留置権者は,留置物を自由に使っていいの?
本記事は,民法298条が規定する留置物の善管注意義務・使用制限とそのペナルティについて解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 留置物の善管注意義務,使用・貸借・担保設定の制限の趣旨を知ることができる
- 民法上の善管注意義務が課されているその他の規程を一覧できる
- 民法上の自己の財産に対するのと同一の注意義務規定を一覧できる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で行政書士に,2週間の独学で宅建に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
※本ブログでは,記事内容を要約したものを先に【結論】としてまとめ,その後【解説】で詳細に説明をしていますので,読者さまの用途に合わせて柔軟にご利用ください!!
【結論】民法298条は留置物のトリセツ!
民法298条 【留置権者による留置物の保管等】
1 留置権者は,善良な管理者の注意をもって,留置物を占有しなければならない。
2 留置権者は,債務者の承諾を得なければ,留置物を使用し,賃貸し,又は担保に供することができない。ただし,その物の保存に必要な使用をすることは,この限りでない。
3 留置権者が前二項の規定に違反したときは,債務者は,留置権の消滅を請求することができる。
本条文は,1~3項を通じて,留置権者が手元にキープした物をどのように扱うべきなのか?という点を定めたもので,留置物のトリセツ的な立ち位置の条文です。
民法298条1項
留置権者に対して,善管注意義務を課すことで,留置物を保護しようとするものです。
民法298条2項
留置権という権利はあくまでも「手元に物をキープする」ことのみができる権利であり,債務者のOKがない限り,留置物を使用・貸借・担保設定したりすることができない旨を定めたものです。
民法298条3項
留置権者が前2項に違反した場合,留置権の消滅,すなわち,「手元にキープした物を返せ」と主張をすることができるようになります。
【解説】留置物は”あくまでも他人の物である”ことを忘れない
民法298条=留置物の取り扱い説明書
留置権が成立すると,留置権者は(留置物)を手元にキープすることができるようになります。
手元に他人の物がある…ということで,この物の取り扱い方法をある程度ルール化しておかなければいけません。
人間は,他人のことには丁寧でも,自分のこととなると結構いい加減になりがちです。
読者のみなさんも,お客さんや友人が家に来るとなると部屋を整理整頓したり片付けたりするけど,来客がなければ部屋が散らかりまくってる人も多いのではないでしょうか?
そのため,留置権によって自分の管理下となった物がいい加減な取扱いをされないように,民法では人の善意に任せるのではなく,本条民法298条でしっかりルールを定めることとしたのです。
留置権者の善管注意義務
留置権者(留置物を手元にキープする人)は,善管注意義務を負います。
善管注意義務とは,最善を尽くして物を管理しなければいけない義務のことです。
善管注意義務のワンランク下に,自己の財産に対するのと同一の注意義務という,自分の物のように扱えばOKとされる義務があります。
すなわち,善管注意義務とは,自分の物以上に大切に管理しなければいけないということです。
善管注意義務は,以下の規定で登場します。
【善管注意義務規定】
- 民法298条:留置権者の留置物
- 民法400条:特定物債権の目的物
- 民法644条:委任契約の受任者の事務処理
- 民法671条:組合員の組合業務
- 民法851条:後見監督人の後見業務
- 民法869条:後見人の後見業務
- 民法876条の3:保佐監督人の保佐業務
- 民法876条の5:保佐人の保佐業務
- 民法876条の8:補助監督人の補助業務
- 民法876条の10:補助人の補助業務
- 民法1012条:遺言執行者の遺言執行業務
- 民法1032条:配偶者居住権の居住建物
- 民法1038条:配偶者短期居住権の居住建物
また,自己の財産に対するのと同一の注意義務は,以下の規定で登場します。
【自己の財産に対するのと同一の注意義務規定】
- 民法413条:受領遅滞時の債務者の保管義務
- 民法659条:無報酬の寄託の受寄者
- 民法940条:相続放棄をした者の保管義務
善管注意義務であるケースの方が多いので,「自己の財産に対するのと同一の注意義務の方を憶えておいて,それ以外は善管注意義務」とするのが,試験対策としてベストだよ!
留置物を勝手に使ったり,貸したり,担保にしたりできない
留置権は,あくまでも”留置物を手元にキープするのみ”ができる権利です。
そのため,留置物を勝手に使ったり,人に貸したり,借金するときの担保にしたりできません。
ただし,債務者が承諾している場合は使用等してもOKとなります。
使用などができない(留置)物が,ただムダにこの世に存在しているだけよりも,債務者がOKというなら,その(留置)物を社会生活上で使用等して,有効活用した方が有意義だからです。
また,債務者の承諾関係なく,留置物を保存するために必要な使用をすることは問題ありません。
たとえば,留置物が猫だった場合に,さみしくてストレスを感じていそうなので,ナデナデしてあげたところ,留置権者も一緒に癒された(=癒され的使用)としても,それは猫をストレスから解放するための保存行為なのでOKということです。
善管注意義務違反・使用等制限違反があれば,留置権消滅請求OK
留置権者が,民法298条1項・2項に違反した場合,債務者は留置権の消滅を請求できます。
これにより,留置権が消滅し,債務者は留置物を取り戻すことができます。
しかしながら,債務は引き続き残っているので,債務者は債務履行義務を引き続き負っているのでご注意ください。
でも,留置権って,弁済期迎えてないと発生しないから…
履行遅滞の責任も負ってるし,遅延損害金も発生するね…
また,あくまでも留置権の消滅の請求ができるのであり,請求してはじめて留置権が消滅します。
自動的に留置権が消滅するわけではないから注意しましょう。
※留置権の内容や要件はこちらで詳細に解説していますので,あわせて読んでみて下さいね!
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
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※次条の解説はこちらです。
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参考文献など
参考文献
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最後まで読んでくださり,ありがとうございました。