今回は民法116条を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語です
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
追認は,別段の意思表示がないときは,契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし,第三者の権利を害することはできない。
民法 第116条【無権代理行為の追認】
条文の性格
民法113条において,無権代理を本人の追認によって,本人に効果が及ぶという関係において有効とすることが出来る旨が定められてました。(民法113条)
では,追認が行われた場合,無権代理行為が本人との関係で有効と扱われるようになるのは,どのタイミングからでしょうか?
その答えを担当するのが116条の役割です。
原則は無権代理行為時を始点として基準とし,私的自治の原則を踏まえ,当事者たちの意志が広く入り込む猶予を認めるかたちで規定されています。
116条には,ただし書部分も有るのですが,この部分はその適用範囲がかなり狭く,なかなか活躍する場面が無い点も,本条の個性として確認していきましょう。
条文の能力
無権代理行為の追認効果の起算点は,無権代理行為の契約時
追認の,本人との関係での効果発生は,原則として,無権代理行為の時からです。
すなわち追認によって無権代理行為が有効な代理行為となるのは,追認した時点からではなく,無権代理行為が行われた時点から,が原則ルールです。
つまり,無権代理行為の追認には遡及効が認められています。
遡及効とは,法律効果がその法律要件を満たした時点よりも前に効力を持つことです。
当事者たちで起算点を変更しても良い
前述のとおり,無権代理行為の追認効果は無権代理行為時から発生するのが原則です。
ただ,116条に『別段の意思表示がないときは』原則ルールに従う,と書いてあるとおり,別段の意思表示が有れば原則ルール以外の起算点も認められます。
すなわち,当事者たちが意思表示すれば,追認効果発生の起算点を好きに決められるということです。
(発展)追認効果の遡及効は,第三者の権利を害することができない
さて,本条のただし書きですが,おそらくですが行政書士試験には滅多に出題されないと考えています。
仮に出題されても「無権代理行為の追認の遡及効は,第三者の権利を害することができない」という条文知識がそっくりそのまま問われると思われます。
したがって,試験対策としては条文に書いてあることそのままを何となく認識していればOKかと…。
そのため,本段落は興味のある人だけが読んで頂ければいいかなと思います。
なんでこんなことを言っているのかというと,116条ただし書きが活躍できる場面というのがかなり限られるからです。
たとえば,不動産に関する無権代理行為の場合,不動産の二重売買の問題として,民法177条で解決をするため,116条ただし書きの出番はありません。
また,動産の譲渡が無権代理の場合は178条,動産の取引行為が無権代理の場合は192条が担当します。
え,じゃあ116条ただし書きの出番としては何があるん?て話ですよね。
一応,判例としては以下のようなパターンが116条ただし書きの適用例となっています。
本人の代理人として代理権の無い人が,相手方から売買代金を受けとるのは,無権代理行為に該当します。
ここで,第三者が転付命令を得た後,本人が当該売買代金債権の受領について追認をした場合が116条ただし書きの出番です。
上記の転付命令を得た第三者は,116条ただし書きによって,その権利を害されることなく転付命令で債権回収の実現が可能です。
コメント
法律の条文たちは,必要だから存在しています。
ただ,民法177条のように,不動産取引の安全に大きく寄与して,実社会に無くてはならない存在として広く活躍している条文もあれば,116条ただし書きのように,ニッチな範囲を担当するが故に活躍する場面が少ない条文も存在します。
それも個性であり,条文学習としても面白いですが,試験対策としても個性は対策になります。
試験としてよく問われるのは,やはり民法177条のような広く利用されている王道の条文です。
逆に本116条ただし書きのような,適用範囲がかなり狭い条文は試験でも問われにくく,仮に問われても,問われ方も限られています。
そこのメリハリをつけるのを,条文の個性から判断することも有効です。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。