民法112条の,代理権消滅後の表見代理の概念・要件を詳しく教えてください。
特に,民法112条2項の要件はどのようなものなのでしょうか?
本記事では,民法112条の,代理権消滅後の表見代理の概要・要件を解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 代理権消滅後の表見代理の概念が理解できる
- 民法109条・110条の表見代理との違いがわかる
- 代理権消滅後の表見代理の成立要件を整理できる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログ管理人が記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
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読者さんへの前置き
※赤文字は,行政書士・宅建・公務員試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論:一度成立した代理権が消滅した後に,代理行為をしたせいで無権代理発生
※本条の理解には,表見代理の概念・制度自体の正確な理解が必須となります。 不安な方は,こちらの記事を先に読んでから,本記事に戻ってきてください。
1 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
民法112条 【代理権消滅後の表見代理等】
民法112条の表見代理は,何かしらの基本代理権は一度成立したものの,その基本代理権が消滅した後に代理行為が行われたがために発生した場合に認められるものです。
民法112条1項と2項の,それぞれの表見代理のイメージを図にすると以下のとおりです。
民法112条,代理権消滅後の表見代理の成立要件は以下のとおりです。
【民法112条1項の成立要件】
- ①:基本代理権が消滅した
- ②:消滅した基本代理権の範囲内での代理行為
- ③:相手方が,基本代理権が消滅したことにつき善意無過失
【民法112条2項の成立要件】
- ①:基本代理権が消滅した
- ②:消滅した基本代理権の範囲外での代理行為
- ③:相手方が,基本代理権が消滅したことにつき善意無過失
- ④:相手方が,当該行為について,代理人が代理権を有すると正当に信じていた
解説
表見代理3パターンにおける112条の位置づけ
民法では,表見代理として以下の3パターンが規定されています。
109条:代理権を与えてないのに与えたような表示をしたせいで発生した表見代理
110条:与えた代理権の範囲外で代理行為をしたせいで発生した表見代理
112条:与えた代理権が消滅した後に代理行為をしたせいで発生した表見代理
上記は,それぞれ,以下のような通称が用いられていますので,一応知っておきましょう。
- 109条:代理権授与表示による表見代理
- 110条:権限外行為による表見代理
- 112条:代理権消滅後の表見代理
実は109条 と ,110・112条の間に大きな壁があります。
それは,一度でも何らかの有効な代理権が成立したか否かです。 (この“何らかの有効な代理権”のことは“基本代理権”と呼ばれています)
109条は,“本当は代理権を与えていないのに”,代理行為が行われたことによる表見代理なので,一度も基本代理権は成立していない世界の話をしています。
一方の110条と112条は,基本代理権が与えられたうえで,その範囲外で代理行為をした(110条)や,その基本代理権が消滅した後に代理行為をした(112条)という状況における表見代理です。
したがって,110条と112条は,一度基本代理権が成立した世界の話をしています。
適用される条文が全然違ってきますので,表見代理の3パターンを憶える際は,基本代理権が一度でも成立したのかしていないのかという観点を持って理解しておきましょう。
そして,本記事は,基本代理権が一度成立し,その後その基本代理権が消滅した世界の話をしている112条の解説です。
112条1項:消滅した基本代理権の範囲内の話
代理権消滅後の表見代理の概要
1 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
民法112条1項 【代理権消滅後の表見代理等】
民法112条1項本文により,代理権を他人に与えた人は,その代理権が消滅した後に代理権の範囲内において行われた代理行為について,相手方が代理権の消滅を知らなかった場合,有効な代理として責任を負います。
代理権の消滅を知らなかった取引の相手方を保護する趣旨のルールです。
民法112条1項の要件
民法112条1項の条文をもとに,要件を整理してみましょう。
以下の①~④が要件と読み取れそうです。
1 他人に代理権を与えた者は、①代理権の消滅後に②その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、③代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、④第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
民法112条1項 【代理権消滅後の表見代理等】
つまり,以下のとおりです。
【民法112条1項の成立要件】
- ①:基本代理権が消滅した
- ②:消滅した基本代理権の範囲内での代理行為
