第5章 永小作権

民法271条:永小作権の土地変更制限【用益物権で唯一土地を破壊する可能性がある】

2022年7月9日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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民法271条の趣旨を教えてください!

本記事では,民法271条の,永小作権の土地変更制限について解説しています。

 

本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。

  • 民法271条の趣旨を理解する
  • 民法271条の存在意義って,コレじゃね?を知ることができる

 

事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
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読者さんへの前置き

赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

結論:永小作権は,用益物権で唯一土地を大きく損壊する可能性がある

※本条は,資料が非常に少なく,読者の皆さんの記憶に残るよう,個人的な推察を多分に含んでいます。 ご了承ください。

永小作人は、土地に対して、回復することのできない損害を生ずべき変更を加えることができない

民法271条 【永小作人による土地の変更の制限】

条文に書かれているとおりで,永小作権者(永小作人)は,その土地に対して,回復不能な損害が生じる変更ができません

本条は,別の慣習があれば,回復不能な変更を加えてOKとされています。(民法277条)

また,地上権も地役権も(入会権も),本条を準用していないため,民法271条は永小作権限定の規定です。

 

解説慣習があれば,回復不能な変更OK(by 民法277条)

民法271条は,他の用益物権に準用されていないため,永小作権限定規定

本条の規定する内容は,条文を読んだそのままの解釈で問題ありません。

また,本条は,他の用益物権たちは準用していないことから,永小作権限定の,永小作権オリジナルルールと言えます。

 

【地上権の条文のうち,準用をしているもの 266条・267条】

1 第274条から第276条までの規定は、地上権者が土地の所有者に定期の地代を支払わなければならない場合について準用する。

2 地代については、前項に規定するもののほか、その性質に反しない限り、賃貸借(民法601条~622条の2)に関する規定を準用する。

民法266条 【地代】

前章第1節第2款(相隣関係)の規定(民法209条~238条)は、地上権者間又は地上権者と土地の所有者との間について準用する。ただし、第229条の規定は、境界線上の工作物が地上権の設定後に設けられた場合に限り、地上権者について準用する。

民法267条 【相隣関係の規定の準用】

 

【地役権の条文のうち,準用をしているもの】

なし

 

【入会権の条文のうち,準用をしているもの 294条】

共有の性質を有しない入会権については、各地方の慣習に従うほか、この章(第6章 地役権 民法280条~293条)の規定を準用する。

民法294条 【共有の性質を有しない入会権】

 

以上から,永小作権以外の用益物権たちが,自身のルールのために他の条文を準用している”先”は以下のとおりです。

  • 地上権:民法274条~276条,民法601条~622条の2
  • 地役権:なし
  • 入会権:第6章 地役権 民法280条~293条

よって,この中に民法271条は含まれないため,地上権・地役権・入会権のいずれも本条271条は準用しておらず,民法271条が適用されるのは永小作権のみとなります。

 

別慣習があれば回復不能な変更OK

本条271条は,別の慣習があるのなら,回復不能な変更を加えてもOKです。

その根拠は民法277条です。

第271条から前条までの規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

民法277条 【永小作権に関する慣習】

 

なぜ271条は存在するのか?

※ここからは,筆者の個人的見解を多分に含んでいます

さて,本条は非常にマイナーな条文であり,試験対策としてもそんなに重要な条文ではありません。

マイナーゆえ,本条の存在意義は何なのだろう?と調べてみても,あまり情報がありませんでした

 

しかし,条文というのは,必要とされるから存在するものです。

不要ならばわざわざ条文として規定・残存させておく必要はありません。

 

そこで,個人的に,この民法271条はなぜ存在するのか検討してみました。

 

土地を保護する説

まず思い浮かんだのが,人の衣食住の拠点となりうる土地の保護のために存在する説です。

土地,いわば国土は,有限であるうえに,農地・建物・道路へと姿を変えることができるため,土地の経済的・資産的価値は他の物より圧倒的に高いです。

そのため,土地に回復困難な損害を発生させることのないようにし,土地が不必要に破壊されることを防ごうとしたのではないか?ということです。

 

しかし,この説は,以下の2点で違うかなぁと思っています。

 

ひとつめは,土地保護を目的とするなら,地上権や地役権も,本条271条を準用してよいはずである点です。

地上権も地役権も,土地を一定の目的で利用するのですから,土地の保護を万全とするなら準用してもよいはずです。

 

ふたつめは,民法277条が,慣習が存在する場合に,回復不能な変更を許している点です。

土地の保護が目的なら,本条271を強行法規とすればよかったはずです。

しかし,民法277条により,271条よりも慣習が優先されるとしているのですから,任意規定とまではいかなくても,一定の人の意思(=慣習)により回復不能な変更を許している点は,土地の保護要請と矛盾します。

 

よって,土地の保護説は違うかなぁ,という結論です。

 

永小作権は土地を破壊する可能性があるから説

次に,永小作権は土地を破壊する可能性があるからです。

 

永小作権は,他人の土地で耕作や牧畜をする権利です。

耕作や牧畜は,育成・飼育する対象によっては,農薬の散布・土地の大規模な深耕・水路開設などが必要となります。

これは,ただの更地を,農耕専用地に変貌させるような可能性を秘めています。

耕作しようとしている農作物が,特定の土でなければ育成できなければ,土を入れ替える可能性もあります。

土を入れ替えた場合,土地への影響は非常に大きいです。

このように,永小作権が達成しようとする目的の特性上,永小作権は土地を破壊する可能性が大いにあるものであると言えます

 

対して,地上権は,建物・立木の所有のための権利です。

建物は長年使用が可能であり,不要ならば取り壊せば,更地に戻ります。

立木も,不要なら伐採すれば,元通りの更地になります。

 

地役権は,要役地の便益向上という目的達成のため,承役地の限られた範囲を使用できるにすぎない権利です。

そのため,地役権では他人の土地を大きく損壊する可能性は低いと言えます。

 

以上のことから,用益物権の中で永小作権は他人の土地を大きく損壊する可能性が高いことから,永小作権設定者の予想を大きく越えた変更を防止するために,民法271条を規定して,永小作権の効力に制限をかけたのではないか?と考えました。

この説が,“永小作権は土地を破壊する可能性があるから説”です。(筆者オリジナル説での注意してください)

 

前述のとおり,地上権・地役権は,その権利の性質上,他人の土地を大きく損壊する可能性は小さいため,わざわざルールを規定していないわけです。

 

また,慣習によって,回復不能な変更を許している点も,この説なら説明がつきます。

(永小作権は土地を破壊する可能性があるから説は,国土である土地の保護を考慮していない点に注意してください

 

慣習が存在し,永小作権者が回復不能な変更を予想・許容しているのなら,永小作権の効力に制限をかける必要がありません。

そのため,慣習として当事者たちが許容しているのなら,私的自治の原則の要請から,条文よりも慣習を優先させて,民法277条に規定されている慣習優先対象に民法271条を含めたのです。

 

以上から,(あくまで個人的に)民法271条の存在意義は,“永小作権は土地を破壊する可能性があるから説”を推したいと思います。

 

※「なぜこの条文は存在するんだろう?」という観点・思考は,記憶を強固にします。 ぜひ受験勉強などの小休止に,気になる条文の存在意義に想いを馳せてみてください。

 

解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

 

※前条の解説はこちらです。

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※次条の解説はこちらです。

(2022年7月現在 執筆中!)

 

参考文献など

この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。

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最後まで読んでくださりありがとうございました。

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