第1節 時効・総則

3分でわかる逐条シリーズ 民法144条 -時効の効力はなぜ遡及するのか?-

2022年1月14日

伊藤かずま

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国際行政書士(第21190957号)
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今回は民法144条を3分でわかりやすく解説します。

※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

時効の効力は,その起算日にさかのぼる。

民法 第144条【時効の効力】

条文の性格

時効の起算点を,期間の起算日に遡らせる条文です。

すなわち,時効が完成した時点から時効の効力が認められるのではなく,時効の効力を期間の起算点から発生させます

このように,時効の効力が,期間の起算日に遡ることを,時効の遡及効といいます。

条文の能力

なぜ起算点を遡らせるのか

なぜ時効の効力を期間の起算日に遡らせるのでしょうか?

時効が完成した時点から,時効の効力を認めた方が素直に感じる方もいると思います。

時効の遡及効が認められる理由は,時効の遡及効を認めないと,民法が時効という制度を承認していることと整合性が取れないためです。

たとえば,取得時効において,時効の遡及効が認められない場合,時効が完成した時点から時効効力が発動しますから,所有権を得られるのは時効が完成した瞬間からです。

これは,民法が,時効完成までの占有し続けていた期間は不法占有や不法占拠を行っていた,と評価することを意味します

すなわち,善意に10年間,甲土地の占有を続けたことで取得時効が完成したとしても,時効の遡及効が無ければ,最終的に,時効完成前の10年間は不法占拠,時効完成後は所有権に基づく合法占拠,と評価されるということです。

この場合,時効が完成したとしても,10年間の不法占拠という事実は残るので,不法占拠に対して損害賠償請求をされる可能性が残ることになります

民法自身が,(取得時効において)時間の経過により他人の物の所有権を合法に手に入れることを,時効という制度を用意しているにもかかわらず,損害賠償請求をされるような事態を放置することは,法制度として欠陥と言えます

このような状況をさけるため,そして民法自身が時効という制度を採用していることと整合性を取るために,民法は時効に遡及効を認めたのです。

時効に遡及効を与えることで,前述の甲土地の取得時効のケースでは以下のとおりに整合性が確保されます。

取得時効の効力は遡及効により,時効の期間の起算日から認められますので,取得時効で甲土地を手に入れた人は,占有を始めたときまで遡って,この時から所有者であったと認められます。

すなわち,時効完成までの占有期間は合法的な占拠であるため,誰かから不法占拠だ!として損害賠償請求をされる心配はありません。

取得時効:始めから所有者扱い

取得時効とは,一定の期間,平穏に公然と他人の物を占有し続けた場合に,その占有物について所有権を得る時効制度のことです。(民法162条1項)

この取得時効が完成された場合,時効の遡及効により,最初から占有物の所有者であった扱いになります

取得時効の完成の時点から所有者になるのではありません。

消滅時効:始めから権利が存在しない扱い

消滅時効とは,一定の期間,行使されなかった権利を消滅させる時効制度のことです。(166条)

消滅時効が完成されると,時効の遡及効により,その権利は期間の起算日に消滅した扱いになります。

権利が起算日に消滅した扱いをする,すなわち権利が生まれた瞬間に消滅していますので,その権利がこの世に存在しているタイミングは無かった扱いになります

たとえば,お金を貸し付けた場合,弁済期日に債務の履行が無かった場合,当然弁済期日以降は,お金を返せと請求できます。また,弁済期日以降の遅延損害金も請求可能です。

しかし,「お金を貸したはいいけど,まぁいつか返って来るだろう」と放置して,消滅時効が完成した場合,この貸したお金返してねという権利は最初から無かった扱いになります。

するとどうなるかと言うと,「じゃあ,せめて貸していた間の利息だけでも請求してやるぜ…くやしーー!」と考え,利息を請求したとしても,なんと利息も手に入りません。

なぜなら,消滅時効の完成の効果によって,この世には最初から貸したお金返してという権利は存在しなかったのですから,存在しない権利に利息は当然発生しないからです。

コメント

なぜ時効制度は認められるのか?

ところで,時効はなぜ認められるのでしょうか?(時効の遡及効ではなく,時効という制度自体の話です)

取得時効は,時効の完成で占有している他人のものを手に入れることができます。 それは裏返すと,誰かが所有権を失うということです。

民法の他の条文に触れてきた方なら,民法は,ひたすらに誰かの権利や期待を保護することに徹底した姿勢を貫いているのを見てきたと思います。

この民法の姿勢をずっと見てきた方からすると,『所有権を失わせる時効という制度を民法が用意している』ということに強い違和感を覚えるのではないでしょうか?

取得時効の反射的効果とはいえ,所有権を失わせる制度を民法が認めている以上,それ(時効制度)の正当化の強い理由が必要といえます。

実は,時効制度が認められる理由について,これだ!という,老若男女問わず納得するバチっとした理由はまだ確立されていないと言われています

ただ,以下の3つの理由が,時効制度を支えている考えだと言われています。

  • ①長期間その状態が続いたのだから,それを保護してあげる
  • ②長期間,その事実と違う状況を放置したのだから権利を失っても仕方ないから
  • ③長い時間が経つと,状況・外観が真実と違っても,それを証明することが困難だから

上記の②は『権利の上に眠る者は保護しない』というフレーズでよく説明されます。

以上の理由たちで,所有権を失わせる可能性のある時効制度があることも納得できるかどうかは,みなさんの感じ方次第でしょう。 あなたはどうでしょうか?

行政書士試験の観点からは,上記の理由を暗記しておくことは必要ないと思いますが,頭の片隅にいれておきましょう。

 

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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