- ③:相手方が,基本代理権が消滅したことについて善意
- ④:③について,無過失である
上記において,要件③と要件④は合体させて,ひとつの要件「相手方が,基本代理権の消滅につき善意無過失」とすることができそうです。
したがって,最終的な成立要件は以下のとおりです。
【民法112条1項の成立要件】
- ①:基本代理権が消滅した
- ②:消滅した基本代理権の範囲内での代理行為
- ③:相手方が,基本代理権が消滅したことにつき善意無過失
112条2項:消滅した基本代理権の範囲外の話
2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
民法112条2項 【代理権消滅後の表見代理等】
民法112条2項は,2020年4月の民法大改正で追加された条文です。
それまで,現民法112条2項が規定する表見代理は,判例上,旧民法112条(現民法112条1項)と民法110条の重畳(ちょうじょう)適用で判断されていました。
この経緯は,民法109条2項の代理権授与表示の表見代理の条文と同じです。
民法112条2項の『代理権があると信ずべき正当な理由があるとき』などの言い回しが用いられている理由については,民法109条の記事で詳しく解説しています。
概要
民法112条2項は,代理権が消滅した後に,その代理権の範囲外のことをしても,相手方が,代理権が存在していると信じていて,かつ,信じることに正当な理由があるなら,表見代理の成立を認めるというものです。
代理権はとっくに消滅していて,さらに代理権の範囲外の行為なのに,有効な代理として扱い,相手側を保護するということです。
本人からしたら「おいおい勘弁してくれよ…。」と思いたくなるほどの,相手方を厚く保護する規定といえます。
民法112条2項の要件
代理権は消滅している,さらに,その代理権の範囲外の行為である,でも表見代理の成立を認め,本人を犠牲にして相手方を護るのが,民法112条2項でした。
そこまでして,相手方を厚く保護するのだから
民法112条1項と比べて,民法112条2項は,さぞかし厳しい成立要件が課されてるんやろなぁ~
と,初学者の頃の筆者は思っていました。
では,民法112条2項の条文から,成立要件を整理してみましょう。
2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
民法112条2項 【代理権消滅後の表見代理等】
『代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合』は,『民法112条1項の成立要件①③を全て満たす場合』という意味です。
これを加味して,民法112条2項を書き換えます。
2 他人に代理権を与えた者は、①代理権の消滅後に、
その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、②その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、③第三者が代理権が消滅したことにつき善意無過失であり、かつ、④その行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。↓
2 他人に代理権を与えた者は、①代理権の消滅後に、②その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、③第三者が代理権が消滅したことにつき善意無過失であり、かつ、④その行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
民法112条2項 【代理権消滅後の表見代理等】
整理すると,以下のとおりとなります。
【民法112条2項の成立要件】
- ①:基本代理権が消滅した
- ②:消滅した基本代理権の範囲外での代理行為
- ③:相手方が,基本代理権が消滅したことにつき善意無過失
- ④:相手方が,代理人は当該行為について代理権を有すると正当に信じていた
民法112条1項の成立要件と比較してみましょう。
【民法112条1項の成立要件】
- ①:基本代理権が消滅した
- ②:消滅した基本代理権の範囲内での代理行為
- ③:相手方が,基本代理権が消滅したことにつき善意無過失
やっぱり!
消滅した範囲外の代理行為まで本人に責任を取らせる分,要件④が加重されてるんだね!
※補足!
しかし,判例や学説など,一般的には,条文の『その行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由がある』とは,『善意無過失』を指すとされています。
したがって,要件④は要件③に吸収されるとも考えられます。
【民法112条2項の成立要件】
- ①:基本代理権が消滅した
- ②:消滅した基本代理権の範囲外での代理行為
- ③:相手方が,基本代理権が消滅したことにつき善意無過失
④:相手方が,代理人は当該行為について代理権を有すると正当に信じていた
↓
【民法112条2項の成立要件】
- ①:基本代理権が消滅した
- ②:消滅した基本代理権の範囲外での代理行為
- ③:相手方が,基本代理権が消滅したことにつき善意無過失
ちょっと待て。
要件③の善意無過失は“基本代理権が消滅したこと”に対するもので,
要件④の善意無過失は“代理人が当該行為について代理権を持っていない(権限範囲外である)こと”に対するものだから,別物では?
