相殺って,法学を学んだことのない人でも知っている用語なのに,勉強してみると,憶えることが多すぎて頭がパンクしそうです…。
基礎の基礎から,相殺がどのようなものなのかを整理したいので…教えて下さい!
本記事は,民法505条に規定されている相殺制度についてと,相殺の持つ3つの機能について,イラストを豊富に用いてわかりやすく解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 相殺の概要を知ることができる
- 相殺が持つ3つの機能を知ることができる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
※本ブログでは,記事内容を要約したものを先に【結論】としてまとめ,その後【解説】で詳細に説明をしていますので,読者さまの用途に合わせて柔軟にご利用ください!!
【結論】相殺は,債権を消滅させる弁済・更改・混同・免除の仲間のひとり
民法505条 【相殺の要件等】
1 2人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。
相殺とは,相互に同種の目的の債権を持っている場合,意思表示のみをもって債権を滅殺(消滅)させ,弁済をし合ったのと同じ状況にすることをいいます。
相殺には,以下の3つの機能(メリット)があると言われています。
- ①:簡易決済機能
- ②:公平保持機能
- ③:担保的機能
本記事は【解説】フェーズが非常に詳細なので,【結論】フェーズは必要最低限の記載&図解としました!
是非ここから先を時間をかけて読み進めてください!
【解説】相殺は意思表示のみで成立する簡易弁済手法
民法505条本文:相殺とは?
相殺とは,相互に同種の目的の債権を持っている場合,意思表示のみをもって債権を滅殺(消滅)させることをいいます。(民法505条1項)
民法505条1項 【相殺の要件等】
1 2人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。
たとえば,AさんがBさんに200万円貸していて,BさんがAさんに100万円貸している,同種(=100万円の金銭債権)の債権を持っているような状態のとき,Aさん(またはBさん)が「50万円分(=同種)の債権を相殺します。」と意思表示することによって,100万円分のお互いの債権が消滅します。
その結果,AさんがBさんに引き続き残りの100万円貸していて,BさんはAさんには何も貸していないという状況ができあがります。
相殺の3つの機能とメリットたち
相殺がどのようなものかはわかったけど…,相殺という制度が認められているのはなんで?
相殺になにかメリットがあるの?
実は,相殺は実務上においてメリットだらけなんだ。
メリットがあるからこそ,法律・条文を用意してまで相殺という制度が設けられているんだ。
デメリットは,相殺という制度があるせいで,相殺という分野について,試験勉強をしなければいけないし,憶えなきゃいけないことが多くなることだね...!笑
そのデメリットが一番でけぇぇ・・・。
相殺には,以下の3つの機能(メリット)があると言われています。
- ①:簡易決済機能
- ②:公平保持機能
- ③:担保的機能
それぞれの内容について,ここから見ていきましょう。
①:簡易決済機能
本来,債権を消滅させるための原則手段は弁済です。
弁済は,民法473条の記事でも解説していますが,弁済の提供と受領の2つが揃うことで完了します。
したがって,原則として,弁済には弁済の提供,すなわち現実の提供を行う必要があります。
ところが,常に現実の提供を必要とすると回りくどいケースが存在します。
それが,債権者同士が互いに同種の目的の債権を持っているケースです。
このとき,もし相殺という制度がないとすれば,弁済(現実の提供)をして債権を消滅させる必要があります。
つまり,Aさんは手元の100万円をBさんに渡し,Bさんは手元の100万円をAさんに渡すという現実の提供をしなければいけないのです。
100万円をお互いに直接会って渡すならば,時間・交通費もかかりますし,現金を持ち歩くという危険がつきまといます。(100万円を現金でカバンに入れていたら…ドキドキしますよね?)
また,銀行口座に振込むにしても,振込手数料がかかってしまいます。
そこで,このまわりくどいやりとりを省略して,活躍してくれるのが相殺です。
そもそも,先ほどの100万円を直接弁済し合ったAさんとBさんは,お互いに手元の100万円束を交換しただけであり,下図のとおり,交換前と後では手元のお金の額は何も変わっていません。
それであれば,いちいち時間やお金(手数料)のような手間をかけたり,現金を紛失するリスクを負ってまで現実の提供を行う必要は無いともいえます。
そのため,民法は同種の債権をお互いに持っている場合は,「お互いに現実の提供をし合ったよね!」という意思表示のみによって,本当は現実の提供をし合っていないのに,現実の提供をしたこととして債権を消滅させる相殺という制度を認めたのです。
この相殺が持つ,現実の提供を省略し,意思表示のみで債権を消滅させる(=弁済と同じ法的効果)性質は,弁済よりも簡単に債権を消滅させる機能と捉えることができます。
この機能を“簡易決済機能”と呼んだりします。
②:公平保持機能
先ほど見たとおり,相殺は意思表示のみで弁済をしたのと同じ状況を生み出すことができます。
相殺の意思表示については「相殺しますがいいですか?」というような相手方への確認は不要です。
つまり,「相殺します」という一方的な意思表示だけで相殺は成立し,相手方の相殺についての承諾は必要有りません。
一方的な意思表示のみで相殺は成立するので,「(弁済を行うときのような)受領しません。」という受領拒否や,一方の当事者は債務履行したのに相手方は債務履行をしてくれないことによる債務不履行や履行遅滞のようなトラブルが発生する…ということはありません。
このように相殺においては,意思表示のみをもって,両当事者の同種の債権が同時に消滅することから,両当事者が公平に弁済を行う状況をつくることができます。
これを,相殺の公平保持機能と呼びます。
③:担保的機能
両当事者が同種の債権を持ち合い,いざとなれば相殺を行うことができるようにしておくことで,“相殺”が一種の担保のようになることがあります。
たとえば,CさんはDさんに以前一緒に行ったときの呑み代3,000円を立て替えており,DさんはCさんに以前一緒に行ったときのランチ代2,000円を立て替えているとします。
このとき,Dさんが日ごろの無駄遣いが奥さんに発覚し,怒りの鉄槌“お小遣い半年間廃止の大号令”が発布されたとします。
無駄遣いをしているDさんには貯金はありません。
そうすると,Aさんは立て替えて貸している3,000円を回収するためには,半年間待たなければいけないのが通常です。
しかし,このような状況においてAさんが相殺を行えば,半年間待つことなく”2,000円分については“すぐに回収することができます。
なぜなら,お互いに2,000円分については『2人がお互いに同種の目的を有する債務を負担する(民法505条1項)』状況となっているため,相殺をすることで(前述の①簡易決済機能により)お互いに2,000円分弁済を行ったのと同じ状況を創り出すことができます。
すると,どうでしょうか?
