第3節 代理

民法108条:自己契約・双方代理・利益相反行為【代理人がやっちゃいかんやつら】

2021年12月7日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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今回は民法108条を3分でわかりやすく解説します。

※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語です
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

1 同一の法律行為について,相手方の代理人として,又は当事者双方の代理人としてした行為は,代理権を有しない者がした行為とみなす。 ただし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。

2 前項本文に規定するもののほか,代理人と本人との利益が相反する行為については,代理権を有しない者がした行為とみなす。 ただし,本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。

民法 第108条【自己契約及び双方代理等】

 

条文の性格

本人から与えられた権限範囲の中に限られるとはいえ,代理人は権限範囲内であればかなり幅広い決裁権を持ちます。

たとえば,ある不動産の売却について一切の権限を与えられた代理人は,誰に売るのか・いくらで売るのか・購入の申し込みを断るなど,ありとあらゆる行為を本人の代わりにすることができます。

これだけの権限を託すわけですから,任意代理人の場合において,本人と任意代理人の間は信頼関係で成り立っていることも納得ですよね。

さて,代理人は権限内ではありとあらゆることができるため,「おいおいそれは代理人がやっちゃいかんでしょ~」っていうものがいくつか存在します。

そのため,民法107条が学校の校則がごとく,「これは代理人がやったらあかんでぇ」と定めました。 自己契約・双方代理・利益相反行為と言われるものたちです。

自己契約・双方代理・利益相反行為を原則禁止にする目的は,本人が不利益を被らないようにするためです。

このことを頭に入れて理解すれば概念自体は非常に簡単なので臆せず憶えてしまいましょう。

 

条文の能力

107条1項本文:自己契約・双方代理は原則できない(無権代理になる)。

本人が不利益を被らないために,自己契約・双方代理は原則できません。

仮に自己契約・双方代理に該当する行為がされた場合は,無権代理になります。

自己契約

自己契約とは,当事者の一方が相手方の代理人となることです。

つまり,AとBが取引するとき,当該取引についてBの代理人であるAとBとが契約するような場合を指します。

これの何がダメなのかというと,AはBの代理人なわけですから,当該取引についてありとあらゆることができます。 したがって,Aが当該取引の内容を自由に決めることできてしまうので,Bが当該取引によって不利益を被る可能性があるからです。

たとえばAはBから,B所有の土地甲(時価1,000万円)の売却に関する一切の代理権を授与されたとします。 その状態で,代理人AがBから土地甲を買うと,自己契約に該当します。

つまり,A「あれ?俺,代理人になったけど土地甲って,けっこう良くね? じゃあ俺が買っちゃおう!」というようなイメージです。

この場合,Aは相手方でもあり,Bの代理人でもある立場になります

すると,AはBの代理人として土地甲の売価を自由に決められます。 Aは相手方として,可能な限り安く買いたいわけですから,AはBの代理人として「土地甲をAに1円で売却する。」ということも出来てしまいます。

そうすると,Bは土地甲を1円というタダ同然で失うことになり,AはBの代理人の立場を自己契約として悪用することで,ほぼ無料で高価な土地甲を手に入れる結果となります。

「これはあかんやろぉ」と考えた民法は,自己契約は無権代理になるとして,原則できないこととしました。

双方代理

双方代理とは,ある同一人物が当事者双方の代理人になることです。

これがなぜダメなのかと言うと,双方の代理人となっている人が,当事者の片方に肩入れすると,肩入れしてもらった方が大きく得をし,その相手方は大きな損害を被る可能性があるからです。

たとえば,土地乙(時価500万円)を売りたいCと買いたいDがいて,双方の代理人にEがなるのが双方代理です。

この場合,EはCの代理人なので土地乙の売価を自由に決められます。 対して,EはDの代理人でもあるので土地乙の買価も自由に決められます。

よってEが「Cには恩が有るから,できるだけ高く土地乙を売ってあげよう。」と考えようものなら,Cを売主,Dを買主として,土地乙を相場の倍である1,000万円で売買することができてしまいます。

このような,Cは大きく得をし,Dが大きく損をする結果を生み出す可能性があるため,双方代理は原則できません。(万が一,双方代理があれば無権代理になります)

 

107条1項但し書き:債務の履行か本人の承諾があるなら特別にOK

原則,双方代理も自己契約も有効な代理行為になりませんが,例外として債務の履行か本人が双方代理又は自己契約を承諾しているのなら有効な代理行為となります。

まず,債務の履行についてはなぜ双方代理も自己契約もOKなのかというと,債務の履行は「債権によって定められた特定の行為をする」ことなので,履行内容は既に確定していて双方代理でも自己契約でも,代理人が立場を悪用する危険が無いからです。

