第2目 弁済の目的物の供託

【民法494条:弁済と弁済の提供のスキマを補完】供託とは?わかりやすく解説

2023年7月11日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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読者さまからのコメントにあった『本当の意味での初学者にとっての解説書』を完成させるべく,本サイトを運営中。

 

ウリム

供託とかいう1ミリも人生で関わったことない制度が,いきなり基本書で出てきたんだけど…なにこれ?

本記事は,供託制度についてわかりやすく解説しています。

 

本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。

  • 弁済,弁済の提供,供託の関係性を理解できる
  • 弁済と弁済の提供とのスキマに取り残された問題を知ることができる
  • 供託制度について,基礎から理解できる

 

記事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち

 

読者さんへの前置き

赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

※本ブログでは,記事内容を要約したものを先に【結論】としてまとめ,その後【解説】で詳細に説明をしていますので,読者さまの用途に合わせて柔軟にご利用ください!!

結論:弁済・弁済の提供のスキマを埋めるのが供託

弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する

 一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき
 二 債権者が弁済を受領することができないとき

2 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない

民法494条 【供託】

債権を消滅させる弁済と,債権を消滅させるには至らない弁済の提供とのスキマに取り残された,目的物保管義務を処理するための供託制度を定めた条文です。

 

供託は債権を消滅させる行為であり,その点は弁済と全く同じです。

したがって,供託を悪用すると持参債務が意味を成さないものとすることも可能であるため,供託については,『弁済者が弁済をしたいのに,どうしてもできない…』という状況の者のみが利用できると,民法は供託制度利用について条件を設けました

 

供託制度を利用できるのは,以下の要件を満たした者たちです。

  • 要件Ⅰ:弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき
  • 要件Ⅱ:債権者が弁済を受領することができないとき
  • 要件Ⅲ:弁済者が過失なく債権者を確知することができないとき

 

解説:弁済が利用できるのは【弁済をしたいのにどうしてもできない】者のみ

弁済(民法473条)と弁済の提供(民法492条・民法493条)を先にしっかり理解しよう

弁済・弁済の提供・供託のこれらは,存在意義について互いに密接な関係を有しており,必ずセットで学習をするようにしてください!

本サイトでは,弁済・弁済の提供・供託の繋がりを完全に理解できるように,

弁済(民法473条)

弁済の提供(民法492条)

弁済の提供の方法(民法493条)

本記事

の順で学習することを強く推奨します。

それぞれの概念の理解に不安がある方は,以下の記事たちで学習してから本記事に戻って来てみて下さい。

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弁済と弁済の提供とのスキマに取り残されるもの…

弁済とは,①提供+②受領が揃うことで,債権を消滅させるものでした。

債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する

民法473条 【弁済】

対する弁済の提供は,提供(①)がされた時点で,債務不履行責任から債務者を解放するものでした。

債務者は、弁済の提供の時から債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる

民法492条 【弁済の提供の効果】

 

ここで問題となるのが,債権とそれに対応する債務を消滅させるのはあくまでも弁済であり,弁済の提供では債務を消滅するに至っていないため,債務者は債務に拘束され続ける点です。

すなわち,債権を消滅させる弁済から,債権を消滅させるには至らない弁済の提供を引き算すると,何かしらが残ってしまうのです。

弁済から弁済の提供を引いた残りは...?
弁済から弁済の提供を引いた残りは...?

 

ウリム

弁済と,弁済の提供は,全く別の概念ですもんね!

あれ? そもそもなんで弁済と弁済の提供という別の概念が用意されてるんでしたっけ?

弁済によって債権が消滅し,その裏返しで債務も消え去ることから,債務者は債務から解放してくれる弁済を目指すのでしたね。

しかし,弁済に向けて債務者が誠実に動いても,債権者が非協力的で受領(②)が揃わなかったときは,提供(①)があった時点で債務不履行責任からは解放しよう…というのが弁済の提供でした。

 

さすがに弁済の提供のみで債権を消滅させるのはやりすぎです。

なぜなら,受領が終わっていないのに,弁済の提供で債権を消滅させてしまうと,債権者は引渡し請求できなくなるからです。

 

そのため,弁済と弁済の提供との間で効力バランスを考慮して...

  • 弁済=債権消滅
  • 弁済の提供=債務不履行責任から解放

のような効力設計されているのです。

 

さて,話を戻しますが,弁済から弁済の提供を引き算した結果残るものですが...

 

その答えは,債務者の手元に残ってしまっている,債務の目的物を保管し続けなければいけない義務(=目的物保管義務)です。

この債務者の目的物保管義務が,弁済と弁済の提供とのスキマに取り残されたものです。

弁済-弁済の提供=保管義務
弁済-弁済の提供=保管義務

 

民法は債務者寄りか?債権者寄りか?

債務不履行責任から債務者を,なる早で解放してあげようと弁済の提供制度を用意した結果,弁済の提供をして債務不履行責任だけ消えたのに,債務者の手元に目的物が残ってしまっている…という,ちょっと対応が必要な状況ができあがってしまうことをここまでで確認しました。

 

この状況を解決するため,債務者を目的物の保管義務から解放してあげる手段が考えられます。

すなわち,民法が債務者寄りのスタンスで手を差し伸べる手段です。

債務者寄りの解決案
債務者寄りの解決案

しかし,債務者を保管義務から解放してしまうと,目的物をテキトーに扱う可能性が高くなり,滅失・損傷により債権者(物を受け取る側)が不利益を被る危険が大きくなります。

債務者寄り解決案の問題点
債務者寄り解決案の問題点

 

では,逆に,債務者にそのまま目的物を保管し続けるよう強制する,すなわち,債権者寄りの手段はどうでしょうか?

