため,真実の所有者と,取得時効の成立を主張する者との取引行為では無いとされています

 

したがって,取得時効においては,“前主である”占有者が存在しないことから,188条の効果は及ばず,取得時効の成立を主張する者が188条を根拠に⑥無過失が推定されるという主張はできない,とされています。

民法の他のどの条文も,取得時効の成立を主張する者に⑥無過失の推定を認める記載はないため,取得時効の成立の主張においては,⑥無過失は推定されない結論に至ります。

 

まとめ

お疲れ様でした。

ここまでの話を全て整理すると,冒頭の結論にて掲載した一覧表になります。

民法162条:要件・推定

④占有の継続と⑥無過失は推定されない,というのが結論です。

無過失の推定がされるのか?という点は,資格試験で問われる可能性がかなり高いので,本記事で,各条文の連携を頭の中に入れて,しっかり暗記しておきましょう!

 

※補足 本記事では,短期取得時効の成立要件をベースに解説しました。 162条1項の長期取得時効の成立要件は以下の図のとおりになります。 本記事と同じように,186条との連携を整理すると,①所有の意思・②平穏かつ公然・③他人の物は推定が及ぶので,長期取得時効の成立を主張するものは①“20年間”の占有の継続のみを証明すればよいことになります。

※取得時効が原始取得である理由については,こちらの記事で解説しています。 ぜひ併せて読んでみてください。

 

※前条の解説はこちらです。

(絶賛準備中です。 もう少々お待ちください!)

 

※次条の解説はこちらです。

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参考文献など

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最後まで読んでくださりありがとうございました!

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