今回は民法103条を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語です
※太文字は,解説中で大切なポイントです
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
民法 第103条【権限の定めのない代理人の権限】
条文の性格
代理権の範囲を定めないで代理人が選ばれることなんてあるん?と思ったかもしれませんが,あり得ます。
たとえば,海外出張などで数年家を離れることが決まり,家に残る妻(又は夫)に「留守中,家のこと色々とよろしくね。」とお願いしたような場合です。
この場合の「家のこと色々とよろしく」は『家』の管理を委託しているので代理と言えますが,「家のことを色々」とは具体的に何を指すのでしょうか?
家という不動産の管理と取れますし,ひねくれて解釈すれば家を売っておいてくれとも取れます。 子供がいるのなら子育てを任せたという解釈も「家のこと色々よろしく」に含まれるでしょうし,各種光熱費や税金の支払いも含まれそうです。
「家のこと色々とよろしく」は確かに代理権の授与ではあるのですが,内容があまりにも漠然不明確です。
そこで,この権限が不明確な代理権をどのように扱えばよいかが問題となります。
その問題の解決を引き受けるのが103条です。
あまりに漠然不明確な代理権の授与に関しては,無効と考えることもできそうですが,103条はそうはしませんでした。
「家のこと色々よろしく」の代理権を授与した人も,「代理権が無効になってもいいから大雑把な委託をするぞ」とは思っていないはずです。 そのため,無効にすることは代理の委託者の希望とはズレているので,103条は漠然不明確な代理権授与も無効とはせずに有効としました。
ただし,漠然不明確な代理権だからといってなんでもしてOKのような無制限代理権とすることも代理権授与者の希望ではないでしょう。(海外出張に行く際の「家のこと色々とよろしく」に,普通に考えれば家の売却の代理権授与が含まれないと考えられることからもイメージできるかと思います。)
そこで,103条は権限の定めがないような代理権については,保存行為・利用行為・改良行為の3つだけを認めることで,漠然と色々と委託したい側と漠然と代理を委託された側のバランスを取ることにしたのです。
自分だけかもしれないですけど,103条はすごく人間味があるなと思います。
「色々汲み取ってくれよ」という代理権授与者と,「何を依頼されたんだ?」という代理人との間を,その行間を読んで取り繕ってくれるからです。
条文の能力
権限の定めのない代理権を授与されたら保存・利用・改良のみできる
103条は,権限の定めがない代理権(前述の漠然不明確である場合を含みます)を授与された代理人は,保存行為・利用行為・改良行為のみできると決め打ちします。
保存行為(103条1号)
保存行為とは,財産の現状を維持するような行為のことです。
家の電球が切れたら交換するとかです。
物又は権利の性質を変えない範囲での利用行為(103条2号)
たとえば,家を賃貸するとか,海外出張者が家に残していった現金を銀行預金にするなどです。
物又は権利の性質を変えない範囲での改良行為(103条2号)
たとえば,海外出張者が不在の間に近隣で空き巣が頻発したので,玄関の鍵を普通のものからディンプルキーに交換した,監視カメラを設置したなどです。
利用行為と改良行為には「性質を変えない範囲」という制限が付く
いくら利用行為や改良行為といっても,性質を変えてしまう場合は,代理権授与者が依頼したつもりのことから大きく外れてしまうことからNGとされます。
たとえば,一戸建ての家を解体して,跡地にマンションを建てて,その一室を代理権授与者の部屋として割り当てつつ,その他の部屋を賃貸するなどです。
確かに戸建ての家の跡地にマンションが建てば,より多くの人の居住空間が確保できるので改良行為と言えますし,家賃収入が入って来るので利用行為とも言えます。
ところが,代理権授与者が海外出張から帰って来たらマイホームが見たこともないマンションになっていたら茫然ですよね。
この場合,仮に利用行為・改良行為だと言えるとしても,一戸建ての家という性質を大きく変えてしまっているので,代理権授与者の意思とはかけ離れているとして許されないと103条は考え,利用行為・改良行為には「性質を変えない範囲」という制限を設けました。
コメント
ちなみに,行政書士試験だと出るかもレベルですが金銭を株式にすることは性質を変えるとして許されないということは憶えておいて良いかもしれません。
金銭を預貯金に変える場合は,預貯金債権が回収不能になるリスクはほとんどないため,性質を変えないとされています。
一方で,株式はその金銭評価額は常に変動しますし,最悪のケースでは元金の回収すら不能になる場合もあるため,株式を金銭と同一視することは難しいため,性質を変えるとされているのです。 よって,金銭を株式にすることは性質を変えない範囲からはみ出ているため,103条2号の要件を満たさないため許されないことになります。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
※代理制度の基礎については,こちらを参考にしてください。
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。