債権者寄りの解決案
債権者寄りの解決案

この場合,債務の履行に誠実に行動し,弁済の提供(現実の提供or口頭の提供)まで実行した債務者に酷な対応と言えます。

債権者寄り解決案の問題点
債権者寄り解決案の問題点

このように,弁済と弁済の提供とのスキマ問題においては,債務者寄りでもダメだし,債権者寄りでもダメ,つまり,中立な解決法が必要なのです。

 

中立な解決法 供託

この状況を中立的に解決するために,民法は供託という制度を採用することとしました。

つまり,国が供託所という公の機関を用意し,供託所が債務の目的物を預かることで,債務者にとっては残ってしまっている目的物保管義務からの解放,債権者にとっては目的物を国という公の機関が責任をもって預かり,確実に目的物を受け取れる,というような仕組みを用意したのです。

この仕組みを供託といいます。

 

そして,弁済者(債務者)が債権者のために,供託所に目的物を託す(供託する)ことで,債権を消滅させることができます

弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。 この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。

弁済者は、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。 弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する

民法494条1項柱書 【供託】

 

供託制度は悪用ができてしまう?!

ウリム

メル○リで出品物が売れたんだけど,購入者(債権者)の家が遠方で送料がバカにならないから,供託制度なんて便利なものが存在するのなら,家の近くの供託所に持って行ってもいいかな?

このように,供託を利用すれば(悪用すれば?),持参債務をショートカット出来そうです…が,このような供託制度利用は許されるのでしょうか?

 

当然ですが,債務はその本旨通りに履行されることが望ましいと言えます。

つまり,たしかに弁済も供託も,債権を消滅させるのですが,まずは弁済で債権を消滅させるべきということです。

民法も当然そのように考えており,供託については,『弁済者が弁済をしたいのに,どうしてもできない…』という状況の者のみが利用できるという,利用に条件を設けました。

そのような者のみが,債務消滅の利益を享受すべきと言えるからです。

 

弁済供託を利用するための要件

では,民法が認める供託可能者はどのような人なのか,条文に書かれているのでここから確認していきましょう。

弁済者は、次に掲げる場合には、債権者のために弁済の目的物を供託することができる。この場合においては、弁済者が供託をした時に、その債権は、消滅する。

 一 弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき
 二 債権者が弁済を受領することができないとき

2 弁済者が債権者を確知することができないときも、前項と同様とする。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない。

民法494条 【供託】

つまり,整理すると次のようになります。

  • 要件Ⅰ:弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき
  • 要件Ⅱ:債権者が弁済を受領することができないとき
  • 要件Ⅲ:弁済者が過失なく債権者を確知することができないとき

 

それぞれについて,以下で簡単に詳細に触れておきます。

要件Ⅰ:弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき

冒頭でも触れた通り,債権者の受領行為が必要な債権においての弁済は,①提供と②受領が揃わなければ絶対に完成しません

そこで,①提供がされた時点で債務者を債務不履行責任から解放する弁済の提供制度が採用されていました。

 

提供(①)をしたのに,債務者が債務から解放されなかったのは,債権者が受領を拒んだからであり債務者に落ち度はありません

よって,弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだときの弁済者(債務者)は供託をするにふさわしいと民法は考え,供託を認めます。

 

要件Ⅱ:債権者が弁済を受領することができないとき

たとえば,債権者が事故で意識混濁しているや,交通インフラの事故で約束の日時に債務履行場所にたどり着けないなどが,この『債権者が弁済を受領することができないとき』にあたります。

このような場合,受領(②)が満たせないのは債権者の責任ですので,民法はこのような債務者にも供託をする権利を認めます。

 

要件Ⅲ:弁済者に過失なく,債権者を確知することができないとき

たとえば,債権者が連絡先も次の居住先をも債務者に伝えることなく引っ越してしまったような場合が,弁済者に過失なく,債権者を確知することができないときに該当します。

他の例としては,債権の譲渡人と譲受人との間で,債権譲渡について争いがあって,どちらが債権の所有者か裁判所の判断待ち…というような場合も同様に該当します。

 

ウリム

なんでこの『要件Ⅲ:弁済者に過失なく,債権者を確知することができないとき』だけは,要件Ⅰ・Ⅱと違ってわざわざ494条“2項”に規定されてるん? 

それに,なんでこの要件だけ,弁済者に無過失が要件とされてるの?

まず,要件ⅠとⅡは,弁済(=①提供+②受領)のうちの受領(②)が,債権者が悪いせいで揃わないケースです。

対して,要件Ⅲの債権者を確知できないは,債権者が悪い場合と債務者が悪い場合の二通りのケースが存在します

 

債権者が悪い場合,つまり債務者に“過失が無く”債権者を確知できないような債務者が悪くないケースでは,債務者に供託を認めてあげるべきであり,494条2項に規定されています。

 

対する債務者が悪い場合,つまり債務者の有過失によって債権者を確知できない状況では,債務者に供託を認める必要はありません。

たとえば,債権者が引越後の連絡先と居住先のメモを渡していたのに,債務者がそのメモを紛失したり,ワザと捨てたりしたようなとき,債務者に供託をする権利は認められません。

 

以上のように,③の債務者を確知できないとき,というのは債権者が悪いor債務者が悪いの2ケースが存在するため,債務者の過失の有無で場合分けをするため,494条1項と分けられ,494条2項として規定されています。

 

解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

ウリム

励みになりますので,もしこの記事がみなさまの学習に少しでも役に立ちましたら,一言でもよいので応援コメント頂けますと大変うれしいです!

 

※前条の解説はこちらです。

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※次条の解説はこちらです。

(絶賛準備中です! もう少々お待ちください!)

 

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参考文献など

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この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。

 

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