第4節 無効及び取消し

3分でわかる逐条シリーズ 民法126条 -取消権の除斥期間 契約実務ではお目にかかるべきではない条項-

2022年1月10日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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今回は民法126条を3分でわかりやすく解説します。

記事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人が記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち

読者さんへの前置き

赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

条文の趣旨:不安定な状態の法律行為の早期安定化

取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

民法 第126条【取消権の期間の制限】

取消権を行使できる期間に制限を設け,相手方の不安定な立場をなるべく早く安定できるようにする条文です。

取消権者は相手方との行為を一方的に取り消すことができます。

一方の当事者の一存で法律行為が取り消されるような状態が継続することは,社会経済を非常に不安定なものにします。

経済的不安定が長期間継続することは望ましくないため,民法は,取消権を行使しない状態が一定期間継続した場合には,取消権が自動的に消滅することにしました。

 

解説:実務ではお目にかかるべきではない条文

取消権の除斥期間を定めている(消滅時効説も有り)

取消権を未行使のまま,以下の①か②のどちらか早い方が到来した時に,取消権は消滅します。

  • 追認をすることができる時から5年経過
  • 取り消すことができる行為の時から20年経過

※本条文は除斥期間説,消滅時効説の対立があります。 本記事では除斥期間説をとります。
※行政書士試験としては,除斥期間説か消滅時効説かの対立は意識する必要はないでしょう

 

除斥期間とは,その期間内に権利を行使しなければ,当然に,当該権利が消滅する期間のことをいいます。

 

消滅時効(民法166条)との差異を,簡単にまとめておきます。

  • 除斥期間には,時効と違い,更新が無い
  • 除斥期間は,期間が到来したら当然に効力が発生し,援用が不要

除斥期間か消滅時効かは,条文の書き方からは判断できず,その条文の趣旨などから判断されます。

 

『追認をすることができる時』はいつなのか

1個前の条文である民法125条の『追認をすることができる時以後』の解釈には学説の対立がありましたが,本条126条の『追認をすることができる時』の解釈にも,学説の対立があります。

取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

民法 第126条【取消権の期間の制限】

本記事における『追認をすることができる時』の解釈は,判例に従うこととします。

以下で,取消権が発生する4パターン(制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫)に沿って,『追認をすることができる時』がどのタイミングなのか確認していきます。

 

制限行為能力(成年被後見人以外)に起因する場合

未成年者・被保佐人・被補助人の場合は,取り消すことができる行為について行為能力を得た時が『追認をすることができる時』です。

 

制限行為能力(成年被後見人)に起因する場合

成年被後見人の場合は,以下の①②を両方とも満たした時が『追認をすることができる時』です。

  • ①:成年被後見人が取り消すことができる行為について行為能力を回復して,後見取消しの審判を得た
  • ②:①の後,取消権を有することを当人が知った

 

未成年者・被保佐人・被補助人と違い,成年被後見人は,”自分が,取り消すことができる行為を行ったこと”自体も認識していない状態にある者です。

したがって,成年被後見人においては,取消すことができるという認識を,回復するまで待ってあげることが必要と考えられています。

 

制限行為能力者が,行為能力を回復した場合の『追認をすることができる時』がいつなのか?については,124条1項と126条の連携をちゃんと理解しておくことが重要です。

 

民法124条1項は,取消しできる行為は,いつから追認をすることができるのか,を定めている条文です。

つまり,民法124条1項が,民法126条の『追認をすることができる時』を定めているのです。

民法124条1項を,改めて確認しておきましょう。

1 取り消すことができる行為の追認は,取消しの原因となっていた状況が消滅し,かつ,取消権を有することを知った後にしなければ,その効力を生じない。

民法 第124条1項【追認の要件】

条文より,①取消しの原因が消滅し,かつ,②取消権を有することを知ったの2つの要件が満たされた時が,民法126条の『追認をすることができる時』のようです。

 

制限行為能力者であること,が取消しの原因なわけですから,制限行為能力者で無くなったという出来事は,①取消しの原因の消滅に該当します。

 

制限行為能力者のうち未成年者・被保佐人・被補助人は,取り消すことができる行為を行ったことを自身で認識できています。(事理弁識能力を”欠いている”わけではないため)

よって,未成年者・被保佐人・被補助人であった者たちは,②取消権を有することを知ったは,元々満たしています。

したがって,彼らは元々②取消権を有することを知っているので,行為能力の回復(①取消し原因の消滅)をするだけ発生すれば,124条1項規定の要件を満たし,民法126条の『追認をすることができるとき』状態になります。

以上から,未成年者・被保佐人・被補助人は,行為能力の回復(①取消し原因の消滅)さえすれば,『追認をすることができる』ようになり(民法124条1項),この『追認をすることができる』タイミングから除斥期間が進行します。(民法126条)

 

対して,成年被後見人は,取り消すことができる行為をした,という認識がありません。

成年被後見人は,事理弁識能力を”欠く(すなわちゼロ)”だからです。

 

そのため,行為能力を回復(①取消し原因が消滅)し,成年被後見人でなくなったとしても,まだ②取消権を有することを知っているを満たしていません

したがって,成年被後見人は,①行為能力を回復した後に,②取消権を有することを認識することで,ようやく ,124条1項の追認するための要件を満たすのです

そして,124条1項の要件を満たしたことで,民法126条の『追認をすることができる』状態になり,除斥期間が進行を開始します。

 

錯誤に起因する場合

錯誤は,2020年4月1日施行の民法改正によって,「錯誤による法律行為は無効」というルールから,「錯誤によるによる法律行為は取り消すことができる」というルールに変更されました。

これにより,今まで”無効”という分野に分類されていた錯誤という概念が,新たに”取消し”分野にお引越しをしたことになります。

そのため,今現在(2022年)の時点では,引越したばかりの錯誤における『追認をすることができる時』はいつなのか?に関する判例が無く,統一の見解は今のところまだありません。

 

詐欺・強迫に起因する場合

判例より,詐欺・強迫に陥っている状況が解消された時が,『追認をすることができる時』です。

詐欺・強迫から脱した(①取消し原因が消滅した)のであれば,正常な判断が可能な状態が到来していると考えてよいからです。

 

実務では,本条が適用されるような事態は避けましょう

契約実務においては,本条が適用される事態は非常に望ましくないことです。

民法126条の趣旨・存在理由は,不安定な状態の法律行為の早期安定化です。

 

しかしながら,私たちの日常生活で,5年や20年という時間は,かなり長い期間のように思います。

ましてや契約が多用されるビジネス取引において,5年・20年という時間は気の遠くなるような長さです。

この期間中ずっと,いつでも契約が取り消せる,というような状態で放置しておくことは避けるべきでしょう。

 

解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

※前条の解説はこちらです。

※次条の解説はこちらです。

参考文献など

この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。

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最後まで読んでくださりありがとうございました。

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