今回は民法124条を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
1 取り消すことができる行為の追認は,取消しの原因となっていた状況が消滅し,かつ,取消権を有することを知った後にしなければ,その効力を生じない。
2 次に掲げる場合には,前項の追認は,取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。
一 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。
民法 第124条【追認の要件】
二 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人,保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。
条文の性格
取り消すことのできる行為を追認する場合の要件をまとめた条文です。
この条文の理解の震源地は,『取消権の発生要因は,制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫の4つである』です。
124条は取り消すことのできる行為の『追認』について定めてますが,取り消すことのできる行為というのは,今は有効な行為だけど,制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫のいずれかの状況に陥っているけど,本当に有効でいいの?という状態になっている行為です。
そして,本当に有効にしていいの?に対して,「やっぱりやめておく!」とか「有効でOK!」と,取消すか追認するか判断する決定権は,制限行為能力者とその代理人や,錯誤・詐欺・強迫に陥っている者が持っています。
つまり,取り消すことができる行為について,当該行為の経済的効果の良し悪しを判断できない(制限行為能力者)か,本当に当該行為の法律効果の発生を望んでいるのか保証がない(錯誤・詐欺・強迫)という立場に立つ者,すなわち不利益を被る可能性が高い側に決定権があるのです。(120条)
そして気をつけたいのが,取り消すことのできる行為を追認して取消権を放棄したら,もう二度と取消権の行使はできません。(122条)
言い換えれば,取り消すことのできる行為を追認で有効にするということは,取消権の放棄と一緒に,民法が経済的不利益を被らない様に用意してくれた保護を自ら手放すということです。
そのため,取り消すことのできる行為の追認というのは,ものすごく慎重に行わなければならないものなのです。
上記に述べた取り消すことのできる行為の追認の性質を勘案し,テキトーな追認を防止するために,民法は2つの要件を課すことで,追認権者側を保護しているのです。
以下で,要件を確認していきますが,本条124条は,無効や取消しにおけるコア的な条文です。
コアである124条をしっかり理解するためには,120条~123条を正しく理解しておくことが前提となりますので,知識に不安が有る方は,以下の記事を先に目を通すことをオススメします。
https://hamusuke1022.com/civil-law-from119-to126/
条文の能力
原則(1項):追認の要件は,要件①取消し原因の消滅と要件②取消権があることを知っていること
原則として,取り消すことのできる行為を追認し,当該行為を有効なものとして確定するには,以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 要件①:取消し原因が消滅していること
- 要件②:取消権を有することを知っていること
なぜこの2つの要件が課されているのか,見ていきましょう。
要件①:取消し原因が消滅していること
この要件は,追認するかどうかについて,正常な判断が出来る状況で追認が行われることを確保するための要件です。
『取消し原因が消滅している』とは,以下のような状態を指します。
- 制限行為能力者が判断能力を回復し,行為能力者となった
- 未成年者が成年になり,行為能力者となった
- 詐欺や強迫状態から解放されて,通常の判断が可能になった
取消権が発生する要因とは,すなわち制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫のいずれの要因でも,正常な判断が出来ていない状況なのです。
そして,正常な判断が出来ない状態が継続したままでは,いくら取消権を与えて保護しようとしても,追認による取消権の放棄が取消権の価値が理解できぬまま起きてしまうかもしれません。
また,強迫の場合ですと,「取消権を放棄しろ!」と強迫されて追認することで取消権の喪失が起こりかねません。
これでは,民法が取消権を与えて保護しようとしている目的が達成できません。
したがって,民法124条は,取り消すことのできる行為の追認時には,取消し原因の消滅を要件として定めたのです。
要件②:取消権を有することを知っていること
こちらは,知らないうちに取消権を放棄してしまうことを防ぐための要件です。
例外(2項):取消し原因が制限行為能力に起因する場合
124条2項では,同条2項1号2号に該当する場合は,取消し原因が消滅してなくても追認して良い,と定めてます。
もう少し分かりやすく言い換えます。
取消し原因が制限行為能力である場合,以下のどちらかなら,取消し原因が消滅する前でも追認OKです。
- 例外①(本条2項1号):制限行為能力者の法定代理人,後見人,保佐人,補助人が追認する
- 例外②(本条2項1号):制限行為能力者(成年被後見人以外)が同意を得て追認する
つまり,124条2項は,取消権の発生する4パターンである制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫のうち,制限行為能力パターンのみの話です。
制限行為能力者は,精神上の障害によって法律行為の経済的判断が難しい状態であり,この状態であることが取消権の発生要因です。
制限行為能力者のみんながみんな元気に回復すれば良いのですが,そうもいかない現実があります。
回復の見込みが無い方も多いでしょう。
そうなると,取消し原因の消滅を待ってからでないと追認出来ない124条1項の原則を,取消し原因が制限行為能力者に起因する場合に当てはめると,下手すると永久に追認出来ない可能性があります。
したがって,124条2項は,1項の定める原則を,制限行為能力者用に少し改変する役割を担っているのです。
例外①(2項1号):法定代理人・後見人・保佐人・補助人が追認
制限行為能力者の法定代理人・後見人・保佐人・補助人たちは,行為能力を持っているケースがほとんどですので,正常な判断ができる者たちです。
したがって,制限行為能力者の回復を待たなくても,本人の代わりに正常な判断をしてくれるのなら,取消し原因の消滅を待つ必要はありませんので,取消し原因の消滅前でも追認が認められます。
ただ,条文に『取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない』と有るように,取消権を有することを知っていなければならない要件は免除されていません。
よって,法定代理人・後見人・保佐人・補助人たちは,追認する際は取消権を有していることを知っている必要があります。
例外②(2項2号):(成年被後見人以外の)制限行為能力者本人が同意を得て追認
同意を得て追認するのならば,実質的には法定代理人,保佐人又は補助人たちが追認の判断をしています。
したがって,124条2項1号と同様の理由で,取消し原因の消滅を待つ必要はありません。
成年被後見人が除かれている理由は,成年被後見人は同意が有ろうと無かろうと,日用品の購入以外の法律行為は一切出来ないので,追認行為は当然にできないからです。
コメント
行政書士試験では,『未成年者が成人した場合,いつから取り消すことのできる行為を追認できるか?』という点で問われます。
未成年者が成人になった場合,制限行為能力者から行為能力者になったため,取消し原因は消滅したと言えます。(本条1項)
もちろんそれだけではダメで,当該成人した者が,自身に取消権が有ることを知ったうえで追認しなければいけません。(本条1項)
『自身に取消権が有ることを知っている』が抜け落ちていないか問題でよく問われるので気をつけましょう。 最後まで読んでくださりありがとうございました。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。