本記事では,民法の意思表示の第三者の対抗要件を暗記に頼らないで解答する方法を徹底的にわかりやすく解説します。
万が一,試験やテストで要件をド忘れしても思い出せるようになりますので,ぜひご一読ください。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- なぜ第三者対抗要件が「善意」のものと,「善意無過失」のものがあるのか理解できる
- 第三者対抗を丸暗記しなくてもよくなる!!
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人が記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語です
(本記事では善意を青文字,悪意を赤文字で表現している箇所があります)
※太文字は,解説中で大切なポイントです
今回の記事はこんな人におすすめ! 心裡留保に対する第三者は善意で保護されるのに、詐欺に対する第三者は善意無過失で保護される違いの説明ができない人
まず,今回の記事で解説する方法は以下の図の理解が必要です。
これを見て「あ,書いてあること大丈夫っす」って方は,このまま読み進めてください。
図の内容がちょっと不安な方は,こちらの記事を読んでから戻ってきてください。
解き方の前に…民法の考え方の前提
民法は,私たちの身の回りの私生活上の権利や義務のルールを定めている法律です。
私たちの私生活上で発生する全てのトラブルについて,白黒つけてトラブルを終結さるためのルールが,民法のどこかの条文に必ず書いてあります。
言い換えれば,私生活上のトラブルを解決するために,当事者に対して「あなたの勝ち! 君の負け!」という風に白黒つけることが,民法の存在意義と言えます。
この民法の存在意義を頭の片隅に入れて読み進めてください。
意思表示の第三者の対抗要件問題は“より善意な者が勝つ”
(※学術上,心裡留保・通謀虚偽表示・錯誤を『意思の不存在』,詐欺・強迫を『瑕疵ある意思表示』と分類したりします。 本記事では,心裡留保・通謀虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫の5つ全てをまとめて『意思表示の(が)不良品』と表現いたします。 『意思表示の(が)不良品』は,私が勝手に名付けただけで,学術上の正しい表現ではないことに注意してください。)
意思表示の第三者の対抗要件問題とは,既に取引関係にあって,その取引の意思表示が不良品であるときに,第三者が新たに取引関係に入ってきたとき,誰の保護を最優先とするか?という問題です。
意思表示が不良品である場合,その取引関係は一定の条件下で無効又は取消すことができます。
取引の当事者間だけの問題ならば,取引を無効にしたり取消してしまい,無かったことにして話を終わらせてしまえばいいだけのことです。
しかし,本人と相手方間の取引関係が”有効に成立している前提で”,取引関係に入ってきた第三者が存在する場合は,少し事情が異なります。
第三者は,本人と相手方の取引が有効なものとして成立している前提で,行動・準備を既にしている可能性があります。
このようなとき,本人と相手方との取引において,意思表示が不良品であったことを理由に,本人と相手方の取引を勝手に無効にしたり,取消したりするのはどうなんだという話になります。
つまり,『意思表示が不良品の場合,無効又は取消せる』というルールと,『意思表示が不良品だったので無効又は取消すべきだけど,その取引が有効だろうという前提で行動した第三者』の利害が衝突しているのです。
そして,この場合に,ルールと第三者のどっちを優先して保護するか,というのが,民法の意思表示の第三者対抗要件問題の話です。
民法はこの問題を解決するための判断基準として,“より善意な者が勝つ”という基準を採用しています。
そして,この“より善意な者が勝つ”は冒頭の図(改めて下に表示しておきます)で言うところの“より左側の者が勝つ”と言い換えることができます。
第三者対抗要件問題を暗記せず,図で解く方法
意思表示が不良品である場合に,無効又は取消しできるルールを優先して本人を保護するのか,無効又は取消しを否定して第三者を保護するのかは,丸暗記は不要です。
私自身も丸暗記せず,この後お教えする図で解く方法で試験に臨んでいます。
肝心の図で解く方法ですが,善意悪意整理表にて,以下の①⇒②⇒③の流れで,本人と第三者のどっちが”より善意な者”か,を判定して解いていきます。
- ①:善意・悪意の図で,対決する本人と第三者の2人が,どこに位置するのか見定める
- ②:本人と第三者のうち,より左側にいる方(より善意な方)を優先する
- ③:本人と第三者が同じ位置なら,無効又は取消しルール(本人保護)を優先する
何言ってるのかわからないと思うので,心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫について実際にそれぞれ見ていきましょう。
心裡留保:善意の第三者の勝ち
民法93条 【心裡留保】
1 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
心裡留保の場合は,本心じゃない意思表示をしてかつ無効を主張している人vs善意の第三者の対決です。
※心裡留保(民法93条)の詳しい解説は以下の記事で解説しています。 ぜひ併せて読んでみてください。
① :善意・悪意の図で,対決する本人と第三者の2人が,どこに位置するのか見定める
まず,本心じゃない意思表示をしていて,かつ無効を主張している本人は,心裡留保に該当する(本心じゃない)意思表示をした張本人なので,心裡留保が発生しているという事情を当然知っています。
したがって,心裡留保の事実について,本人は悪意と評価されます。
そのため,図の中では以下の場所に位置します。
次に,善意の第三者を考えます。 善意ということは善意無過失又は善意軽過失どちらもあり得ますが,今回は善意軽過失としましょう。
そうすると,善意軽過失=善意の第三者の位置は下図のとおりになります。
②:本人と第三者のうち,より左側にいる方(より善意な方)を優先する
ここで,戦っている「本心じゃない意思表示をしてかつ無効を主張している人(心裡留保の意思表示者)」と「善意(今回は善意軽過失)の第三者」の位置を比較し,より左側の人,すなわち,より善意側の人が勝ちです。
今回の場合,善意の第三者の意見が優先されます。
この結果はちゃんと93条2項の記載にしっかりと一致しています。
民法93条 【心裡留保】
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
【補足:仮に善意無過失の第三者なら...】
先ほどの例では善意軽過失の第三者でやりましたが,善意無過失の第三者の場合も,結果は変わりません。
なぜなら,先ほどの例よりも善意無過失の第三者はより左側に位置するので,結果は変わらず善意の第三者の勝ちだからです。
③:本人と第三者が同じ位置なら,無効又は取消しルール(本人保護)を優先する
では,第三者が善意重過失の場合はどうでしょうか?
