今回は民法117条を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
1 他人の代理人として契約をした者は,自己の代理権を証明したとき,又は本人の追認を得たときを除き,相手方の選択に従い,相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は,次に掲げる場合には,適用しない。
民法 第117条【無権代理人の責任】
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし,他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは,この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
条文の性格
1項は,無権代理が行われた際,以下の①か②のどちらかを満たせなければ,無権代理人には無過失責任を負わせる,という非常に重たい規定です。
- ①代理権があることを証明する
- ②本人の追認を得る
無過失責任とは,たとえ過失の無い行為だったとしても,その行為によって損害等が発生した場合は,当該損害等に対して責任を負うことです。
2項は,以下の③〜⑤に該当する場合は,無権代理人を1項の無過失責任を免責してあげる,という救済の規定です。
- ③無権代理について相手方が悪意
- ④無権代理について相手方が有過失
- ⑤無権代理人が制限行為能力者
117条1項と2項を併せて考えると,117条は,無権代理人に無過失責任を課したうえで,前述の①〜⑤の免責パターンを5つ認める,という構成になっています。
大事なところなので何度も言いますが,無権代理人は自分に代理権が有ると過失無く信じて代理行為をしても,結果として無権代理だったのならば,相手方に対して責任を負うことが原則です。 無過失責任を負わせる原則は,取引の相手方の保護と,代理制度に対する信頼保全の必要性から導かれます。
ただ,どんな場合でも無権代理人に無過失責任を負わせるのは酷であるため,無権代理人が免責される場合を5つ定めることで,無権代理人と相手方とのバランスを117条が取っています。
ここまで述べた117条の構成を頭に入れると,本条の見通しがすごく良くなります。
117条の見通しをよくするために,無権代理の相手方が出来ることを以下の記事で図解しています。
併せて読んで,頭の中の整理に是非役立ててください!
条文の能力
無権代理人は無権代理について,無過失責任を負う
無権代理人と聞くと,みなさんはどのような人をイメージしますか? 代理権も無いのに勝手に代理行為した非常識クソ野郎ってイメージでしょうか?
「無権代理人」と聞いた時に,必ず非常識クソ野郎を連想するのは少し危険かもしれません。
無権代理人の中には,自分は代理権を持っていると信じている者もいます。
たとえば,上司から「ホッチキスが置いてあるコンビニ見つけて来て欲しいんだけど」とお願いされたAさんがいます。 Aさんは『見つけてきて』を『買ってきてくれ』だと解釈し,代理購入しました。 このとき,上司が購入することまでは依頼をしていなかったのなら,このAさんの行為は無権代理です。
無権代理人は必ずしも非常識で身勝手な人物であるとは限らないのです。 むしろ相手の気持ちを先読みしすぎたAさんのような優しい人が,無権代理人となってしまうケースもあり得るのです。
しかしそれでも117条は,過失の無い心優しいAさんのような人だろうと,非常識クソ野郎だろうと関係なく,一律に無過失責任を負わせる非常に厳しい姿勢を取ります。
117条がこれだけ厳しい姿勢を貫く理由は,相手方の保護にあります。
代理行為をした人に過失が有ろうと無かろうと,無権代理行為をしたと事実には変わりありません。
無権代理行為の相手方との関係で考えれば,無権代理行為をした人を優先して保護する必要は無いため,基本姿勢として相手方の保護を優先しているわけです。
また,代理制度への信頼を保全することも,無権代理人へ無過失責任を課すことの理由です。
無権代理に対して何もペナルティが無いとなると,無権代理が横行し,誰も代理制度を利用したがらない状態になります。
相手方からすると,代理人だと思って契約したら無権代理人だったがために,契約が有効にならず,その履行も損害賠償請求もできないようでは,代理制度を利用することに常に大きなリスクが伴います。
これでは「代理は心配だから本人連れてきてよ」と,本人と直接取引することがデフォルトになり,誰も代理制度を利用しなくなるでしょう。
したがって,無権代理については無過失責任を負わせることが必要なのです。
上記で述べた,無権代理人対して無過失責任が課される理由は,判例でも言及されていますので確認しておきましょう。
『同法一一七条による無権代理人の責任は,無権代理人が相手方に対し代理権がある旨を表示し又は自己を代理人であると信じさせるような行為をした事実を責任の根拠として,相手方の保護と取引の安全並びに代理制度の信用保持のために,法律が特別に認めた無過失責任であ』る。
最判昭和62.7.7
責任の取り方は履行又は損害賠償 選択権は相手方
無権代理人は過失の有無を問わず,無権代理行為について責任を負うわけですが,どのように責任を取ればよいのでしょうか?
