後見開始の審判をするための要件ってどんななの?
本記事では,民法7条の後見開始の審判について解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 民法7条の趣旨が理解できる
- 『事理を弁識する能力を欠く常況にある者』の意味がわかる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
条文の性格
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
民法 第7条【後見開始の審判】
民法の参考書を前から読み進めていくと、制限行為能力者とか成年被後見人とか難しい言葉がワラワラ出てくるところがあります。
それがちょうど,この民法7条に差し掛かったあたりです。
なので、私はこの7条は学習者をふるいにかける鬼門、その学習の先に進めるかどうかの門番の様なイメージを持っています。
民法を学ぶうえで、学習につまずいて脱落していくかどうかの、ターニングポイントになる条文だと思ってます。
とは言っても、実は7条が言ってること自体は全然難しくありません。
鬼門になってしまっているのは、民法7条を読む前提として「なぜ制限行為能力者という制度があるのか」という点をあやふやだからです。
この点を抑えつつ,解説していきます。
条文の能力
制限行為能力者とは
制限行為能力者とは、法律行為をすることを制限されている人のことです。
とは言っても、「あなた!法律行為しないでください!制限します!」と命令しても、四六時中、その人が法律行為をしないように監視することは不可能です。
そこで民法は、制限行為能力者に該当する人が法律行為をしてしまった場合、後になってからその法律行為を取り消すことができる、というかたちで、法律行為をすることの制限を実現しています。
この後から法律行為を取り消すことができる権利を、取消権と言います。
なぜ制限行為能力者という制度があるのか
大きな目的は、自身が行おうとしている法律行為の経済的不利益性・危険性を、自分で判断できない人たちの保護です。
制限行為能力者は、もしも自分に不利益な法律行為(契約など)をしてしまったとしても、後から法律行為を取り消して,無効化することができるので、あらゆる危険に対し、いざとなったら対処することができます。
しかしながら、法律行為(契約)には相手方がいるわけで、相手方の保護も重要になってきます。
買主である相手方からしたら、売買契約で欲しいモノを手に入れられた!と、喜んでいたのに、後になって契約が取り消されてしまったら、また別の人と売買契約して手に入れないといけません。
このように,制限行為能力者に与えられる取消権という権利は,後から契約を無きものにできることから,チート級に強力な効力を有します。
したがって、相手方保護の観点から、取消権を誰にでも簡単に与えることは望ましくありません。
そこで民法は、手厚く保護すべきで対象である”自分の法律行為の危険性を判断できない人”を、以下の4パターンに分類しました。
- 未成年者
- 成年被後見人
- 被保佐人
- 被補助人
この4パターンに当てはまる人が、制限行為能力者として認められ、取消権を与えられます。
誰が制限行為能力者なのか
制限行為能力者には、後出しジャンケンで法律行為を取り消せる能力が与えられ、この取消しが実行されると相手方が犠牲になります。
したがって、制限行為能力者を保護する制度は、取引の相手方の犠牲の上で成り立っている制度とも言えます。
よって、制限行為能力者という身分は、自身の法律行為の危険性を判断できない、本当に保護を必要とする者にのみ認められます。
民法では、4種類の制限行為能力者が認められています。
ひとつ目は、未成年者です。
精神的にも未熟な傾向にある未成年者は、法律で手厚く保護するに値するでしょう。
幼稚園児や小学生に高度な経済的判断を要求することは酷であるのは自明ですので、民法5条によって未成年者とされる者は、一律に制限行為能力者として扱っています。
未成年者なら、(つまり年齢だけで判断されて)誰でも制限行為能力者となります。
残りの3種類は、成年しているが、精神的な病気などで正常な判断が難しい人が対象となります。
判断能力の欠落度が高い順に制限行為能力者を、成年被後見人>被保佐人>被補助人としました。
(取り消せる範囲も被後見人>被保佐人>被補助人の順に広いです。)
改めて民法7条を見てみる
ここまでの内容を踏まえると、民法7条が何を言っているのかわかってきます。
まず7条は制限行為能力者の分類のうち、成年被後見人のことについて定めています。
そして、誰が成年被後見人になれるのか、そして成年被後見人なるにはどうすれば良いのか、が書いてあります。
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
民法 第7条【後見開始の審判】
誰が成年被後見人となれるのか
成年被後見人になれるのは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者です。
つまり、精神上の障害によって自身の法律行為の危険さが全くわからない人です。
重度の認知症患者をイメージして頂ければ良いかと思います。
『事理を弁識する能力』は「事理弁識能力」と言ったりもします。
事理弁識能力とは、行おうとしている法律行為が自身に及ぼす経済的不利益の多寡を判断できる能力のことです。
事理弁識能力を”欠く”ということは、事理弁識能力が”ゼロ”であることを意味します。
被保佐人の事理弁識能力は”著しく不十分”であり、被補助人の事理弁識能力は”不十分”であるという表現の差に注意してください。
著しく不十分・不十分という表現は、”かなり少ないけど、ゼロではない”というニュアンスを含んでいます。
事理弁識能力がゼロか、そうでないかは、代理人の代理権が消滅するか・追認可能の始期に影響を与えています。
以下の記事で詳しく解説していますので、併せて読むと、より総則の理解が深まると思いますので是非読んでみてください。
成年被後見人になるにはどうすればよいのか
被後見人になるには、家庭裁判所が審査し、認める必要があります。
そして、家庭裁判所に審査を請求できる人は誰でもできる訳ではなく、条文に列記されている人たちのみです。
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
民法 第7条【後見開始の審判】
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。
コメント
筆者が、民法を生まれて初めて学習している時、いきなり制限行為能力者をバンバン言われて、意味不明の渦に引きずり込まれたのを憶えています。
民法の各条文やルールには必ず意味や、制定されたバックグラウンドが存在するので、わからなくなったらネットとかで「○○ なぜ」「○○ とは」と調べてみると良いです。
参考文献など
参考文献
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最後まで読んでくださり,ありがとうございました。