第三者の位置は下図の位置になります。
お! やっぱり第三者のが左側だから,第三者が優先される!
ちょっと待ってください。
重過失はどのように扱うか憶えていますでしょうか?
重過失は,ただのウッカリではなく,お前ワザと知らないだろってレベルなので,ワザと知らない=悪意として扱うのが民法の考え方です。
よって,実質的には先ほどの図は,下図のようになります。
よって,両者は同じ位置になりましたので,この場合は心裡留保による意思表示が無効になるルールを優先します。
したがって,本心じゃない意思表示をして,かつ無効を主張している本人の主張が優先され,本人が保護されます。
なんで同じ位置なら,無効ルールが優先されて本人が保護されるんや?
本人は心裡留保に該当するような意思表示するようなヤツやで?
意思表示の第三者の対抗要件のルールは,事情を知らずに意思表示が不良品である取引関係に参加してしまった人を保護する趣旨で存在します。
なので,第三者が悪意ってことは,第三者は心裡留保であるような事情が存在することを知っている,つまり無効になる可能性があることを知っていてわざわざ参加してきているのです。
したがって,無効になることを覚悟して取引関係に入ってきた第三者は保護する必要はないともいえます。
している民法は,そんなやつ保護せんでもええやろって考えています。
虚偽表示:善意の第三者の勝ち
民法94条 【虚偽表示】
1 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
通謀虚偽表示の場合は,"通謀虚偽表示をし,かつ無効を主張している人" vs "善意の第三者"の対決です。
①:善意・悪意の図で,対決する本人と第三者の2人が,どこに位置するのか見定める
通謀虚偽表示をした人は,自分で嘘の意思表示を敢えてしている,つまり自分の意思表示が通謀虚偽表示に該当することを知っている=悪意なので,問答無用で悪意の位置です。(ちなみに通謀虚偽表示は犯罪です)
対して,善意の第三者(図では善意軽過失)の位置も併せて確認しましょう。
②:本人と第三者のうち,より左側にいる方(より善意な方)を優先する
ここの比較は大丈夫だと思います。
より善意側である,左側の善意の第三者が勝ちで,第三者が優先されます。
③:本人と第三者が悪意ゾーンで同じ位置なら,無効又は取消しルール(本人保護)を優先する
これも心裡留保の時と同じなので,サラッといきます。
第三者が通謀虚偽表示を知っていた=悪意だったとします。
そうすると,両者は悪意ゾーンで同じ位置になるので,通謀虚偽表示をして,かつ無効を主張している人の勝ちです。
錯誤:善意無過失の第三者の勝ち
民法95条 【錯誤】
1 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,次に掲げる場合を除き,第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第1項の規定による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
錯誤の場合は,錯誤をしてかつ取消しを主張している人vs善意かつ無過失の第三者の対決です。 (※本記事では,錯誤を理由とする取消し要件は満たしている前提で記載します)
※錯誤(民法95条)の詳しい解説は以下の記事で解説しています。 ぜひ併せて読んでみてください。
①:善意・悪意の図で,対決する本人と第三者の2人が,どこに位置するのか見定める
錯誤による意思表示をした人は,自分が実際にした意思表示と自分が本来実現しようとした内容との間にズレがあることを知りません。
そのため,ズレがあることを知らないので=善意ということになります。
ただし,勘違いを起こし,錯誤による意思表示を発生させた点は本人の不注意であるため,本人には少なからず過失があることになるため,錯誤した人は善意"軽"過失となります。(重過失の場合は95条3項が処理するため,本記事では取り扱いません。)
よって, 錯誤をしてかつ取消しを主張している人は下図の位置になります。
ここに善意"無"過失の第三者を配置すると,次のとおりです。
②:本人と第三者のうち,より左側にいる方(より善意な方)を優先する
もう大丈夫ですね,より善意側の左にいる善意無過失の第三者の勝ちです。
③:本人と第三者が同じ位置なら,無効又は取消しルール(本人保護)を優先する
ではここで,第三者が善意”軽”過失だった時を見てみましょう。
第三者が軽過失の場合,錯誤した人と同じ位置に来るので,錯誤した本人が勝つことになります。
