今回は民法条を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
民法 第21条【制限行為能力者の詐術】
条文の性格
いよいよ、制限行為能力者に関する最後の条文です。
この21条は、制限行為能力者が持つ取消権というチート能力を、完全に無に帰する場合のルールを規定しています。
いくら民法という法律が、制限行為能力者は手厚く保護します!と言っていても、流石に悪意を持って相手方を欺いた人は保護しません!というのが、この21条です。
個人的に、この21条がいなかったら、日本は未成年者を悪用した詐欺が暗躍する国になっていたんじゃないかと思ってます。
一個前の条文の20条も、どちらかと言うと相手方の保護をメインに据えた条文でしたが、20条4項のように制限行為能力者側の保護規定も含んでいました。
明確に相手方のみの保護を規定しているのはこの21条だけであり、その条文が制限行為能力者枠の最後に来ているあたり、全体を律している厳かな雰囲気を感じる条文です。
条文の能力
嘘をついた制限行為能力者は保護されない
制限行為能力者が、行為能力であることを信じさせるために詐術を用いていた場合、制限行為能力者の取消権行使を、21条が問答無用で許しません。
民法1条で、法律を使う人間に対して、信義則に沿って権利を行使しろと言っている以上、民法という法律自身も、不届き者には厳しく対処すると意志を感じますね。
ちなみに詐術とは、相手をダマすために嘘をつくことです。
この21条が適用されると例を見てみましょう。
未成年者Aさんは、新しく日本でできるカジノで豪遊したいと思い、消費者金融に対して自身が成人であると偽造した身分証を提出して、300万円を借りた。
その後、カジノで全ブッパして惨敗し、300万円を浪費してしまった。
未成年者Aさんは、自身が未成年者であることを利用して、消費者金融との契約を取り消して借金を踏み倒そうと考えた。
以上のcaseですと、未成年者Aさんは消費者金融に対して、自身を成人=行為能力者であると信じさせるために、身分証を偽造しています。
そのため、21条の要件を満たし、未成年者Aさんは取消権を失い、契約を取り消して借金を無かったことには出来ないわけです。
いくら制限行為能力者として保護されているからといって、その制度を悪用しようとする制限行為能力者を、民法は守ってくれないわけですね。
消極的な詐術
前述のcaseでは、未成年者Aさんは身分証を偽造するなど、自分から「私は行為能力者(成人)だぞー!」と積極的に詐術を用いています。
では、消費者金融と契約するとき、特に年齢確認もされず、身分証の提示も要求されなかったので、未成年者であることを黙っていた場合はどうでしょうか?
これは詐術にあたらない、すなわち未成年者Aさんは後から契約を取り消せるとされています。
しかし、契約する時に「(嘘だけど)成人式では暴れてニュースに出たぜー!」とか「(嘘をだけど)東大を卒業してる」などと、その他の言動や状況が相まって、相手に「成人してるな」と誤解させた場合は21条の詐術にあてはまるとされています。
21条が適用される範囲
21条には、”制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、~...”と書いてあります。
そのため、行為能力者であると信じさせるための詐術が行われた時だけが、21条の守備範囲になります。
未成年者が自分は未成年者だと打ち明けて、本当は偽物と知っている遊戯王カードのレプリカを、本物と偽って販売したような、行為能力者と信じされるため以外に詐術がされた場合は、詐欺行為として民法第96条の守備範囲となります。
コメント
長かった制限行為能力者に関する条文もこれで最後となりました。
制限行為能力者の分野は、民法学習を始めるとかなり序盤に登場しますが、そこそこ難しいんですよね。
しかも、未成年者は皆さんも経験してますが、後見やら保佐やら補助なんてのは日常生活でも聞いたことも無かったりするので、イメージも湧きにくい…。
民法における最初の鬼門だと思います。
本ブログで各条文を追ってくれた方は、全体像が頭に入っているので、問題に取り組んでみると解ける問題もあると思います。
是非、早めに過去問に取り組んで試験問題の傾向に慣れてみてください。