Bさんがお小遣い廃止による弁済不能状態という不測の事態にも関わらず,Aさんは3,000円のうち2,000円については,回収に成功しています。
これは,“相殺ができる状況にしておく”ことで,“あたかも不測の事態に備えて,担保を取ってた”と評価できると言えます。
もし,Aさんの他に,Bさんに同じく3,000円を貸していただけの無担保債権者Cさんがいたらどうでしょうか?
Cさんは担保もありませんし,Bさんは貯金もありませんし,相殺もできないので,3,000円の回収には半年間待たなければいけないのです。
このように,相殺を利用すると,“相殺可能額については,あたかも担保を取っていたかのような状況にできる”ことを,相殺の担保的機能と言います。
民法505条1項ただし書き
民法505条1項ただし書き
1 2人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
ただし書きを見ると,債務の性質がこれを許さないときは相殺できない,と規定されています。
たとえば,喧嘩をしてしまって,その後に和解して“お互いにごめんなさいと謝る”という約束をしたとします。
この“お互いにごめんなさいと謝る”,言い換えて“お互いにごめんなさいと謝らせることができる”というのは立派な債権です。(債権というのは,特定の相手に,特定の行為をさせる権利でしたよね!)
そして,同種のこの謝罪させる債権をお互いに持っていることになるので,相殺ができそうとも言えそうです。
では,この謝罪させる債権が相殺できそうだからと言って,相殺をするとどうなるでしょうか?
相殺すると,弁済(=履行)したのと同じ状況になりますので,謝罪したことになります。
しかし,現実世界で一言も「ごめんなさい」と伝えてないのに謝ったことになった…としても多くの人は納得できないですし,ちゃんと謝って欲しいと思います。
しかし,相殺によって弁済完了となっており,債権は消滅してしまっているので,相手の謝らせる権利はすでに失ってしまっています。
そうすると,お互いに謝らなくてよいので,相殺をすると,下図のように,お互いに絶対に謝ってはいけない24時状態になってしまいます。
相殺をすることで,かえってよろしくない結果になってるよね…?
このように,債務の性質が相殺になじまないときは,相殺できないんだ。
だから505条1項ただし書きが設けられているんだよ。
民法505条2項:相殺の禁止制限について
民法505条2項
2 前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。
まず,相殺を禁止すること自体が可能かどうかですが,これは可能とされています。
民法505条2項が『当事者が相殺を禁止し・・・た場合には・・・』と,相殺禁止ができる前提で書かれているためです。
(※ちなみに,一律相殺NG=禁止,一定の条件下では相殺OKでそうでなければNG=制限と考えて頂ければ大丈夫です!)
では,その相殺禁止等の当事者の取り決めは誰に対しても有効とできるのでしょうか?
まず,相殺という制度が民法典に条文が用意されているのですから,「債権というものは,相殺が可能である」と,第三者は当然に考えるという前提があることを理解しておきましょう。
そうすると,「債権は相殺できるもの」との認識で債権を譲り受けたはいいものの,相殺が禁止・制限されている債権だった時,相殺禁止(or制限)債権を譲り受けた者はできると思っていた相殺ができずに不利益を被る可能性があります。
そのため,原則として,相殺禁止等の制限について,第三者に対して対抗することができません。
しかし,相殺禁止・制限について,第三者が悪意又は重過失(≒悪意)であるならば,知っていて相殺禁止(or制限)債権を譲り受けなどしているため,不測の不利益を被る危険はありません。
よって,悪意又は重過失の第三者に対しては相殺禁止等の制限について対抗ができるとされています。
相殺の要件等
民法505条の条文名は【相殺の要件等】となっているのですが,相殺の要件としての意思表示については民法506条に規定されています。
そのため,本記事では相殺の概念やメリットの解説に留めて,相殺の要件についての詳しい解説は民法506条の記事で行います。
相殺の学習ににおいては,相殺の要件と相殺適状の違いなど,勘違いしやすい点が多いので,505条の本記事だけでなく,是非民法506条の解説もあわせて読んでみて下さい!
(※2023年12月現在,民法506条は一生懸命作成中です! 少々お待ちください!)
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
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※前条の解説はこちらです。
(絶賛準備中です! もう少々お待ちください!)
※次条の解説はこちらです。
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参考文献など
参考文献
この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。
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最後まで読んでくださり,ありがとうございました。