第4節 無効及び取消し

民法121条の2 原状回復の義務【無効や取消し時の,後片付け役】

2022年1月7日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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今回は民法121条の2を3分でわかりやすく解説します。

※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

1 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は,相手方を原状に復させる義務を負う。

2 前項の規定にかかわらず,無効な無償行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は,給付を受けた当時その行為が無効であること(給付を受けた後に前条の規定により初めから無効であったものとみなされた行為にあっては,給付を受けた当時その行為が取り消すことができるものであること)を知らなかったときは,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う

3 第1項の規定にかかわらず,行為の時に意思能力を有しなかった者は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても,同様とする。

民法 第121条の2【原状回復の義務】

 

条文の性格

無効や取消しがあった際の,後片付けを担当する条文です。

無効や取消しは効果が遡及するため,最初から何も無かった状況に戻ります。

理論上・法律上は「初めから何もありませんでした~!」でたしかに終わりなんですが,現実には,無効や取消しがあった行為に基づいて,債務が履行されていることも多いです。

たとえば,売買契約に基づいて,売主は商品を渡し済み,買主は代金を支払い済み,という状況において,当該売買契約の買主が未成年者だったために契約が取り消されたとします。

この場合,売買契約が取消されたので,この売買契約は最初から無かったことになります。

契約は無かったことになっても,商品と代金は共に引渡し・支払い済みになってしまっているので,この状態を解消する必要があります

このような状態に陥った際に,お互い相手から受け取った物は相手に返そうね,というルールを定めて,お互いに原状回復させて後片付けをするのが,この121条の2です。

本条の第3項の理解には,意思無能力者や制限行為能力者の保護要請の趣旨も絡んできますので,頭の片隅に入れておくとよいです。

民法は,意思無能力者や制限行為能力者は,ちょっと過保護すぎない?というくらいに,経済的不利益からとにかく保護しようという姿勢を貫いている,という認識を持っておくと本条及び民法全体の理解に役立ちます。

条文の能力

原則 (第1項) :無効や取消しされた行為で手に入れたものは,相手にそのまま返還する

無効や取消しされた行為に基づいて手に入れたものについては,そっくりそのまま返還して,相手を現状に回復させることが原則となります。

※万が一,物として形を持つものが既に無い場合は,その価額分の金銭を対価として返還します

つまり,無効や取消しによって無効となった契約などは,最初から存在しなかった世界線へと法律上は移行したので,現実世界上でも同じように契約の無かった世界,すなわち契約に基づく物や金銭の動きがなかった状態に巻き戻しましょう,ということです。

121条の2第1項の『無効な行為に基づく』とは,無効でも取消しでも結局は法律上の効果として行き着くのは無効なので,『無効な行為に基づく』=『無効や取消しされた行為に基づく』と考えて頂いてOKです。

例外①(第2項):無効かつ無償な行為において善意で手に入れたものは,現に利益を受けている限度で返却

前述のとおり,無効な行為に基づいて受けた給付は,そっくりそのまま相手方に返却して,相手方を原状回復させることが原則です。

ところが,その原則を貫くと酷な立場に陥るような場合が存在することがわかりました。

それが,無効な無償行為において善意で給付を受けた人です。

なぜ,この無効な無償行為において善意で給付を受けた人に,原則の原状回復の義務を負わせることが酷なのかは,事例で考えるとわかりやすいです。

無償行為の代表例は贈与です。 つまり,タダで100万円あげるよ,という契約です。

タダで本当に100万円が贈与されると信じて,どうせなら盛大に使おうと思い,100万円全てを使ってヨーロッパ一周旅行に行った人がいるとします。

しかし,帰国後,100万円を贈与してくれた人が未成年であったことが判明し,当該贈与契約が取り消されたことで無効になった場合が,121条の2第2項が想定するケースです。

この場合,121条の2第1項の原則に沿って,贈与された100万円をそっくりそのまま贈与者へ返却しろとなると,贈与を信じていた側からすると大変酷な状況であることがわかります。

100万円の贈与が無ければ,ヨーロッパ一周旅行をしなかった可能性が高いからです。

それなのに,いきなり貯金を切り崩して(最悪借金して)でも100万円を返還することを強制させるとなると,家計にも大きな影響を及ぼすでしょう。

また,このような場合にも,原状回復義務の原則を貫こうとすると,贈与を装った強制的な貸し付けが出来てしまいます

たとえば,前述のケースで「100万円返せないなら,貸したことにしてあげるよ」というような強制的貸付契約なるものを,民法121条の1第1項を悪用して作り出せてしまいます。(さらに,このような場合での貸付を認めると,返済までの利息まで払わないといけません…)

このような状況は法が認めるべきではありません。

したがって,民法は,無効な無償行為に基づいて給付を善意に受けた者については,現に利益を受けている限度での返還でOKとしました。

 

現に利益を受けている限度とは

現に利益を受けている限度』とは,手に入れた利益がそのままの形,又は形を変えて現存していることを指します。

すなわち,現に利益を受けている限度で返還しろ,というのは,手に入れた利益がそのままの形,又は形を変えて現存している分は返還しろ,ということを意味します。

前述のケースの,ヨーロッパ一周旅行をした人は,100万円をフルに使いきっているのなら,手に入れた100万円という利益は既に残っていないので,100万円を返せと言われても返還する必要はありません。

当然,銀行や消費者金融から借金をして返済する,なんてこともしなくて問題ありません。

 

例外②(第3項):意思無能力者と制限行為能力者が手に入れたものは,現に利益を受けている限度で返還

本条第1項の原状回復の原則の,例外の2つめを定めるのが,この第3項です。

本条第3項は,意思無能力者と制限行為能力者については善意悪意を問わず,無効な行為に基づいて手に入れたものは,原状回復ではなく,現に利益を受けている限度での返還でOKとしています。

つまり,意思無能力者と制限行為能力者は

  • 原状回復ではなく,現に利益を受けている限度での返還でOKな分,責任が軽くなっている
  • 善意でも悪意でも,現に利益を受けている限度での返還でOK
  • 本条第2項のように無償行為でなくてもOK

と,かなり優遇されています。

これは,行為時に意思無能力者か制限行為能力者であった者を手厚く保護しよう,と民法が考えていることに由来します。

意思無能力者と制限行為能力者は,自身が行う法律行為の経済的不利益を判断できません

そのような人を上手く利用して,借金させてお金をむしり取ってやろうなんて考える人が近づいてくる可能性があるわけです。

当然,あらゆる判断能力が低くなっている,若しくは完全に失っている意思無能力者や制限行為能力者は自衛できないわけですから,良くないことを考える人が諦めるくらいに法律で手厚く保護する必要があるのです。

本条第3項は,その要請に民法が応えようとしている姿勢の表れと言えます。

逆の視点に立つと,意思無能力者や制限行為能力者と契約や取引しようと考える人は,かなり慎重に取引する必要があります。

未成年者と契約しても,未成年者であるというだけでいつ取り消されるのかわかりませんし,取消された場合には本条第3項によって現に利益を受けている限度でしか給付物を回収できません。

未成年者に給付物を使い込まれていた場合は取り返せないということです。

コメント

本条は,2020年4月1日施行の民法大改正で追加された条文です。

したがって,新たに誕生したばかりの条文のため,まだ本条の判例などが何もなく,今後の解釈次第で運用されていくため,本記事を書いている2022年現在の行政書士試験においては,条文に書いてあることをそのまま憶えておくことで対策になるでしょう。

 

解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

※前条の解説はこちらです。

※次条の解説はこちらです。

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