第3節 行為能力

【後見の終わりの始まり】民法10条:後見開始の審判の取消しをわかりやすく解説

2021年3月7日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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今回は,民法10条を3分でわかりやすく解説します。

※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています

 

条文の性格:後見の終わらせ方を定める民法8条

第7条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。以下同じ。)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。以下同じ。)又は検察官の請求により、後見開始の審判を取り消さなければならない

民法10条【後見開始の審判の取消し】

 

[参考 民法7条]

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

民法7条 【後見開始の審判】

 

民法8条の解説でも触れましたが、後見人制度はラベリングです

後見開始の審判がされる、つまり「この人は制度行為能力者ですよ!」とラベル付けされることではじめて、その人は制限行為能力者として法律行為取消権を手に入れられます。

深刻な認知症などで、実際に事理弁識能力を欠いている状況で有ったとしても、家庭裁判所の審判が無ければ行為能力者として扱われます

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後見の開始のルールは、民法7条に規定されていました。

そして、その民法7条の対となる、後見の終了を規定しているのが、この民法10条です。

つまり、民法7条と民法10条は、後見の始まりと終わりをそれぞれ司る双子の様な存在です。

 

解説:後見の

一個前の条文の民法7条には、誰が被後見人になれるのか、そしてどの様に後見開始をするのか書かれています。

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

民法7条 【後見開始の審判】


では、民法7条によって与えられた被後見人という身分は一体いつまで有効なのでしょうか?

一度与えられたら一生涯有効でしょうか? それとも更新が必要なのでしょうか?

 

答えは、本条民法10条に規定されている家庭裁判所によって後見開始の審判が取り消された時まで有効です。

第7条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。以下同じ。)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。以下同じ。)又は検察官の請求により、後見開始の審判を取り消さなければならない

民法10条【後見開始の審判の取消し】

つまり、家庭裁判所に取り消されなければ生涯有効です

 

後見開始の審判の取り消し要件は2つ

前述のとおり、後見が終了するタイミングは、家庭裁判所の後見開始の審判が取り消されたときです。

とは言っても、後見開始の審判が取り消されれば、被後見人は取消権を失い得るわけですから、いきなり不意打ちに後見開始の審判を取り消されても困ります。

 

そこで、民法10条は、後見開始の審判が取り消される場合の要件を規定しています。

後見開始の審判を取り消すための要件は以下の2つです。

  1. 民法7条に規定する原因が消滅している
  2. 審判取り消し請求権を持つ者から審判取消請求が家庭裁判所に対してされている

 

1. 民法7条に規定する原因が消滅している

すなわち、現在被後見人である人が、事理弁識能力が欠けている常況では無くなったということです。

 

2. 審判取り消し請求権を持つ者から、審判取消請求が家庭裁判所に対してされている

民法10条に列記されている人から、家庭裁判所に対して、被後見人の後見開始の審判の取り消しを請求することが必要です

第7条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。以下同じ。)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。以下同じ。)又は検察官の請求により、後見開始の審判を取り消さなければならない。

民法10条【後見開始の審判の取消し】

誰からの請求も無いのに、家庭裁判所が独断で勝手に後見開始の審判を取り消すことはできません

もしも家庭裁判所が独断で後見をストップできてしまうと、被後見人はいつ自分の保護が無くなるのか不安定な立場に立たされることになってしまうからです。

 

後見開始の審判する→任意的規定 後見開始の審判の取消し→必要的規定

後見の開始の民法7条と、後見の終了の民法10条の文末を見比べてみましょう。

精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる

民法7条 【後見開始の審判】

第7条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。以下同じ。)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。以下同じ。)又は検察官の請求により、後見開始の審判を取り消さなければならない

民法10条【後見開始の審判の取消し】

後見の開始(民法7条)は、『できる』と書いてあります。

したがって、家庭裁判所は後見開始の審判をすべきかどうか、判断をすることができます。

 

対して、後見の終了(民法10条)は、『取り消さなければならない』と書いてあります。

よって,家庭裁判所は、後見開始の審判を取り消すべきかどうかについて判断をすることが出来ず、取り消すべき要件が満たされていたら、絶対に取り消さなければいけません。

 

後見開始の審判が取り消されるということは、成年被後見人は行為能力を取り戻し、自分自身で出来る法律行為の範囲が広がります

民法は、私的自治の原則を採用していることもあり、「人は自分自身で自分のことを判断するべきであり、そうあることがより良い」と考えています。

したがって、後見開始の審判を取り消し、後見を終わらせるべき要件が揃っているのなら後見開始の審判は取り消すべきであり、行為能力回復の機会を家庭裁判所の一存で奪うことは望ましいことではありまえん。

 

逆に、後見開始の審判がされて、成年被後見人になるということは,自分で出来る法律行為の範囲がかなり狭くなり、自由意思を大きく制限することになります

よって、後見開始の審判をすべきかは、家庭裁判所があらゆる事情を加味した上で、総合的に判断すべきとされています。

 

以上のような考えから、後見開始の審判をする場合は家庭裁判所に裁量を持たせ,『できる』と規定し、対する後見開始の審判を取り消す場合は家庭裁判所の裁量を無くし、『取り消さなければならない』と規定しています

 

コメント

後見制度に関する条文は民法7条に始まって、民法10条に終わります。

民法7条~10条の全4条に渡って解説してきた後見制度もこれで終わりです。

 

次の民法11条からは、制限行為能力者制度四天王である、未成年者・被後見人・被保佐人・被補助人のうちの被保佐人に関する条文が始まります。

基本の骨格は後見開始と同じなので臆することはありません。

今勉強している制限行為能力者は、他の制限行為能力者とどこが違うのか、を抑えながら条文を読み込んでいきましょう

 

 

解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

 

※前条の解説はこちらです。

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※次条の解説はこちらです。

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参考文献など

参考文献

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