民法総則の無権代理だけでもよくわからんのに,表見代理って一体なんだ?!
無権代理と何が違うんだ?!
本記事では,民法の表見代理と無権代理の違いを解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 表見代理と無権代理の違いがわかる
- 表見代理の本質が無権代理であることを理解する
- 図を用いて,民法の代理分野全体を俯瞰する
の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
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読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論:表見代理の本質は無権代理
無権代理は,代理権も無いのに代理人(っぽいやつ)が代理行為をやらかすことです。
無権代理が発生したとき,本人は,ただ単純に無権代理人と相手方の無権代理騒動に巻き込まれた被害者的立場です。
対して,表見代理は,代理人が代理権も無いのに代理行為をやらかしたが,代理人に代理権があるだろうと相手方が誤認したことに,“本人に非があるとき”に,「本当は無権代理だけど,有効な代理行為として扱ってええよな?」と,相手方が主張できる制度のことです。
そのため,表見代理の本質は無権代理なのです。
無権代理には違いないけど,無権代理の発生原因について,本人に落ち度があるのだから,(本人は)被害者面してないで,有効な代理(=法律行為が本人に及ぶ)ってことにして責任取れや,ということです。
代理分野の,有効な代理・無権代理・表見代理の関係性を整理すると下図のとおりになります。
解説:“無権代理” + “本人の落ち度” = “表見代理”
そもそも表見代理とは?
前述の結論でも書いていますが,表見代理の本質は無権代理であり,“無権代理の仲間の一種”です。
無権代理は,代理権も無いのに無権代理人が,代理行為をやらかしたという状況でしたよね。
“本人に非が無い”一般的な無権代理が発生した際の,当事者たちの立ち位置は,以下のとおりです。
- 本人:無権代理事件に巻き込まれた被害者
- 無権代理人:無権代理をやらかした張本人で責任を追及されるかもしれないガクブル
- 相手方:無権代理行為を何かしらのカタチで決着をつけたいと思っていて,法律により認められた解決のための手段の中から選択して実行できる立場にある
“本人に非が無い”無権代理が発生した場合において,相手方が出来るのは,以下の3つのいずれかです。
(相手方は,ただただ巻き込まれた被害者である本人に対しては,強制力のあることは何もできないことを頭の片隅に入れておいてください。)
※上記3つは,その手段を実行できるかどうかに,“相手方の善意・悪意が影響します”。 詳細は以下の記事で確認してください。
ここまでが,“本人に非が無い”一般的な無権代理の話です。
ここから,無権代理が発生したことに対して,“本人にも非がある”無権代理の話をします。
つまり,ここからが表見代理(本質は無権代理)の話です。
世の中には,いろんなケースの無権代理が発生しており,その中には「これって,本人も悪いんじゃないの?」というような無権代理ケースが存在します。
たとえば,事業を行う父親が,取引先に「今後は息子に事業を任せた」と言って,実際には事業を任せていなかったが,それを信じた取引先が,息子との間で事業取引をしたような場合が,“本人にも非がある”無権代理ケースです。
以上のようなケースは,本人である父親が,余計なことを言わなければ無権代理は発生しませんでした。
このような,“本人にも非がある”無権代理ケースでも,取引先(相手方)が,前述した以下の3つの手段のいずれかしか取れないとなると,とある問題が生じます。
これらの手段は,全て“本人(父親)は,あくまでも無権代理に巻き込まれた被害者”であることを前提につくられています。
したがって,通常の無権代理ケース用に用意された対抗手段だけでは,相手方は,本人に対して何も手出しが出来ないのです。
通常の無権代理においては,本人は巻き込まれた被害者ですので,無権代理が発生しても①追認するか・②放置するの,2通りの中から好きな方を選べばよい,圧倒的に有利な立場にいます。
しかし,無権代理が発生したことに対して本人に非がある場合に,本人にこの立場を与えるのは適切ではありません。
これはいかんだろ
民法も同様に考えており,“本人に非がある”無権代理ケースに順応した,相手方の対抗手段を用意する必要に迫られました。
そこで民法が用意したのが,おまちかねの表見代理という,“本人に非がある”無権代理ケースにも順応した対抗手段です。
表見代理とは,「本人の落ち度が原因で,相手方は,“表”面上“代理”人に“見”える者と取引したのだから,本当は無権代理だけど,有効な代理行為として扱う」ということを,相手方が主張できる制度です。
つまり,表見代理は,本当は無権代理なんだけど,本人に落ち度があり,相手方が有効な代理行為だと信じても仕方が無いので,有効な代理として扱うことで,相手方を保護しよう,という制度です。
(このように,相手方が見聞きしたことを信じた場合の期待を法的に保護しよう,という法理論を,権利外観法理と言いますので憶えておきましょう。)
したがって,表見代理の本質は無権代理であり,表見代理は無権代理の仲間の一種なのです。
ここまでの話を総合して,めちゃくちゃ乱暴に表見代理と無権代理の関係性を式にしてみると…
“無権代理” + “本人の落ち度” = “表見代理”
このようになります。
表見代理は,相手方が取れる手段のひとつ
表見代理は,“無権代理が発生した際に,問題解決のために取れる手段のひとつである”ことに注意してください。
復習になりますが,無権代理が発生した際に,相手方が取れる手段は以下の3つです。
ただ,もしも発生した無権代理が,表見代理の要件を満たしている場合は,ここに“表見代理の主張(=有効な代理として扱おうぜ主張)”という選択肢が,さらに1個追加されます。
したがって,無権代理発生時,相手方は,最大で以下の4つの手段の中から選択をして,対策を講じることになります。
表見代理3兄弟
表見代理を定める条文は民法109,110,112条の3つが存在するため,「表見代理3兄弟」のような表現がよく用いられます。
(ただ,民法109条と112条は,それぞれの条文が2パターンずつの表見代理を規定しているので,表見代理は正確には5パターン存在します。)
表見代理とは,無権代理発生について,“本人に非がある”だったり,“本人に落ち度がある”無権代理に対しての,相手方の対抗手段のことでした。
つまり,「表見代理の条文を3つ用意している」というのは,「“本人の落ち度”で発生する無権代理は3パターン存在する」ということを意味します。
では,どのような“本人の落ち度”で,3つの表見代理を分類しているのか?という観点で,それぞれここで確認しておきましょう。
(「”~”」の部分が,本人の落ち度です。)
- 109条の表見代理:本人が“本当は代理権を授与してないのに,代理権を与えたかのような言動をした”せいで無権代理が発生した
- 110条の表見代理:代理人が本人から授与された代理権の範囲を超えて代理行為をしたが,代理人の行為は代理権の範囲内だと,“本人の言動のせいで相手方が誤認して”,無権代理が発生した
- 112条の表見代理:代理人が本人から授与された代理権が消滅した後に代理行為をしたが,その代理権が有効に現存していると,“本人の言動のせいで相手方が誤認して”,無権代理が発生した
それぞれの表見代理の要件などの詳細は,個別記事で行います。
無権代理・表見代理を俯瞰する
最後に,無権代理分野の全体図で俯瞰しておきましょう。
各概念を細かく勉強していると,「今,自分が民法のどこにいるのか?」を見失いがちです。
表見代理という概念はおそらく多くの方が,無権代理分野の最後にたどり着くものと思います。
本記事で,表見代理が一体何なのか分かった状態で全体を見渡すことで,「なんだ,無権代理分野ってこんなもんなのか」と,思えるはずです。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※逐条型で,代理分野の解説をしています。 こちらから是非併せて読んでみてください。
参考文献など
参考文献
この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。
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最後まで読んでくださり,ありがとうございました。