詐欺: 善意無過失の第三者の勝ち
民法96条 【詐欺又は強迫】
1 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
詐欺の場合は,詐欺をされた被害者かつ取消しを主張している人vs善意かつ無過失の第三者の対決です。
※詐欺・強迫(民法96条)については,こちらの記事で詳しく解説しています。
①:善意・悪意の図で対決する2人がどこに位置するのか見定める
詐欺をされた被害者は,詐欺によって欺罔に陥っているので,意思表示当時は騙されていることを知らないわけですから,善意と言えます。
一方で,騙されたという事実は被害者本人にとっては酷ですが,民法は「騙される方にも過失があるよね」と考えているので,有過失と言えます。
まとめると,詐欺の被害者は善意有過失の立ち位置となります。
ここに善意無過失の第三者を配置すると,次のとおりです。
②:本人と第三者のうち,より左側にいる方(より善意な方)を優先する
両者を比較し,より善意側の左にいる善意無過失の第三者の勝ちです。
③:本人と第三者が同じ位置なら,無効又は取消しルール(本人保護)を優先する
第三者が善意有過失だった時を見てみましょう。
第三者が有過失の場合,詐欺で騙された人と同じ位置に来るので,詐欺で騙された人が勝つことになります。
強迫: 必ず強迫された本人の勝ち
強迫の場合は,”強迫をされた被害者,かつ取消しを主張している人” vs ”善意かつ無過失の第三者”の対決です。
この場合は,必ず強迫をされた被害者が勝ちます。
図で解く方法でも必ず強迫された被害者側が勝つことを確認してみましょう。
①:善意・悪意の図で対決する2人がどこに位置するのか見定める
強迫されて意思表示したり,取引した人には落ち度は全くありません。
本人の意思に関係なく無理やり意思表示をさせられているので,過失もありません。
落ち度もなく,過失もないので,この場合はもはや善意悪意とかいう物差しでは測れません。
そのため,強迫された人は図では特例で善意無過失よりも左の位置に配置します。
完全なる被害者である強迫された者は,完全な保護をするために善意無過失よりもさらに左側に位置させてあげて守ってあげましょう。
そうすると,第三者は善意無過失だろうが,善意軽過失だろうが,重過失だろうが,悪意だろうが絶対に勝てないことになります。
民法は,このように,必ず強迫された被害者が勝つように保護しているので,条文でしっかり確認しておきましょう。
なぜ,第三者の対抗要件は 心裡留保・虚偽表示⇒善意 錯誤・詐欺⇒善意かつ無過失なのか
皆さんは疑問に思ったことは無かったでしょうか?
「なんで,心裡留保・虚偽表示の無効は善意の第三者に対抗できないなのに,錯誤・詐欺の取消しは善意かつ無過失の第三者に対抗できないなんだ?」という疑問です。
自分も最初のころは,本当に疑問でした。
その答えは,「民法は,なんとか本人と第三者の衝突に決着をつけようとしている」ということと「不良品な意思表示をした本人のスタート位置はどこなのか」を組み合わせるとわかります。
まず,心裡留保した人・虚偽表示した人・錯誤した人・詐欺で騙された人のスタート位置を確認してみましょう。
ここでポイントは,心裡留保した人と虚偽表示した人は,悪意の位置でのスタートである点です。
悪意側の人間に第三者が勝つには,善意"無"過失だろうが善意"有"過失だろうが関係なく,とにかく善意側に入ればOKなのです。
したがって,心裡留保した人・虚偽表示した人と,対決した場合に勝つことができる第三者は善意の人なのです。
一方で,錯誤した人と詐欺で騙された人は,共に善意有過失の位置からスタートします。
そのため,第三者が錯誤した人と詐欺で騙された人に勝つためには,ただ単に善意側であるだけでは足りず,より左側の善意無過失でなければいけないのです。
したがって,錯誤した人・詐欺で騙された人と,対決した場合に勝つことができる第三者は善意”無”過失の人だけなのです。
最後に
最後まで読んでくださりありがとうございました。
この記事でまとめた解法は,筆者が自分で考えたオリジナルです。
心裡留保・通謀虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫における第三者の対抗要件は,行政書士試験でも頻出の分野です。
丸暗記できるならそれに越したことはないですが,試験当日に頭が真っ白になってド忘れしてしまったら,落ち着いてこの記事の解法を思い出してみてください。
少しでも皆さんの理解の助けになれば幸いです。