危険負担の法理において,債権者主義?債務者主義?が採用されているそうですが…,いつもごっちゃになっちゃいます…。
混乱しないように,丁寧な解説をしてほしいです!!!
本記事では,危険負担の法理・危険負担の移転・債務者主義について,図を用いて基礎からわかりやすく解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 危険負担,債務者主義という概念を理解できる
- 危険負担が移転するタイミングを基礎から理解できる
- 法が危険負担というものをどのように実現しているかがわかる
- 危険負担の法理を一発で暗記できる魔法の格言を知ることができる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
※本ブログでは,記事内容を要約したものを先に”結論”としてまとめ,その後”解説”で詳細に説明をしています。 ”結論”のみ読んで知識の再確認,”結論”+”解説”で詳細を理解...など,読者さまの用途に合わせてご利用ください!!
結論:民法は危険負担について債務者主義を採用している
民法536条 【債務者の危険負担等】
1 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
危険負担とは,天災などの不可抗力で債務が履行不能になった(引渡しの目的物が滅失した)際に,債権者(物を受け取る側)と債務者(物を引き渡す側)のどちらが不利益を被るのか,という法概念です。
危険負担の法理とは,上記の不利益を被る側をどちらとするか定めたルール(法理)のことです。
民法では,債務履行(引渡し)前までは債権者に反対給付履行拒絶権を認め,債務者が危険を負担する債務者主義を採用しています。
試験対策として,危険負担の法理を理解する魔法の格言は「危険は物についていく」です。
※格言の詳細については,後の解説フェーズで詳しく説明しています!
解説:危険負担の法理の魔法の格言「危険は物について行く」
※民法536条は『債務』と条文中表現しており,物の引渡し以外の債務全般を含む趣旨の条文ですが,説明をわかりやすくするため,本記事では”『債務』=物の引渡し債務”として説明します。
危険負担とは
危険負担とは,天災などの不可抗力で債務が履行不能になった(引渡しの目的物が滅失した)際に,債権者(物を受け取る側)と債務者(物を引き渡す側)のどちらが不利益を被るのか,という法概念です。
そして,危険負担の法理とは,上記の不利益を被る側をどちらとするか定めたルール(法理)のことです。
指輪の売買契約が成立したケースを具体例として,考えてみましょう。
目的物である指輪を引き渡すという債務が,不可抗力で履行不能になってしまった場合,債務履行が実現することは絶対にできないことになります。
すなわち,債権者(物を受け取る側)は物を受け取ることが出来ないわけです。
ここで気をつけてほしいのは,債権者(物を受け取る側)から債務者(物を引き渡す側)への商品引渡し請求債権は履行不能になっても,債務者(物を引き渡す側)から債権者(物を受け取る側)への商品代金請求権である債権は,まだ権利としてきちんと残っているというところです。
そうなると,不可抗力で商品引渡し債権が履行不能になったとき,商品代金請求権を生存させたままにする=債権者(物を受け取る側)が負う反対給付義務を残すならば,債権者(物を受け取る側)は目的物を手に入れられないのに反対給付をしなければ(売買代金のお金を払わないと)いけません。
逆に,不可抗力で売買物引渡し債権が履行不能になったとき,商品代金請求権を生存させない=債権者(物を受け取る側)が負う反対給付義務が残さないならば,債権者(物を受け取る側)は反対給付をしなくても(売買代金のお金を払わなくても)OKということになります。
このように,不可抗力で物の引渡しが不可能になってしまうと,債権者か債務者のどちらかが必ず“不利益”を被ることになります。
そして,この“不利益を被る”ことを,民法では“危険負担”と表現するのです。
危険負担の法理と反対給付拒絶権
不可抗力で債務不能になった際には,必ず不利益を被る者が発生し,この不利益を被ることを,危険負担と呼ぶことをここまでで確認しました。
前述したとおり,債務が実現不可能という現実がある以上,必ず債権者or債務者のどちらかが危険を負担しなければいけません。
そして,債権者or債務者のどちらが危険を負担するのかを定めたルールのことを危険負担の法理と呼びます。
民法は,反対給付拒絶権を認めるか認めないかで,債権者or債務者のどちらが危険を負担するのかをコントロールし,危険負担の法理を形成しています。
つまり,債権者(物を受け取る側)に反対給付拒絶権(商品代金支払い拒絶権)を認めるか否かで以下のように【債権者主義】or【債務者主義】のコントロールが可能です。
【債権者主義】
債権者主義=債権者が危険を負担する=物を受け取っていないのに代金を支払う=反対給付拒絶権を認めない
このように,反対給付拒絶権を認めないと,債権者(物を受け取る側)が損をすることとなり,これを債権者主義といいます。
【債務者主義】
債務者主義=債務者が危険を負担する=物を受け取っていないので代金を支払わなくてよい=反対給付拒絶権を認める
このように,反対給付拒絶権を認めると,債務者(物を引き渡す側)が損をすることとなり,これを債務者主義といいます。
民法は債務者主義を採用している
債権者主義・債務者主義を学びましたが,結論から申し上げると,民法は債務者主義を採用しています。
つまり,物の引渡しが完了する前において,物が不可抗力で滅失した場合,危険を負担するのは債務者(物を引き渡す側)です。
すなわち,債権者(物を受け取る側)には反対給付拒絶権(代金支払義務拒絶権)を手に入れることができ,お金を支払う必要の無くなる債権者が保護されるのです。
これは民法536条1項にきちんと書かれています。