たとえば,EがFに「Eがしている借金の返済のため,ATMで債権者に返済の振込作業をする」という代理権を与えたとします。

このときに,FはEに100万円を貸していて既に履行期を迎えていた場合,100万円を返済してもらうことが出来ます。

FはEにお金を貸している人に対して各債務額をATMで各債権者に振り込む権利を有しているわけですから,FはEの代理人としてF自身の銀行口座に100万円を振り込むことが出来るため,当該行為は自己契約にあたります。

このような債務の履行の自己契約でFが代理人としてできることは,100万円を振り込むという,履行内容が既に固定されていて変更できないことしかできません

したがって,債務の履行においては,自己契約(と双方代理)は代理人の立場を悪用した不正が入り込む余地がないので,自己契約も双方代理もOKとなります。

次に,本人の承諾がある場合ですが,自己契約と双方代理が禁止されているのは本人が不測の不利益を被らないように保護することが目的でした。

そのため,当の本人が不利益を被るリスクを受け入れていて,自己契約や双方代理となることを別に良いというのなら,民法は本人の意思を尊重すべきであるため,自己契約も双方代理もOKとなります。

本人が,民法の保護を必要ないと言うのですから,強制的に自己契約や双方代理を禁止する必要性がないためです。

 

107条2項本文:利益相反行為は原則できない。

利益相反行為も無権代理として扱われます。

利益相反行為とは,ある行為をすると,一方には利益となるが,もう一方にとっては不利益となる行為のことです。

たとえば,法定代理人である親と未成年者の子とが,相続財産の1億円を相続するときの遺産分割協議が利益相反行為となります。

法定代理人である親は,子の代理人なのですから,子を代理して遺産分割協議することができます。 ところが,協議する相手は親自身です。

すると,法定代理人である親は相続財産の取り分について,自分自身と子の両方を決定できます。

この親が毒親だった場合,1億円総取りするために,子の代理人として相続放棄をすることも出来てしまいます。

相続放棄を含めた相続協議での子の代理人としての決定は,親か子どちらか一方が得をして,どちらか片方が損をする,まさに利益相反行為となります。

利益が相反するような場合,代理人には本人の利益ために行動することを期待できないため,民法が禁止しました。

ただし,本人が利益相反行為でも構わないから代理人に任せるといったような承諾をしているのなら,有効な代理行為となります。

理由は108条1項の場合と同じなので割愛します。

 

利益相反行為かどうかは外観で判断する(外形説)

利益相反行為に該当する場合は,108条2項により無権代理となりますが,どのような行為が利益相反行為に該当するのかが問題となります。

この点の判断は,行為の外形からのみで利益相反行為か否かを判断し,行為の動機や目的を考慮しない形式的判断説(外形説)が判例・通説となっています。

たとえば,法定代理人である親甲が借金の債務の担保とするために,甲を債務者,甲の未成年の子乙が所有する不動産に抵当権を設定する行為が,乙の学費や養育費に使う目的のためであったとしても,動機や目的は考慮されず,利益相反行為に該当します

動機や目的を知らないとして当該行為を見ると,親甲はお金を借り入れたことで金銭的利益を得ていますが,子乙は自身の資産である不動産に抵当権を設定されたことで財産を失うリスクを背負う不利益を被っています。

したがって,一方の利益となり,もう一方は不利益を被っているため,上記事例の行為は利益相反行為に該当します。

ではなぜ,動機や目的を考慮しない外形説が取られているのかというと,不利益を被る側の保護を厚くするためです。

動機や目的は基本的に人の内面にしか存在しない(仮に外に向けて発言されたとしても真実かどうかはわからない)ため,内面を利益相反行為の判断要素に含めてしまうと,利益相反行為に該当するかの判断が他人からは難しくなります

そのため,外形のみを基準として利益相反行為に該当するかどうかの判断をできるようにしておき,利益相反行為が行われてしまう前に不利益を被る側の保護を可能にするため,外形説が判例・通説となっています。

 

コメント

ついつい解説が長くなってしまいました。

利益相反行為に該当するかどうかは,本試験でも問われる可能性が高い論点だと思います。

問題演習を通じて,利益相反行為に該当するかどうかの事例を学んでおきましょう。

 

解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

※前条の解説はこちらです。

※次条の解説はこちらです。

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