本記事は,無権代理の分野で,なぜいきなり相続の話が出てくるのかをわかりやすくまとめています。
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論
相続が,被相続人の権利義務を全て丸ごと承継させるため,追認拒絶権を持つ本人と無権代理責任を負う無権代理人が融合してしまうために,追認拒絶権を持つ無権代理人のような融合体が誕生してしまう。
下図は,絵心すばらしい筆者が書いた概要図です。

そして,この融合体をどのように扱うのかが問題になるため。
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解説
民法896条には以下のとおりに書いてあります。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
民法896条
これを,今回の話題に関係あるところを抜き出して,リライトすると以下のとおりです。
相続人は、
相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。↓
相続人は,被相続人の一切の権利義務を承継する。
つまり,相続では亡くなった方が持っていた権利義務を全て丸ごと相続するのです。
このルールが,無権代理が発生した時に少し悪さ(?)をするのです。
無権代理が発生したとき,(表見代理が発生したときを除いて)本人は基本的には面倒なことに巻き込まれた完全な被害者です。
そのため,民法は,本人はこの無権代理を放置するか,追認するかすればよいとしています。
また,無権代理の相手方から「無権代理契約を追認する?どうする?」と催告されても,本人は無視してもペナルティが無いことになっています。
この追認を拒否する権利を追認拒絶権と言います。
一方で,代理権もないのに代理行為をした無権代理人は,無権代理の責任を負っています。 無権代理の責任とは,相手方の選択に対して無権代理契約の履行か,損害賠償金を支払う義務のことです。
まとめると,本人は追認拒絶権を持っていて,対する無権代理人は無権代理責任を負っています。
ここで本人と無権代理人との間で相続が発生すると,生存している方が,死亡した方の権利(又は義務)を引き継ぐため,以下のような追認拒絶権を持つ無権代理人とかいう意味不明な存在が誕生してしまうのです。

無権代理人として履行か損害賠償の義務を負っているのに,追認拒絶権を持ちつつ,巻き込まれた被害者としての本人でもある…,もうアイデンティティが渋滞してますよね。
この融合体をどのように扱うべきなのかが問題となり,過去に最高裁まで争われたため,各テキストや基本書などで,無権代理分野で相続の話が出てくるのです。
最後まで読んでくださりありがとうございました。