今回は民法125条を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
※赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
前条の規定により追認をすることができる時以後に,取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは,追認をしたものとみなす。ただし,異議をとどめたときは,この限りでない。一 全部又は一部の履行
民法 第125条【法定追認】
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行
条文の性格
本条125条は,一定の要件を満たした場合は,取り消すことができる行為について追認の意思表示が無くても,法律によって強制的に追認効果が発動する場合を定めています。
取消すことができる行為において,取消権を持つ者のは以下の①②の者です。(民法124条)
- ①当該行為の経済的効果の良し悪しを判断できない者(制限行為能力者)
- ②本当に当該行為の法律効果の発生を望んでいるのか保証がない立場に立つ者(錯誤・詐欺・強迫)
上記の①②の者の置かれている状況を鑑みて,民法は彼らに取消権を与えることで保護をしているのでした。 これは,当該行為をまだ無かったことにできるよ?という民法の気遣いですね。
取り消すことができる行為を追認して取消権を放棄することについては,民法は慎重を期させるために,追認の意思表示について最大2つの要件を課していました。(民法124条)
取り消すことができる行為の追認については,たしかに慎重を期すべきなのですが,追認したのと同視できるよね?というような行為が有った場合は,相手方の保護を優先する必要が出てきます。
つまり,『追認したのと同視できる』=『取消権を放棄し,当該行為が有効だと確定したと考えてよい』ような行為があった場合は,相手方からしたら「もう取り消さないんだろうな」と考えますので,この相手方の期待を保護してあげるべきです。
125条は,このような相手方の期待を保護する趣旨の規定です。
条文の能力
法定追認とは
取り消すことができる行為の追認は,原則として,相手方に対する意思表示による追認で行います。(民法123条)
それに対し,125条の追認は法定追認といわれるものです。
法定追認とは,取消権を持つ者によって,125条各号に規定されている行為のいずれかが行われた場合,追認したとして法律が強制的に擬制する仕組みのことです。
取消権を持つ者が,取り消すことができる行為が有効だという前提で行動をしているのなら,相手方は「この行為はもう取り消さないだろうから,有効として考えよう」と期待するはずです。 民法が,この相手方の期待を保護してあげようというわけです。
たとえば,未成年者が自動車を購入して,その代金について車屋の指定した口座に購入代金が振り込まれたのなら(125条1号の債務の履行),相手方は,この売買行為は有効として確定したと期待するでしょう。
この相手方の『売買契約は有効に成立したのだろう』という期待が,民法が125条の法定追認という制度で保護しようとしているものです。
自動車の売買契約を法定追認で有効と確定することで,当該契約がいきなり取り消すことができないようにし,相手方を保護するのです。
各号に規定されているのは,追認したと同視できるような行為たち
125条各号に規定されている行為は,丸暗記できるならそれで良いですが,追認したと同視できる行為たちと認識しておけばOKかと思います。
意義をとどめた場合は,追認効果は発動しない
ただし書きについては,異議をとどめたのなら各号に該当する行為をしても法定追認の効果は発動しないことを定めています。
なんでこんな規定が必要なのかについては,事例で説明します。
強迫されたとして,高級羽毛布団の購入契約を取消したいと考えていますが,相手方が強迫なんて事実は無いと反論した場合を考えます。
取消しをしたい側の強迫の事実が裁判で認められて,取消せたのなら,ハッピーエンドです。
ところが,強迫の事実が認められなくて敗訴した場合,当該契約は有効となります。
すると,購入代金は支払わないといけませんが,支払期日を過ぎていた場合は,遅延損害金を一緒に払わないといけません。
このようなときに活躍するのが,本条ただし書きです。
一応,代金は払っておくけど,当該契約の成立を認めたわけじゃないからね,という異議をとどめて債務の履行をすることで,法定追認の発動をさせないようにすることができます。
これによって,当該契約は追認されていないので裁判上で争うことができますし,仮に敗訴しても遅延損害金を支払う必要はありません。
『前条の規定により』の削除と,『追認をすることができる時以後』の解釈について
本条125条は,2020年4月1日施行の民法大改正で改正された条文です。
なにが変更されたかと言うと,冒頭の『前条の規定により』が削除されました。
『前条の規定により』の前条は124条なので,意思表示による追認を規定している条文です。
つまり『前条の規定により』の削除は,124条の意思表示による追認の要件と125条の法定追認の要件は無関係だよ,という124条と125条とを分断する趣旨を表現しています。
しかしながら一方で,125条には『追認をすることができる時以後』と書いてあります。
素直に条文を読むと,
「『追認をすることができる時以後』ってことは,意思表示による追認の要件①取消しの原因の消滅と要件②取消権を有すること知っている,の①と②が満たされた時から追認することができるんだから,結局は124条の要件が満たされた時以後ってことじゃないの?」
「それなら124条が関係あるんじゃないの?」
「『前条の規定により』を削除する必要あった?」
という疑問がわくと思います。
これの答えは,大審院大正12年6月11日判決の判例にあります。
この判例では,取消権者において,自身が取消権を有していることを知っていても知らなくても,民法125条は適用され,法定追認は認められる,と判示しているのです。
つまり,125条の『追認をすることができる時以後』というのは,要件①取消し原因の消滅さえ満たされていればOKという意味です。
実は,もともと2020年4月1日施行の民法大改正前の124条には要件②取消権を有することを知っている,が書いてありませんでした。
2020年4月1日施行の民法大改正で,124条に要件②が追加されたことと,上記の125条の判例法理とを整理すると,以下のとおりの状況となりました。
- 124条の意思表示による追認の要件→要件①かつ要件②
- 125条の法定追認の要件→要件①のみ
したがって,125条に『前条の規定により』を書いたままにすると,124条と125条の要件の違いが表現できないので,『前条の規定により』が削除されました。
以上が,『前条の規定により』削除の経緯と,『追認をすることができる時以後』の解釈についてでした。
コメント
ここまで書いておいて申し訳ないのですが,125条の法定追認要件において,要件①②の双方を必要とすべき,という学説もあります。
本記事では,民法改正が『大審院大正12年6月11日判決を否定する趣旨ではない』という考えのもとで行われたことを勘案し,要件①のみ必要説で記載していることを補足しておきます。
解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!
※前条の解説はこちらです。
※次条の解説はこちらです。