第6章 地役権

民法290条:地役権の消滅時効の進行を中断し,要役地の価値を保護する規定

2022年6月21日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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ウリム

民法290条に『前条の規定のよる地役権の消滅時効』ってあるけど,前条って【承役地の時効取得による地役権の消滅】が書いてあるから,前条は取得時効の話してたんじゃないの?

本記事は,上記のような疑問に対し,承役地の取得時効完成と,地役権の消滅の関係を整理しつつ,民法290条の趣旨について解説しています。

 

記事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログ管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

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読者さんへの前置き

赤文字は,行政書士・宅建・公務員試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

結論:290条は,地役権がいきなり消失しないように保護している

前条の規定による地役権の消滅時効は地役権者がその権利を行使することによって中断する

民法290条

 

前条の民法289条により,承役地が時効取得された場合は,時効による消滅として,地役権は消滅します

承役地の占有者が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、地役権は、これによって消滅する

民法289条 【承役地の時効取得による地役権の消滅】

この民法289条に規定されている,地役権の消滅の進行は,承役地を占有し続けても地役権が行使されると,民法290条により進行が中断されます

 

つまり,通行地役権が設定されている場合,承役地を占有し続けても,地役権者が通行して往来する事実があればそのたびに時効は中断し民法289条の消滅時効は完成しないことになります

 

民法290条が存在する理由は,主に以下の2つです。

  • 継続的に行使していた地役権が,不意打ち的に消失しないようにするため
  • 地役権がいきなり消失し,要役地の資産価値の暴落を防ぐため

 

解説:前条である289条は,”時効による消滅”=”消滅時効”の話をしている

290条の目的:不意打ち的な地役権の消滅を防ぐ

地役権の恩恵を受けるのは,要役地の所有者です。

 

承役地はあくまでも他人の土地であり,要役地の所有者は,地役権の設定行為で定めた,ごく限られた範囲で使用を認められているに過ぎません。

したがって,要役地の所有者は,承役地に関連する事情を事細かに把握できるわけではないのです。

 

もし仮に,民法290条が無いとすると,要役地の所有者は,ある日突然,「承役地の取得時効が完成したから,地役権は無くなったので,もう使わないでね!よろしくね!」と言われ,毎日使っていた地役権をいきなり失う可能性があります。

これは,使用を継続している地役権が,今後も存続するだろうという要役地の所有者の期待を,不意打ちで裏切るため,望ましくありません

 

また,地役権を失った要役地の資産価値が暴落する可能性もあることから,経済的観点からも,望ましいとは言えません

よって,民法290条によって,地役権を行使するたびに民法289条の時効の進行を中断させ,上記のような不意打ち的な地役権消失を回避しているのです。

 

承役地の取得時効完成と,地役権の消滅の関係

前条の民法289条の条文は【承役地の“時効取得”による地役権の消滅】という題名になっています。

承役地の占有者が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、地役権は、これによって消滅する

民法289条 【承役地の時効取得による地役権の消滅】

 

少し混乱するかもしれませんが,民法289条は,”地役権の時効取得の効果による時効消滅”の話をしています

すなわち,条文の題名は”取得時効”という単語が使われていますが,民法289条は”地役権の消滅時効“のルールを定めています

そのため,民法290条の中で『前条の規定のよる地役権の消滅時効』という言い回しが用いられています。

前条の規定による地役権の消滅時効地役権者がその権利を行使することによって中断する

民法290条

 

以下で,承役地の取得時効が完成することの効果で,地役権が時効によって消滅(=消滅時効)する関係を整理してみましょう。

 

イメージとしては,取得時効が成立した場合に,その反射的効果により真の所有者の所有権が消滅するのと同じです。

 

取得時効は原始取得であることから,前の持ち主の権利に基づかず(権利の影響を受けず)に所有権を取得するため,手に入れる所有権には余計な権利がくっついてきません

承役地を占有し続けて取得時効が完成した場合も同様で,承役地の新たな取得者には,“余計な権利がくっついていない承役地の所有権”を取得させなければいけません

 

そこで,前条民法289条が,承役地を時効取得したという事実によって,承役地上の地役権を消滅させます

これにより,承役地の時効取得者に“余計な権利がくっついていない承役地の所有権”を取得させる仕組みとなっています。

 

※前条の解説はこちらです。

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※次条の解説はこちらです。

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※地役権の概念,取得時効が原始取得であることなどは以下の記事たちで解説しています。 ぜひ併せて読んでみてください。

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参考文献など

この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。

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最後まで読んでくださりありがとうございました!

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