今回は民法105条を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語です
※太文字は,解説中で大切なポイントです
法定代理人は,自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において,やむを得ない事由があるときは,本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
民法 第105条【法定代理人による復代理人の選任】
条文の性格
任意代理人が復代理人を選任できる要件を定めていたのが民法104条で,法定代理人が復代理人を選任できる要件を定めているのがこの民法105条です。
104条と105条は似たような規定をしているので同じ血を引いた双子のような条文です。
たしかに104条と105条は,両方とも復代理人の選任できる場合に関連するルール規定であるのは間違いないのですが,よ〜く見比べると書いてある内容は違う次元であることがわかります。
双子の姉104条は,任意代理人は原則復代理人を選任できないという前提に対し,例外として選任できる場合を規定する流れとなっています。 対する妹105条は,法定代理人は原則復代理人を選任できるという前提を示し,ある一定の場合は選任する際の責任範囲が小さくなる場合を規定しています。(姉・妹は適当です)
すなわち104条は終始一貫して選任の可否について言及しているのに対して,105条は選任は常に可能であることは早々に認めた後,選任責任の軽重について言及しているのです。
条文の能力
105条前段:法定代理人は復代理人を選任できる
105条前段に書いてあるとおり,法定代理人は復代理人を選任できます。
これは任意代理人が原則復代理人を選任できない(民法104条)ことと比べて,完全に真逆のルールになっています。
双子なのにここまで姿が異なるのですから,二卵性双生児ですね。
結論が真逆という,天地がひっくり返る程の差が生まれる原因は,復代理人を選任しようとしているのが任意代理人なのか又は法定代理人なのかの違いです。
本人と任意代理人との間の代理委託は,信頼関係で成立しているため,任意代理人は可能な限り自身で代理を完遂するべきです。 そのため任意代理人には原則復代理人を選任する権限はありません。
一方で法定代理人は,本人からの指名で代理人となったのではないため,法定代理人の処理能力を越える事案を代理するような場合にまで復代理人を選任できないような設計は法定代理人にとって酷な負担といえます。
したがって,法定代理人は自由に復代理人を選任できる制度設計としたのです。
『自己の責任で』復代理人を選任するの意味
105条は法定代理人の自由な復代理人の選任を認めるのですが,『自己の責任で』という一言が添えられています。
法定代理人は,自己の責任で復代理人を選任することができる。
民法 第105条本文【法定代理人による復代理人の選任】
この『自己の責任で』は,法定代理人は復代理人のすること全てについて責任を負わなければならないという意味です。
前述のとおり,法定代理人は自由に復代理人の選任をできますが,だからといって無責任に不適切な復代理人を選任すると,本人が不利益を被る恐れがあります。
そこで105条は,法定代理人に自由な復代理人を選任する権限を与える一方で,選任については無過失責任を負わせることで,本人の保護と法定代理人の代理を完遂しなければいけない義務のバランスを取っているのです。
無過失責任とは,たとえ過失が無かったとしても責任を負わされるというものです。
105条後段:やむを得ない事由があるなら,選任と監督に関してのみ責任を負う
法定代理人は,やむを得ない事由がある(たとえば法定代理人の急病など)場合は,復代理人の選任と監督についてのみ責任を負うことを定めています。
105条を整理すると,法定代理人について,
- 105条前段:やむを得ない事由がない→無過失責任(全責任)を負う
- 105条後段:やむを得ない事由がある→選任・監督に関してのみ責任を負う
となります。
やむを得ない事由があることで,法定代理人の復代理人選任に係る責任小さくなるということです。
『選任及び監督についての責任を負う』の意味
選任・監督について責任を負うんだったら,全責任を負うのと何が違うん?と,疑問に思う方もいるかもしれません。
要するに,やむを得ない事由があるときに法定代理人が復代理人を選任した時に,選任と監督に過失が無ければ,法定代理人は責任を取らなくてよいわけです。
事例で考えてみましょう。 たとえば,法定代理人Xはやむを得ない事由が発生したため,法定代理人Xから行政書士Yに対して「かくかくしかじか(事実A)は,絶対に他言しないでくださいね!」と念を押して忠告しうえ,行政書士には守秘義務が課せられていることも加味して復代理人にYを選任したところ,Yが事実Aを第三者に話してしまった場合を考えてみます。
法定代理人は事実Aが外部に漏れないように守秘義務のある行政書士を復代理人に選任にしているため,選任について過失は無いと言えるでしょう。
さらに,念のため事実Aを他言しないように忠告もしているので,復代理人の監督に関しても過失は原則認められないと思われます。
したがって,法定代理人Xにはやむを得ない事由があり,復代理人の選任及び監督について過失も無いと思われるため,Xは当該復代理人の選任について責任を負わないと言えるでしょう。
もし仮に,上記の事例において,復代理人の選任についてやむを得ない事由がないのなら,法定代理人Xは復代理人が犯した情報漏洩について責任を負うことになります。
コメント
ただただ単純に「任意代理人は原則復代理人を選任できない」「法定代理人は復代理人を選任できる」みたいに条文から離れて丸暗記するようなまとめられ方が市販の参考書ではされがちです。
でも条文と向き合ってみると,同じ血が流れている双子にも関わらず,104条と105条の見た目がここまで違うのにもそれぞれの条文の生い立ちに目を向けると理解を伴った暗記ができます。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。