今回は民法115条を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語です
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
代理権を有しない者がした契約は,本人が追認をしない間は,相手方が取り消すことができる。 ただし,契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは,この限りでない。
民法 第115条【無権代理の相手方の取消権】
条文の性格
民法115条は,代理権を有しない者がした契約(無権代理)の相手方に,取消権を認める条文です。
取消権は,一度行った法律効果を一方の当事者の一存で無効にするというチート級に強力な権利です。
したがって,114条の催告権の場合と違い,無権代理に該当するからと言って,誰彼構わずに取消権を常に認めてあげるよ!というルールにしてしまうと,相手方が有利になりすぎる状況にもなり得ます。
そのため,取消権が認められる状況に制限が課されています。
また,113条の本人の追認との関係で,仮に一度は取消権が認められても,取消権が使えなくなる時限的制限も本条が規定しています。
113条及び114条との連携を意識しながら,本条が定める無権代理時の相手方の取消権を確認していきましょう。
条文の能力
無権代理時は,相手方に取消権が認められる
無権代理行為の相手方は,無権代理行為が有効となるかどうかが本人の追認次第という,非常に不安定な立場に立っています。
したがって,無権代理の相手方を早期に安定した立場へと自発的に移行できるように,115条は相手方に当該無権代理行為についての取消権を認めました。
あれ?無権代理の相手方の立場が不安定だから,早期安定化するための手段を付与するのってどっかで聞いたような…?と思った方は,よく勉強されています。
無権代理の相手方に催告権を認めた理由(民法114条)も,115条と全く同じ,無権代理の相手方の早期の立場安定化でした。
民法114条【無権代理の相手方の催告権】と115条【無権代理の相手方の取消権】の条文の題目を見て分かるとおり,114条と115条は同じ血を引いて誕生した条文です。
ここで言う,『同じ血』とは,『無権代理の相手方は立場が不安定だから,立場の早期安定化を実現できる手段を授けよう』という考え方です。
取消権が使えるのは,本人が相手方に対して追認をする時まで
前述のとおり,相手方の早期の立場安定化の必要性から,相手方に取消権が認められたのでした。
その前提を踏まえて考えれば,無権代理行為について本人が「無権代理行為を有効にしていいよ」と相手方に対して追認したのであれば,この時点で相手方の立場は無権代理行為が有効になった,として安定したわけです。
よって,相手方の早期の立場安定化の要請は無くなったのですから,取消権を引き続き認める必要は無くなります。
したがって,無権代理の相手方が取消権を行使できるのは,本人が相手方に対して追認をした時までです。
相手方が無権代理行為であることについて知っていた場合は取り消せない
取消権は,当事者の一方の意志で法律行為の効力を遡って無効にする強力な権利です。
したがって,追認するかどうか判断を促して,巻き込まれた本人に最終的な決定権を委ねる114条の催告権とは一線を画します。
なぜなら,取消権を相手方に認めるということは,無権代理行為の行く末を相手方が決めることができるからです。
相手方にこのような強力な取消権を認めるにあたっては,当該代理行為が無権代理行為であることについて相手方が悪意だったのなら,取消権を認めるべきではありません。
何度も言いますが,無権代理の相手方に取消権を認めるのは,相手方の早期の立場安定化の必要性からでした。
無権代理行為であることを知っていながら無権代理人と契約をしたのであれば,本人の追認が無ければ有効な代理行為にならないという不安定な立場になることを承知の上で契約をしているはずです。
したがって,不安定な立場になることを承認していながら,そのような立場に自身から飛び込んできたのですから,悪意の相手方には早期の立場安定化の必要性が存在しません。
そのため,115条ただし書きにて,悪意の相手方に対しては取消権を認めないルールが定められました。
コメント
115条本文には『本人が追認をしない間は,相手方が取り消すことができる。』と書いてあります。
また,113条2項には『追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。』と書いてあります。
この2つの条文を組み合わせることで,相手方が取消権を失うには,本人の相手方に対しての追認が必要です。
(本記事内で,『相手方に対して』と赤字で強調していたのは上記の理由によります。)
したがって,本人が無権代理人対して追認した場合は,113条2項の要件を満たしていないので,(追認について善意の)相手方は引き続き取消権を行使することができます。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。