民法は,無権代理行為への責任の取り方は,履行又は損害賠償で行うことを指定しています。(117条1項)
履行とは,無権代理行為の内容そのものを実現することです。 損害賠償は,お金を支払うことで解決を図ることです。
要するに,無権代理人自身で無権代理行為を完遂するか,お金を相手方に対して支払って解決するかのどちらかの方法で,落とし前をつけるということです。
履行か損害賠償かの選択権は相手方にあります。 無権代理行為をやらかした方が責任の取り方を決められるのはおかしいだろうという判断です。
免責される場合 5パターン
無権代理人は無過失責任を負う,という原則を常に貫くと,それはそれで無権代理人に酷な場合もあります。
そこで民法は,無権代理人に無過失責任を負わせることが酷だと言える状態を5パターン認めます。
以下の5パターンの①~⑤に該当する場合は,無権代理人が免責され無過失責任から解放されます(民法117条2項)
- ①代理権があることを証明する
- ②本人の追認を得る
- ③無権代理について相手方が悪意
- ④無権代理について相手方が有過失
- ⑤無権代理人が制限行為能力者
※ただし,④は無権代理人が悪意なら,無権代理人は免責されない
①代理権があることを証明する
無権代理人が,代理権を有していることを証明できれば,有効な代理になるので当然に免責されます。
(※①代理権の証明と②本人の追認の場合は,代理行為は有効なので,『免責される』という表現は正確ではありません。 が,①~⑤によって無権代理人が責任を問われない,という状態を並列で語りたいため,本記事では①と②も『免責』を使わせてもらいます。)
無権代理の話をしていたのに,いきなり『代理権があることを証明する』ってどういうこと?って感覚に陥るかもしれません。 「無権代理なら代理権があるわけないやん」って思いますよね。
たとえば前述のホッチキスの事例で,『ホッチキスが置いてあるコンビニ見つけて来て欲しい』という言動が,裁判で代理権の授与と認められれば,これは代理権があることの証明になります。
誰もが無権代理だと思っていた行為が,代理権の証明によって有効な代理行為になる例です。
②本人の追認を得る
無権代理行為に対して,本人の追認が得られたのなら,これも有効な代理行為ですので免責されます。(民法113条)
③無権代理について相手方が悪意
無権代理行為が無権代理だと相手方が知っていた場合は,無権代理であることを承知の上で,相手方は契約関係に入って来ています。
無権代理について悪意である相手方においては,取引の安全の要請も,代理制度の信用保持の必要性も該当しません。
したがって,無権代理人は責任を負う必要が無く,免責されます。
④無権代理について相手方が有過失
相手方がうっかりしていて無権代理であることを知らなかった場合も,無権代理人は免責されます。
③と④を併せて考えると,原則として,相手方が無権代理人に対してその責任を追及するには善意無過失が要求されることを,しっかりとおさえておきましょう。
相手方が悪意なら③に,有過失なら④に該当して,無権代理人は免責されるわけです。 逆に考えれば,相手方が③(悪意)にも④(有過失)にも該当しない,すなわち善意無過失なら無権代理人の責任を追及できます。
117条2項2号を確認してみましょう。 1号から3号の中で,2号にのみ,ただし書きが添えられています。
他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし,他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは,この限りでない。
民法 第117条2項2号【無権代理人の責任】
つまり,相手方が有過失(④に該当)でも,無権代理人が自身に代理権が無いことを知りながら代理行為をした場合は,無権代理人は免責されません。(つまり,無権代理人は無権代理について責任を負います。)
代理権が無いのに代理行為を敢えてした無権代理人と,うっかりして無権代理人と取引した相手方とを比較した場合,代理権が無いのに代理行為を敢えてした無権代理人の方が,有責性は明らかに大きいです。
このような場合でも,相手方が有過失だからという理由で無権代理人を無罪放免するべきではない,という制度設計です。
まとめると,以下のとおりです。
- 117条2項2号の原則:相手方が有過失のときは,無権代理人は免責
- 117条2項2号の例外:相手方が有過失でも,無権代理人が悪意なら免責されない
⑤無権代理人が制限行為能力者
無権代理人が制限行為能力者であるときは,たとえ相手方が善意無過失でも,無権代理人は免責されます。
⑤の制限行為能力者が無権代理人の責任を免責される規定が存在しないと仮定すると,以下のようなケースが想定されます。
制限行為能力者と相手方とで,何かしらの法律行為が行われたとします。
相手方から「〇〇さんの代理行為と聞いていた! だからこの取引は無権代理だ! 無権代理人の責任を追及する!」と主張すれば,常に制限行為能力者に対して無権代理人の責任を負わせることが出来てしまいます。
このような主張を許すと,法律行為の判断能力が劣る者を,制限行為能力者という制度を設けてまで保護しようとした目的が達成できません。
したがって,制限行為能力者を保護する要請から,制限行為能力者は常に無権代理人の責任を免責する規程が置かれています。
コメント
たくさんの規定が出てきて混乱しやすいと思います。
最後に,無権代理人の責任を追及に関する規程における相手方の善意・悪意を基準にして,以下に整理しておきます。
- 大原則:相手方が善意無過失なら,無権代理人は無権代理について,無過失責任を負う
- 例外Ⅰ:相手方が善意無過失でも,無権代理人が制限行為能力者なら免責される
- 例外Ⅱ:相手方が有過失でも,無権代理人が悪意なら免責されない
- 例外Ⅲ:相手方が有過失なら,無権代理人が悪意でないならは免責される
- 例外Ⅳ:相手方が悪意なら,無権代理人は免責される
たくさん有って混乱すると思います。
わからなくなったら,相手方と無権代理人のどっちが,より有責性が高いか?で考えてみてください。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。
参考文献
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