第6章 地役権

民法286条:承役地の特定承継人が負う工作物の設置義務をわかりやすく解説

2022年6月23日

伊藤かずま

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民法286条って,要役地所有者に有利すぎませんか?

前承役地所有者が負っていた義務を,特定承継人にまで負わせる286条の趣旨は何ですか?

本記事は,民法286条の承役地の特定承継人が負う工作物の設置義務を,わかりやすく解説しています。

 

記事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人が記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
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読者さんへの前置き

赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

結論:特定承継が発生することで,地役権の価値が下がってしまうとことを防止する

設定行為又は設定後の契約により、承役地の所有者が自己の費用で地役権の行使のために工作物を設け、又はその修繕をする義務を負担したときは、承役地の所有者の特定承継人も、その義務を負担する

民法286条 【承役地の所有者の工作物の設置義務等】

承役地の所有者が,地役権のために工作物を設置したり,その修繕をする義務を負担する場合は,その承役地の特定承継人も,同様の義務の負担を引き継ぎます

 

286条の“工作物設置・修繕をする義務”が,地役権という“物権”の内容に含まれるのか,または“債権”なのか,学説が対立しています。

工作物設置・修繕する義務が,物権・債権のいずれだとしても,民法286条は,特定承継人に,当該義務を引き継がせることを定めています

民法286条の存在理由は,特定承継(売買など)が発生するだけで,それまで承役地の所有者が負担してくれていた義務が消失してしまうとすると,要役地所有者が予期せぬ不利益を被る可能性があるので,それを防止するためです。

 

また,“承役地の所有者が工作物設置・修繕を負担すること”が,要役地と地役権の価値に含まれている,と考えることも可能です。

この設置・修繕義務が無くなることで,要役地と地役権の価値がいきなり暴落し,地役権が維持出来なくなるという事態を回避することも,286条の目的と言えます。

 

パッと見ですと286条は,要役地の所有者に有利すぎるように見えます。

しかし,地役権による要役地の価値を保護するためには,特定承継人にも義務を継続して負担させることも,必要な規定と言えるのです。

 

解説:民法286条は確認的規定なのか?例外的規定なのか?

民法286条って,言っていること自体は簡単だったと思います。 試験対策としては,条文の言っているとおりに暗記しておけば全く問題ないでしょう。

ただ,せっかく本記事に訪問して,条文学習をしてくださっているのですから,ここから先は,もう少し286条の素読に深入りしたいと思います。

 

286条を,深く素読するには「売買は賃貸者を破る」と「包括(一般)承継・特定承継」の概念を理解しておく必要があります。

概念理解に不安がある方は,是非以下の記事を読んでから,本記事に戻ってきてください。

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286条の“工作物設置・修繕をする義務”は,物権なのか?債権なのか?

前述のとおり,民法286条に規定される承役地の所有者が負う“工作物設置・修繕をする義務”が,地役権という物権の内容なのか,債権なのかは,学説が対立しています

 

もし仮に,当該義務が物権であるのなら,新たな承役地の所有者は,手に入れた承役地に付属する地役権という物権から発生する,工作物設置・修繕する義務を,当然に受け入れなければいけません

なぜなら,物権は誰に対しても主張可能なのだから「この地役権という物権は,承役地の所有者が工作物設置・修繕をする義務が含まれている」と,要役地の所有者は,新承役地所有者に対しても主張が可能だからです

 

では,当該義務が債務,つまり債権から派生するものだと考えれば,どうでしょうか?

債権とは,“特定の人に特定のことをさせる権利”なので,「売買は賃貸借を破る」原則により,特定承継人には,工作物設置・修繕をする義務は継承されないはずです。

なぜなら,設定行為・契約により発生した要役地の所有者の持つ債権は,特定の人(=今の”承役地所有者)に,特定のこと(=工作物設置・修繕をすること)をさせるものだからです

よって,特定承継で承役地を手に入れた,新たな承役地所有者は,“特定の人”ではないのです。

したがって,当該義務が債権ならば,特定承継人は,義務を引き継がないはずです。

 

そこで,民法286条は,工作物設置・修繕する義務が物権なのか債権なのかはひとまず置いといて,特定承継人にも義務は引き継がれるよ,と定めているのです。

工作物設置・修繕する義務が物権とすれば,民法286条は,ただただ当たり前のことを言っている確認的条文です。

対して当該義務が債権とすれば,民法286条は「売買は賃貸借を破る」の原則を修正した,例外規定を定めた条文となります。

 

なぜ286条の条文は“特定承継人”と書かれている?

民法286条の条文の適用範囲は,承継人が特定承継人の場合です。

設定行為又は設定後の契約により、承役地の所有者が自己の費用で地役権の行使のために工作物を設け、又はその修繕をする義務を負担したときは、承役地の所有者の特定承継人も、その義務を負担する。

民法286条 【承役地の所有者の工作物の設置義務等】

では,承役地を包括承継した場合の,包括承継人(相続人など)は,工作物設置・修繕する義務を負うのでしょうか?負わなくてよいのでしょうか?

 

答えは,包括承継人は,当然に工作物設置・修繕する義務を負います

包括承継人は,前主の権利・義務・立場をそっくりそのまま承継するからです

したがって,「包括承継の場合は,義務が承継するのは当たり前なんだから,書かんでもええよな?」というスタンスで286条は書かれているのでしょう。

 

整理すると,286条は,以下のような性格を有する条文と言えます。

  • 包括承継→義務は,当然に承継するのだから敢えて言及しない
  • 特定承継→義務が,物権か債権かで結論が変わるから,本条で結論を言及する

以上のことから,286条の条文中では『承役地の所有者の“承継人”』ではなく,『承役地の所有者の“特定承継人”』という表現が用いられていると考えられます。

 

民法286条も,民法の「地役権を可能な限り存続させようとする」の影響下にある

民法286条は,特定承継人にも,承役地の前所有者が負担した工作物設置・修繕する義務を承継させて,負担を課すことで地役権と要役地の価値を保護しようとするものです。

これは,以下の記事で解説している,民法の地役権に対する,スタンス②”民法は,地役権を可能な限り存続させようとするに由来するものです。

地役権のスタンスをおさえておくことは,地役権の理解がとてもしやすくなりますので,是非併せて確認しておいてください。

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解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

 

※前条の解説はこちらです。

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※次条の解説はこちらです。

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参考文献など

参考文献

この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。

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最後まで読んでくださりありがとうございました。

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