民法536条1項 【債務者の危険負担等】
1 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
『当事者双方の責めに帰することができない事由によって』は,“不可抗力で”という意味です。
『債務を履行することが“できなくなった”とき』という日本語には,“まだ債務が履行されていないのに,履行不能になった”というニュアンスが含まれています。
債務が一度でも履行されたのなら,債務を履行することが“できなくなった”状況には陥らないからです。
そして,『債権者は、反対給付の履行を拒むことができる』のですから,債権者には反対給付拒絶権が認められ,商品代金支払を拒むことが可能であり,債務者が危険を負担するのです。
したがって,民法536条1項により,民法は債務者主義を採用していると言えるのです。
危険負担の移転
ここまで,民法は危険負担において債務者主義を採用していることを条文から学びました。
しかし,あくまでも債務者(物を引き渡す側)が危険を負担するのは,“債務を履行するまで=物の引渡し”のときまでです。
これは民法567条1項に書かれています。
民法537条 【目的物の滅失等についての危険の移転】
売主が買主に目的物を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
引渡しの時以後,買主(=債権者=物を受け取る側)は,代金の支払いを拒めない(=反対給付拒絶権が認められない)と書かれています。
すなわち,債務の履行=物の“引渡し”が行われたとき,不利益を被るのが債務者(物を引き渡す側)から債権者(物を受け取る側=条文中の『買主』)へ移るのです。
債務の履行=引渡しをトリガーとして,不利益を被る者が債務者から債権者へ移転する現象を,危険負担の移転といいます。
魔法の一言「危険は物について行く」
さて,危険負担の移転を含めた危険負担の法理について,試験対策として暗記できる魔法の言葉を教えます。
それは,「危険は物について行く」です。
「危険は物について行く」について,図を用いて説明します。
民法は債務者主義を採用していますので,物を引き渡すときまで,危険を負担するのは債務者(物を引き渡す側)です。
つまり,スタート段階では,危険も物も債務者が持っていることになります。
債務の履行がされたとき(民法536条1項),目的物を引き渡したとき(民法567条1項),債権者は反対給付拒絶権を失います。
ここまで学習をした読者様であれば,債権者が反対給付拒絶権を失うということは,債権者(物を受け取る側)が危険を負担するということが理解できると思います。
したがって,物の引渡しと同時に危険も債務者から債権者に移ることになります。
おおお!
引渡しをトリガーとして,物も危険も債務者から債権者に移っている!!
これが「危険は物について行く」なのですね!
民法のどこかの条文に「危険負担は引渡しで債権者から債権者に移転する」というように書かれているわけではありません。
しかし,
- 債務者主義が採用されたことで,物も危険もスタート地点が債務者になっている
- 民法536条&567条により,危険が移転するのが“引渡し”のときになっている
- 物が移転するのも“引渡し”のとき
という状況やルールが揃った結果,「危険は物について行く」という格言が出来上がるのです。
民法536条2項の解説
民法536条2項前段
格言と大それたことを言った手前恐縮なんでが,「危険は物について行く」にも例外があります。
それは,債務者(物を引き渡す側)が危険を負担しているときに,債権者(物を受け取る側)のせいで債務の履行=物の引渡しが不可能になった場合です。
たとえば,指輪を債権者が故意に海に投げ捨てて滅失させたようなときです。
このときは,有責である債権者に反対給付拒絶権を認める必要はありませんので,物は移転してませんが,危険負担は債権者に移転する構成となっています。
民法536条2項 前段 【債務者の危険負担等】
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。
民法536条2項後段
民法536条2項 後段 【債務者の危険負担等】
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
たとえば,売買の目的物である指輪に保険がかけてあり,この指輪を債権者が手を滑らせて指輪を排水溝に落としてしまい,行方不明になってしまったとします。
このとき民法536条2項前段により,債権者が危険を負担し,反対給付拒絶権が認められませんので,反対給付(指輪の代金支払い)を,債務者は請求することが出来ます。
債務者は,この売買代金を請求し,現に代金を手に入れたとします。
また,指輪には保険がかけてありましたので,債務者は保険金も手に入れられたとします。
このとき,債務者は売買代金と保険金の両方を手に入れることができたことになります。
指輪紛失という事故を利用して,売買代金と保険金の二重取りとなっており,債務者が儲けてしまっていることについて,民法は良しとは考えないようです。
すなわち,債権者の帰責により指輪紛失により,債務者は指輪という物的資産を渡す『債務を免れたことによって』,保険金という『利益を得た』ことになるため,この得た利益を債権者に償還することになります。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
(絶賛準備中です!)
※次条の解説はこちらです。
(絶賛準備中です!)
※本記事でよく出てきた『引渡し』については以下の記事で詳しく解説しています。
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参考文献など
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