基礎法学・法律用語・法概念

 “前法である特別法”と“後法である一般法”はどっちが優先?

2022年7月28日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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ウリム

どの法令が適用されるのかについて,「後法優先の原則」「特別法優先の原則」というのを聞いたことがありますが,どのようなものでしょうか?

あと,“前法である特別法”と“後法である一般法”がバトルした場合はどっちが勝つの?

本記事では,前法・後法・一般法・特別法の概念と,それらの優先順位について,わかりやすく解説しています。

 

本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。

  • 「後法優先の原則」「特別法優先の原則」の概念を理解できる
  • 前法・後法・一般法・特別法の概念を知ることができる
  • 前法・後法・一般法・特別法の優先順位がわかる

 

記事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人が記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち

読者さんへの前置き

赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

結論:法令同士が矛盾した際の,法適用の優先順位の判断基準

【前法・後法の定義】

  • 前法:比較する法令に対し,それ以前に制定されていた法令
  • 後法:比較する法令に対し,それ以後に制定された法令

 

【後法優先の原理】

同位である(形式的効力が同じである)法令が,互いに矛盾する場合,後に制定された後法を優先する原理・原則のこと。

 

【一般法・特別法の定義】

  • 一般法:(相対的に)広く一般的に適用対象を持つ法のこと
  • 特別法:(相対的に)一般法と比べ,限定的又は特定の範囲において適用対象をもつ法のこと

※例:民法を一般法としたとき,商法が特別法となる

 

【特別法優先の原理(特別法は一般法を破る)】

一般法と特別法が定める法規律が異なる・矛盾する場合に,特別法の適用を受ける事象には,一般法ではなく特別法の規律を適用する原理のこと

※例:本人の死亡で代理権が消滅するか

  • 民法(一般法):消滅する  民法111条
  • 商法(特別法):消滅しない 商法506条

上記の通り,本人が死亡した際の代理権の扱いは,民法111条と商法506条では正反対の規律となっています。

代理人の行為が商行為の場合は,民法(一般法)ではなく商法(特別法)を適用すべき事象であるため,本人が死亡しても代理権は継続することになります。

 

解説:“前法である特別法” vs “後法である一般法”はどっちが勝つ?

後法優先の原理・特別法優先の原理の存在意義

後法優先の原理や特別法優先の原理は,日本に数多く存在する法令たちが矛盾した際に,どちらの法規律を優先するか,国民が判断できるようにするために存在します

 

ちなみに,日本の法令はいくつ存在するか,ご存知でしょうか?

調べたら令和4年現在で約8,930本が登録されているようです。

法令の数で9,000弱ですので,条文数となったら途方もない数ですね…。

 

当然,これら全ての法令・条文に漏れなく精通している人は,日本に一人も存在しないでしょう。

もちろん法律を作る立法者も,日本の全ての法令を熟知出来ていないので,いざ法令を創ったら,別の法令・条文と矛盾してしまったということは,十分にあり得るのです。

 

そんなとき,矛盾し合った法令たちのどっちを優先すべきなのかの判断基準が無いと,国民は困ってしまいます。

そこで,後法・特別法を優先する原理を採用し,矛盾し合う法令のどっちを信用すればよいか,国民が判断できる体制を整えているのです。

 

後法優先の原理が認められる根拠

基本的に,後法が制定される場合の多くは,前法に至らない部分があったり,カバーできていない部分が存在する場合です。

現実社会の全てを,前法が問題なくカバー出来ているのなら,後法が制定される必要がないからです。

すなわち“何かしら至らないところのある”前法よりも,後から定められた後法を適用することが,立法者の意向や後法の存在意義に合致しているはずです。

これが後法を優先する根拠です。

 

特別法優先の原理が認められる理由

特別法は,特別な事象に適用するためにつくられた法令です。

したがって,特別法を適用すべき場面には,特別法を適用しましょう,という至極当然のことを言っているのが,特別法優先の原理です。

よって,特別法優先の原理が認められる根拠は,特別法が特別な事象に適した法規律だからです。

 

“前法である特別法” vs “後法である一般法”はどっちが勝つ?

ここまでの話をまとめると,後法優先の原理と特別法優先の原理により,前法・後法・一般法・特別法の基本的な優越関係は以下のとおりになります。

  • ①:前法 < 後法
  • ②:一般法 < 特別法

では,少し論理パズルみたいな質問ですが,以下の法令同士が矛盾した場合,どちらが優先されるでしょうか?

 

“前法である特別法” vs “後法である一般法”

 

関係①(前法<後法)を重視した場合は,右辺の“後法である一般法”が勝ちそうですね。

対して,関係②(一般法<特別法)を重視した場合は,左辺の“前法である特別法”の勝利となりそうです。

 

答えは,左辺の“前法である特別法”が優先されます。

 

一般法と特別法のチカラ関係が判断に影響する際は,一般法と特別法の制定時期の前後は関係無いと憶えてください

 

一般法よりも特別法が先に規律されていようが,そもそも特別法を適用すべき特別な事象が存在する場合は,特別法を適用すべきなのです。

一般法では対応できない特別な事象に適応できるのが,特別法という存在なのです。

したがって,特別法を適用すべき場面では,“たとえ後法だとしても”一般法は登場する幕はありません

 

実は,“前法である特別法” vs “後法である一般法”は,皆さんが自然と身に着けている判断基準なのです。

質問なのですが,商法と民法で違う内容が定められているとき(例えば前述の商法506条と民法111条),取引が商行為だった場合,商法と民法のどっちが適用されますか?

 

ウリム

商法!!

 

はい,その通りです。

それでは,商法と民法の改正時期を確認してみましょう。

令和4年7月現在,商法の最終改正はH30.5.25で,民法はR1.6.14なので,商法が前法で,民法は後法です。

つまり,令和4年現在において,“前法である商法(特別法)”と“後法である民法(一般法)”が成立しています。

 

“前法である商法(特別法)”と,“後法である民法(一般法)”のどっちが優先されるのか?と聞かれれば,皆さんは既に“前法である商法(特別法)”という判断が出来たはずです。

もし勉強を始めたばかりの初学者の方で,今の段階でわからなかったとしても大丈夫です。学習を進めれば絶対にわかるようになりますので焦る必要はありません。)

 

商法・民法のように具体例に当てはめてみると,実は多くの方が,“前法である特別法” vs “後法である一般法”の判断は,既に無意識のうちに出来ているのです。

もしも,試験で出題されたら,商法・民法のように具体例に落とし込んで考えてみてください。

 

解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

 

※民法について色々と解説しています。 是非併せて学習してみてください。

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参考文献など

この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。

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最後まで読んでくださりありがとうございました。

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