と,考えた方もいると思います。
本記事を書くにあたり,色々書物を当たってみたのですが,民法112条2項の成立要件に対する態度は以下の2つでした。
- 態度Ⅰ:民法112条2項の成立要件をボカシて書いている(又は触れていない)派
- 態度Ⅱ:前述の要件①~④が必要である派
民法112条2項は,前述の通り,判例法理が条文に昇格したものです。
また,民法112条2項が条文化してからまだ間もないことから,色々な議論や研究の,時の試練を乗り越えた学説や書物が存在していない状況です。
したがって,民法112条2項の要件について,下手なことを書けないのが現在の状況のようです。
そのため,当ブログでは,民法112条2項の要件は『民法の基礎1 総則 第5版 佐久間毅 著』の記載を参考として,前述した”要件①~④を要求する”を採用しておきます。
【民法112条2項の成立要件】
- ①:基本代理権が消滅した
- ②:消滅した基本代理権の範囲外での代理行為
- ③:相手方が,基本代理権が消滅したことにつき善意無過失
- ④:相手方が,代理人は当該行為について代理権を有すると正当に信じていた
※参考とした『民法の基礎1 総則 第5版 佐久間毅 著』
民法学者の先生方から,有力な確定的な見解が主張されるまで待ち,将来的に加筆修正したいと思います。
行政書士や宅建試験対策としては,本記事の冒頭結論フェーズや,以下のまとめで書く【民法112条1項の成立要件】【民法112条2項の成立要件】で暗記しておいて問題ないと考えます。
まとめ
ここまでの話を最後にまとめておきましょう。
民法112条の権限外の行為の表見代理とは,以下のような概念・制度です。
“何かしらの基本代理権は一度成立したものの,その基本代理権が消滅した後に代理行為をしたがために発生した場合に,相手方は表見代理を主張できる。”
また,成立要件は以下のとおりです。
【民法112条1項の成立要件】
- ①:基本代理権が消滅した
- ②:消滅した基本代理権の範囲内での代理行為
- ③:相手方が,基本代理権が消滅したことにつき善意無過失
【民法112条2項の成立要件】
- ①:基本代理権が消滅した
- ②:消滅した基本代理権の範囲外での代理行為
- ③:相手方が,基本代理権が消滅したことにつき善意無過失
- ④:相手方が,代理人は当該行為について代理権を有すると正当に信じていた
最後に,代理権が消滅後の表見代理のイメージです。
(おまけ)民法112条の表見代理における,本人の落ち度はなに?
※ここで書くことは行政書士・宅建試験では出題されません。 「代理権の消滅後の表見代理って,本人は何か悪いことしたの?」という質問を頂いたので,参考情報を記載しておきます。
代理権を与えたが,その代理権が(有効期間経過などで)消滅した後に代理行為が行われた場合,この代理権消滅後の代理行為の本質は無権代理です。
そうであれば,代理権を他人に与えた本人は,この無権代理については責任を負わないはずです。
しかし,民法112条は,相手方が代理権消滅について過失なく知らなかった(善意無過失である)ときは,代理権消滅後の代理行為について,相手方の表見代理の主張を認めます。
そして,有効な代理として扱い,本人に責任を負わせようします。
つまり,本人は代理権を一度授与したならば,将来的に表見代理の責任を負う可能性があることを覚悟しなければいけないことになります。
表見代理制度は,「本当は無権代理なんだけど,無権代理の発生原因に本人に落ち度があるから,有効な代理として扱って,本人に責任押し付けちゃお!!」というものです。
そうであれば,民法112条の代理権消滅後の表見代理を認めるためには,“本人の落ち度”が必要なはずです。
では,民法112条における“本人の落ち度”は,一体何なのでしょうか?
民法109条の,代理権授与表示の表見代理は,“本当は代理権を授与していないのに,代理権を授けたかのような言動をした”ことが,本人の落ち度です。
民法110条の,権限外の行為の表見代理は,“本人が代理権を授与したことで,代理人が無権代理行為を行うことを可能・容易にした”ことが,(少し厳しい話ですが)本人の落ち度です。
本人が代理権を授与しなければ,代理権限の内も外も無いので,民法110条の権限外の行為の表見代理が起こり得ないため,本人が無権代理発生を可能・容易にしたと評価できるということです。
それならば,民法112条も,代理権を授与しなければ,“代理権の消滅後の代理行為”は起こり得ないので,民法110条と同様な理由で本人の落ち度が認められるのでは?と考えるかもしれません。
しかし,与えた代理権が,期限到来や目的達成で消滅するというのは,(生涯有効な法定後見制度の法定代理権などを一部を除き)ほぼ確実に訪れる未来事象です。
したがって,“ただ単純に”代理権を与えたという事実があるだけであれば,その代理権が(期限終了や目的達成により)消滅するのは至極当然のことであり,代理権が消滅した後の無権代理に対し,表見代理を認めて本人に責任を取らせるほどの,本人の落ち度は存在しないと言えます。
それでは,民法112条の表見代理は,どのような“本人の落ち度”を前提に存在しているのでしょうか?
学説上,「本人が何らかの言動で代理権があることを相手方に伝え,その伝達において,相手方が,代理権は存続(消滅していない)していると信じた」というような事情・状況・落ち度が必要と考えられており,これが結論となります。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。
参考文献など
この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。
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最後まで読んでくださりありがとうございました。