第1節 時効・総則

民法146条:時効の利益の放棄【債務者を守るための禁止規定】

2021年12月9日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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今回は民法146条を3分でわかりやすく解説します。

※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語です
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

時効の利益は,あらかじめ放棄することができない。

民法 第146条【時効の利益の放棄】

 

条文の性格

146条は書いてあることは非常に簡単です。 わかりやすい真っ直ぐなヤツです。

146条の存在意義は,主に立場の弱い債務者の保護です。

 

条文の能力

時効完成前の,時効の利益の放棄の禁止

146条は,あらかじめ,時効の利益を放棄することを禁止します。

時効の利益とは,時効が完成した場合に,権利を得たり,自分に不利な債務が消滅したりする利益のことです。

そして,時効の利益の放棄とは,時効が完成しても私は自分に有利な時効の完成を主張しません!ということです。

なぜ146条は必要なのか

146条は,主に債務者を保護するために存在します。

もしも146条が存在しないとします。 そうすると,あらかじめ時効の利益を放棄することが出来ます。

この146条が不在の状況で,以下の事例で考えてみましょう。

Aさんは,消費者金融から借りた100万円がどうしても払えなくて困っていました。

もしも今月100万円が払えなかったら,ブラックリスト入り,家も差押えられるなど,大変困った事態に陥ります。

そんなAさんに対して,Bさんが「時効の利用を放棄するなら,100万貸してやるぜ!へへへ」みたいな提案をしたとします。

窮地に陥っているAさんは「時効の利益の放棄をするだけならいいか…」とBさんから消滅時効が成立することのない借金をしてしまいました…。

このように,146条が時効の利益の放棄を禁止しないと,窮地に陥っている債務者の足元を見て,債権者に有利な契約を締結させられる恐れがあります。

また,時効の利益の放棄が禁止されてないと,時効の利益を放棄させる契約が実務上スタンダードになる可能性があります

そうなると,民法が認めている債務の消滅時効の規定が事実上使われなくなり,消滅時効という仕組み自体の存在価値を落とすことにも繋がるため,時効の利益の放棄禁止は必要な禁止事項であることがわかります。

時効完成後の時効の利益放棄はOK

時効が完成し,その時効の効力を援用できる状態になった後の時効の利益の放棄は認められます。(146条の反対解釈)

145条によって時効は援用しなければ裁判所はその効力を認めることができません。

この145条の趣旨からも,時効完成後の時効の利益放棄が認められる理由は,時効が完成したとしても「時効は完成したけど,自分の債務は責任持って履行する!だから時効の利益は放棄する!」という判断を民法は尊重すべきだからです。

(時効の利益を放棄せずに,消滅時効にかかった債務の完遂を目指す,ということももちろん可能です。)

 

コメント

では,契約書に『債務者は,時効が完成した後には,時効の利益の放棄を行うものとする。』という条項があった場合はどうでしょうか?

146条を素直に読むと,時効完成後の時効の利益放棄は認めているのでOKですので有効な条項に見えます。

しかし,このような条項は実質的には事前の時効の利益放棄であるため,146条の存在意義を没却することから,当該契約(又は当該条項)は無効と言えるでしょう。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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