
留置権には不可分性という性質があるそうですね!
どのような性質なんでしょうか?
本記事では,留置権の不可分性について,その内容について,図を用いて基礎の基礎から解説しています。
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 留置権の不可分性という性質がどのようなものなのかがわかる
- 留置権の消滅タイミングが理解できる
- もし仮に留置権が可分だったときの不便な世界の片鱗を覗くことができる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち
読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
※本ブログでは,記事内容を要約したものを先に【結論】としてまとめ,その後【解説】で詳細に説明をしていますので,読者さまの用途に合わせて柔軟にご利用ください!!
結論:債権の完全履行まで,留置権は完璧な姿で存在し続ける
民法296条 【留置権の不可分性】
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。
留置権が担保する債権が可分債権だった場合,留置権を可分とするか不可分とするかの問題について,本条文にて,留置権は不可分であると定めた条文です。
つまり,可分である被担保債権が99%弁済されたとしても,残債が1%でもあれば,留置権は100%行使可能,すなわち,留置物全部を手元にキープすることができるのです。
解説:不可分性を認めないと,ものすごく不便な世の中になる
留置権がその生涯を終えるときはいつなのか
留置権とは,他人の物を人質として手元にキープすることができる権利です。
留置権がどのような権利なのかは民法295条に規定されており,当ブログでも留置権の内容と発生要件については,こちらの記事で詳細に解説しています。
留置権の内容と発生要件を定めた民法295条の1個後ろである,本記事解説の民法296条では,逆に留置権が消えるタイミングについて規定がされています。
つまり,留置権の始まりの民法295条と終わりの民法296条という設計となっています。
さっそく,民法296条を確認してみましょう。
民法296条 【留置権の不可分性】
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。

ん?
これって,留置権の不可分性を定めた条文であって...留置権の終わりを規定しているものなの…?
パッと見,不可分性を定めている様に見えますが,反対解釈をすると留置権が消滅する終わりも見えてきます。
民法296条では,『債権の全部の弁済を受ける“まで”は,・・・その権利(留置権)を行使することができる』とあります。
これを反対解釈する,すなわち...
弁済を受ける“まで”は留置権を“行使できる”
ということは...
弁済を受ける“時より後”は留置権を“行使できない”
ということになります。
したがって,留置権は,留置権が担保している債権(被担保債権)が全て弁済されたときに生涯を終え,消滅します。
(※補足 この記事では,反対解釈の言及も兼ねて民法296条の記載から留置権の消滅タイミングについて説明を書きました。 民法296条を反対解釈しなくても,そもそも,弁済により被担保債権が消滅します(民法473条)ので,被担保債権を失った留置権は付従性により当然に消滅します。)
留置権の不可分性
いよいよ,本条文の本題です。
留置権という権利は,被担保債権が履行されるまで,他人の物を手元にキープできる権利ですが,被担保債権が金銭(お金を支払う)債権のような可分債権のとき,途中まで履行された際に留置権をどうするのか?という問題があります。
たとえば,民法295条でも挙げた自動車整備の事例において,修理代金が100万円だったとします。


このとき,修理代金のうち半分の50万円が支払われて整備代金債権が50%になったとき,留置権の効力の強さも100%から50%になるのでしょうか?

そして,もしこのように留置権の効力を割り算(100%×1/2→50%)のように可分であるとするならば,50%の留置権をどのような権利として認めるのかが問題となります。
この点,民法296条の条文名【留置権の不可分性】を見れば分かるとおり,民法は,留置権は不可分なものとしています。

つまり,被担保債権が99%弁済されたとしても残債が1%でもあれば,留置権は100%すなわち,留置物全部を手元にキープすることができるのです。
もし仮に留置権の不可分性がない世界だと…?
最後に,もし仮に留置権に不可分性がないと世界だったとすると,どのような不便な世界になるか確認しておきましょう。
自動車整備の事例において,整備代金債権(被担保債権)が100万円だとして,そのうち10万円(タイヤ相当分)が弁済されたとします。
仮に留置権が可分だとすると,留置権は100%→90%に減縮し,10%相当分は自動車を手元にキープできなくなり,10%分を整備依頼者に返還しなければいけません。

そうすると…


このように,留置権に可分性を認めると,タイヤだけを返還しなければいけないような義務が発生してしまうのです。
これは非常にめんどうくさいですよね…。
だって,タイヤを外す手間もありますし,タイヤを外した手間代は請求できるのか,外したタイヤ引渡すならば持参債務か取立債務なのか,外したタイヤにも善管注意義務が発生するのか,タイヤの引渡し債務が債務不履行になったら損害賠償義務を負うのか…?など,考えなければいけない点が大量に発生してしまいます...。
そのため,単純かつわかりやすく,便利な世の中にするために,留置権には不可分性を認めるべきであり,実際に民法は留置権に不可分性を認めているのです。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。
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参考文献など
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最後まで読んでくださり,ありがとうございました。