民法を勉強していると,『特定物債権』という単語をよく見聞きしますが…,わかっているようなわかっていないような感じなので,基礎から再確認がしたいです!
本記事は,『特定物債権』と『善管注意義務』についてわかりやすく解説しています!
本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。
- 特定物・特定物債権・善管注意義務の意味を,事例を使って基礎から理解できる
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
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読者さんへの前置き
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
※本ブログでは,記事内容を要約したものを先に【結論】としてまとめ,その後【解説】で詳細に説明をしていますので,読者さまの用途に合わせて柔軟にご利用ください!!
結論:特定物は,世界にひとつだけの目的物
民法400条 【特定物の引渡しの場合の注意義務】
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
特定物というは,取引の当事者が,物の個性に着目した目的物のことです。
そして,特定物”債権”というのは,特定物の引渡しを目的とする債権のことです。
特定物は他の物と代替することが不可能であるため,物を引渡す債務を負う者に,引渡しの時まで善管注意義務を負うことを本条で定めています。
解説:世界にひとつだけなので,最善を求める善管注意義務
特定物とは
ひとつ前の民法399条で,債権の目的(内容)には金銭に見積もることができないものも設定することが可能とされ,債権の目的は多種多様な内容が認められることを学習しました。
多種多様な債権の目的が認められる中に,民法典中に特別に条文が用意され,個別規定が設けられているものに以下のものたちがあります。
- 特定物債権
- 種類債権(=不特定物債権) (民法401条)
- 金銭債権
これらのうち,本記事が解説する民法400条は特定物債権について定めています。
まず,特定物というは,取引の当事者が,物の個性に着目した目的物のことです。
特定物の具体例でよく挙げられるのは,中古車です。
中古車は,どんな車種の車だとしても,この世に同じ物はふたつとしてありません。
え?
筆者が乗ってるトヨタのアクアも,中古車サイト見れば,世の中にいっぱい販売されてるよね?
たしかに,アクアの中古車はたくさん販売されています。
しかし,中古車のとあるアクアを購入しようとしたとき,走行距離・修復歴・カスタム状況・各部品の経年劣化・履いているタイヤのすり減り具合・エンジンの調子・各オプションの有無・座席のクッション性・車体の小石跳ねキズ・過去のオーナーの人数・販売価格…などなどが完全にすべて同じ個体は,この世にふたつとして存在しません。
つまり,中古車は,「ズバリ! 世界にひとつのこの個体!」という物の個性に注目した取引の目的物であり,特定物ということになります。
対して,特定物でないものは新車です。
新車は画一化された製造工程でつくられた無個性な新品であり,仮に目的物が損傷したとしても,他の新車個体を新しく準備して引渡せば良いので,新車は特定物ではありません。
特定物債権とは
特定物債権というのは,特定物の引渡しを目的とする債権のことです。
たとえば,中古車が特定物であることを確認しましたが,この特定物たる中古車の売買取引における買主が持つ引渡し債権が特定物債権となります。
特定物は代わりの物が存在しないから,超大事に扱え!『善管注意義務』
特定物債権,すなわち特定物の引渡しを目的とする債権は,特定物が損傷・滅失したりすると履行不能になります。
なぜなら,特定物は「ズバリ世界にひとつのこの個体!」と,目的物の個性に注目したものですので,万が一,目的物を滅失してしまった場合に代替物を用意することができません。
したがって,中古車の売買取引ような,特定物の取引では目的物の替えが効かないので,売主は引き渡しの時まで,特定物をキチンと保管・管理をするべきといえます。
もちろん,適切な保管・管理を売主の責任感に委ねることも手段のひとつですが,民法は性悪説を採用してる傾向で作られているところがあるので,民法は適切な保管・管理をキチンと義務として明記することで特定物を保護しようとしています。
民法400条 【特定物の引渡しの場合の注意義務】
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
この『善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。』の部分が,適切な保管・管理を求める義務を指しており,有名な略称として『善管注意義務』と呼ばれるものです。
善管注意義務は,『善良な管理者の注意』を求められ,このレベルは「物の管理は,最善!ベスト!これ以上ない!ってレベルでやれよ!」と考えて頂ければOKです。
おまけ(自己の財産におけるのと同一の注意義務)
ここまでで,目的物に対する注意義務として,善管注意義務の存在を学びました。
善管注意義務を求められるのは,この記事で解説している特定物債権(民法400条)の他に,留置権者の留置物の保管(民法298条)をおさえておきましょう。
また,善管注意義務より少し義務レベルを下げたものとして『自己の財産に対するのと同一の注意』という注意義務が存在します。
善管注意義務が「最善!ベスト!これ以上ない!」ってレベルを求められるのに対して,自己の財産に対するのと同一の注意義務では「ある程度大切に保管して欲しいけど,自分の所有物に対する保管レベルでいいよ~」というレベルに義務が軽減されます。
自己の財産に対するのと同一の注意義務でOKとされる場面は,最善レベルで管理させる義務を課すほどのものでも無いよねっていうものたちが指定されています。
たとえば,報酬を一切貰わずに,無償で寄託物を預かっている者(無償受寄者)は,自己の財産に対するのと同一の注意義務で良いとされています。
無償で物を預かってくれている人に善管注意義務まで負わせるのは荷が重すぎるだろうという民法の配慮です。
以下が,民法上で規定されている,自己の財産に対するのと同一の注意義務たちです。
- 受領遅滞時の特定物引渡し債務者(民法413条)
- 無償の受寄者(民法659条)
- 親権者の財産管理における注意義務(民法827条)
- 相続人の相続財産の管理(民法918条)
- 相続放棄者の相続財産の管理(民法940条)
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
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※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。
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参考文献など
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最後まで読んでくださり,ありがとうございました。