履行遅滞の勉強を始めるといきなり『遅滞の責任を負う』って当たり前のように言われるし,テキストにも書いてあるんだけど,遅滞の責任ってなに?
本記事は,民法412条に関連する,履行期・履行遅滞・遅滞の責任・債務不履行の概念について,基礎からひとつずつわかりやすく解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 履行期・履行遅滞・遅滞の責任・債務不履行の概念を基礎から理解できる
- 請求を受けた時点から遅滞の責任を負うという早すぎる?履行遅滞スタート地点の理由がわかる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
【解説】履行遅滞は,3つある債務不履行のうちのひとつ!
民法412条【履行期と履行遅滞】
1 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
債権を正常に消滅させられなかったらどうなるのか?
債権というのは,特定の人に特定の行為をさせる権利のことです。
特定の行為のことを『債務』と呼び,その本旨に従って債務が履行されたときに,債権はその生涯を“正常に”終えることになります。
債務者は,基本的には,債務から発生するあらゆる責任からの解放を求め,債権を“正常に”終了させるために,弁済を完了することを目指すことになります。
それでは,弁済を目指してさえいれば,弁済を完了するのはいつになってもよいのでしょうか? それこそ100年後でもよいのでしょうか?
当然そんなわけはなく,債権にも債務の弁済を完了すべき期限,つまり賞味期限が存在します。
この債務の弁済を完了すべきタイムリミットのことを,履行期と呼びます。
つまり,さきほど「債務者は~・・・弁済を完了することを目指す」と言いましたが,より正確には「債務者は“履行期までに”弁済を完了することを目指す」というのが正しいと言えます。
それでは,弁済が履行期までに完了しなかったとき,債務者にはどのような影響があるのか?債務者はどのような責任を負うのでしょうか?
本記事で解説する民法412条がその点を規定していますので,確認していきましょう。
弁済が履行期までに完了しなかった=債務不履行
弁済が履行期までに完了しなかったことを,債務不履行と言います。
履行期が到来するまでに債務を弁済できれば“正常な状態である債務履行”となり,対して,履行期が到来するまでに債務を弁済できなければ“異常事態である債務不履行”ということになります。
つまり,履行期というタイムリミットの前後で,正常な弁済が行われたか,債務不履行という異常事態に陥ったのか,の大きな違いがあり,履行期というのが非常に重要な分岐点となります。
では,その肝心な履行期がいつなのか?ですが,履行期は3パターン存在します。
- ①:確定期限で決まっているパターン (民法412条1項)
- ②:不確定期限で決まっているパターン (民法412条2項)
- ③:履行期を何も決めなかったパターン (民法412条3項)
※“確定期限”や“不確定期限”などについては,こちら(民法135条)の記事で詳しく解説していますので,あわせて確認してみてください。
①:確定期限で決まっているパターンの履行期
この場合,確定期限を迎えた段階で債務履行が正常に完了していなければ,債務不履行状態となります。
②:不確定期限で決まっているパターンの履行期
不確定期限で履行期が決められている場合,以下のいずれかの早いときから債務不履行状態とされます。
- Ⅰ:期限が到来し,履行の請求を受けたとき
- Ⅱ:期限が到来したことを債務者が知ったとき
③:履行期を何も決めなかったパターン履行期
履行期を定めていなかった場合,履行の請求を受けた時点から債務不履行状態となります。
履行遅滞(債務不履行)に陥るタイミング,早すぎじゃない?
さっきの履行期パターンの②③なんだけど,期限到来を知った時点や,履行の請求を受けた時点から遅滞の責任を負うのはちょっと早計じゃない?
せめて,その相当の期間が経過したら~みたいにしてあげてもいいのでは?
請求を受けた瞬間から債務不履行だ!ってなんか怖い...。
たしかに,そんな考え方もあり得るね!
でも,債務者は債務を負っている側であり,自発的に率先して債務を履行すべきなんだ。
だから,債務者は履行期が”到来するより前に”弁済しないといけない立場にあると考えよう!
債務者は,確定だろうが不確定だろうが,期限が到来する“までに”弁済をすることで債務を負っている立場なのですから,期限が到来した時点ですでに遅いのです。
また,期限を定めなかったような場合(本条3項)において,その履行すべき時までの猶予(期限の利益)は債権者の好意によって与えられた猶予と言えます。
債務者はその債務者が好意で用意してくれた時間内に,すなわち履行の請求を受けることになる前に,弁済を完了すべき義務を負っている者なのです。
民法412条『遅滞の責任を負う』とは?
ここまでで,民法412条が定める“いつからが債務不履行なのか?”を確認しました。
民法412条には,肝心の,債務不履行になるとどうなるのか?についてもキチンと書かれています。
民法412条【履行期と履行遅滞】
1 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
『債務者は・・・遅滞の責任を負う』と書いてあります。
この”遅滞の責任を負う”が,債務不履行(履行遅滞)という異常事態を引き起こした債務者への影響・ペナルティとなります。
債務不履行(履行遅滞)を引き起こした債務者には,遅滞の責任が発生する,という影響はわかりました。
で,遅滞の責任ってなに?
・・・とりあえず,何らかの責任を取らされるんですよね?
遅滞の責任というのは,主に以下のことを受け入れなければならない立場に置かれる,と憶えておけばOKだよ!
【遅滞の責任 一覧】
債務不履行を引き起こすのは履行遅滞だけか?
民法412条は『履行遅滞』と題名についており,その名の通り,履行が遅滞したケースの債務不履行のルールを規定しています。
民法412条【履行期と履行遅滞】
1 債務の履行について確定期限があるときは、(以下,略)
『債務不履行』という言葉は,債務がその本旨に従って履行されないことを意味します。
では,債務が本旨に従って履行されないという状態を引き起こすのは,その履行期に間に合わないケースだけでしょうか?
この点,債務不履行は以下の3種類あるとされています。
- ①:履行遅滞(民法412条)
- ②:履行不能(民法412条の2)
- ③:不完全履行
履行遅滞は先ほど見た通りです。
履行不能と,不完全履行を確認しましょう。
履行不能(②)は,物理的・社会的にそもそも債務を履行することが不可能であることです。
履行不能,すなわち債務者として,債務の履行をすることが全くできない状況であっても,債務の履行を完了することができないという債務不履行という状態であることには変わりありません。
よって履行不能であっても,債務不履行責任を債務者は負うこととなります。
(履行不能という状況は,必ずしも履行期を過ぎているとは限らないため,履行不能である場合に債務者が負う責任は,遅滞の責任とは言わず,債務不履行責任といいます。)
同じく債務不履行責任を負う可能性があるのは不完全履行(③)です。
不完全履行とは,一応,履行っぽいことはしたものの,それが不完全だったようなケースです。
たとえば,中古車の売買契約において,売主が履行期までに中古車を納車しましたが,エンジンに不調があって中古車が不良品であったようなケースが不完全履行です。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
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※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。
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参考文献など
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最後まで読んでくださり,ありがとうございました。