1700年代後半…日本が鎖国をして国家規模の引きこもり状態だった頃、遠く離れたイギリスの地で、1人の男が物思いにふけっていました。
男の名前はアダム=スミス。
彼が考えていたのは「どうしたら、お金持ちになれるのか…」でした。
誰もが考えた事がある「お金持ちになりたい」という欲望に彼は真面目に向き合いました。
その答えを見つけるために、彼は勉強をし続けました。
お金とは? 市場とは? 仕事とは?
…経済とは?
彼は何年も勉強を続けました。 それは気付けば経済学という世界初の新しい学問の領域にまで到達していました。
世界初の未知の学問の世界へ自分で扉を開け、さらにその先へ進んだ場所で彼は「国や経済をコントロールする見えない手が存在する」ことに気付きます。
彼はそのことを『国富論』という本に書き記しました。
彼の、経済をコントロールする見えない手の発見は、後の世界経済に大きな影響を与えました。
発見されたその見えない手は、まるで神が人間の世界をコントロールしているかのようなちからを持つことから次第に「神の見えざる手」と呼ばれるようになりました。
お金持ちになるにはから始まり、神の発見にまで到達した男、アダム=スミスは歴史に名を残すこととなりました...。
アダム=スミスが発見した神はどんな姿だったのか、今回の記事で見ていきましょう!
市場とは
アダム=スミスは私たちが豊かになるには、まず私たちが暮らす国自体が豊かである必要があると考えました。
言われてみれば、私たちが欲しいお金って正式には日本銀行券と呼ばれるものです。 国の規模が小さくて世界に日本円が1億円しか存在しなかったら、日本中のお金を独り占めしてもたった1億円までのお金しか手に入りません。
逆に1,000兆円が日本にあって、日本の人口が100万人だったら一人あたり平均10億円を持てることになり、貧しい国よりも簡単にお金持ちになりやすいですね。
富を得るにはまず、国が豊かではなければいけないわけです。 そのため、アダム=スミスは国が豊かになる方法を研究し、その成果を本にまとめました。
これがアダム=スミスが書いた本の代表作である『国富論』の由来です。
アダム=スミスは、国が発展して豊かになる要因は市場(しじょう)にあるのではと考えました。
市場とは、商品やサービスをお金で取引を行う場所・環境・業界のことです。
お金を手にいれるには、商売をして何かを売ってお金をかせぐ方法が一番イメージしやすいですよね。 アダム=スミスが、お金と商品がやり取りされる場所である市場に注目したことも自然なことだったと思います。
アダム=スミスが、このお金と商品とのやり取りが行われる市場の仕組みを研究する過程で、冒頭に述べた神の手が姿を現します。
神の見えざる手 -需要と供給-
商売は「売れるものを、売れる値段で売る」ことが大切です。
売れるものというのは、多くの人が「それ欲しい!」と思うものです。 この「それ欲しい!」っていう欲求のことを需要(じゅよう)と言います。
例えば、ここに道端で拾ってきたうんこがあるとします。
多分このうんこを欲しいという読者さんは多分いないと思います。 このうんこは「それ欲しい!」があまり(まったく?)無いので需要が無いことになります。
逆に、道端で拾ってきたポケットモンスター ソード・シールドがあったとしたら、このゲームを欲しい人はある程度いると思います。 うんこよりはゲームソフトの方が「それ欲しい!」という人が多いわけですが、このように欲しいと思う人が多いことを、需要が大きいと言ったりします。
逆に、欲しいと思う人が少ないことを需要が小さいとか、需要が無いと言ったりします。
需要が大きい(「それ欲しい!」という人が多い)商品はバンバン売れるのでしょうか。
実は違います。
ポケットモンスターのゲームは大体6,000円くらいで発売されました。 サンタさんにお願いできる値段ですし、お年玉やお小遣いを貯めて手に入る値段ですね。
ところが、このポケットモンスターのゲームが10万円くらいのソフトでお金持ち専用ソフトだった場合は、みなさんのお小遣いではなかなか手が届かないとでしょう。 それにこの値段では、みなさんの友達も持っていないでしょうから、周りが誰もやっていないポケットモンスターのゲームを欲しいと思う人も少なくなるでしょう。
そうすると、欲しいと思う人が減るということは需要が小さくなるわけですから、全く同じゲームソフトでも売れなくなってしまってお金が稼げなくなってしまうわけです。
じゃあ逆に、可能な限り安くゲームソフトを発売すれば飛ぶように売れてお金ガッポガッポ稼げるようになるのでしょうか?
実はこれも違います。
たしかに、ポケットモンスターのゲームが1本100円だったとすると、きっと6,000円では買わなかった人も買いに行くでしょう。 たくさんの本数が売れるのでお金になりそうですが、1本100円ではものすごい数を売らないといけないのでなかなか儲(もう)かりません。
6,000円売り上げを手にいれるために、ゲームソフトの値段が6,000円なら1本売れればOKです。 しかし、ゲームソフトの値段を100円まで下げた60本も売らないといけません。
値段を下げた分、売れやすくはなっているでしょうが値段を下げる前と同じだけお金を稼ぐには量をこなさなければいけません。
しかし、値段を下げれば下げるほど売れやすくなるのはイメージしやすいですね。 もちろん、値段を下げることが悪いわけではありません。 例えばダイソーのような100円ショップは値段を下げて買いやすくした分、たくさん買ってもらうことで高い品物を売る他の会社と戦っています。
「まぁでも、値段を下げれば欲しい人が増えて需要が高まって、売れまくるんだから、やっぱり値段を下げればいいんじゃね?」という考えは間違いでは無いです。
ところが、売れまくるとまた困ったことが発生します。
それは、供給が追いつかなくなることです。
供給とは、注文があればいつでも販売できる状態の商品を用意することです。 ウルトラスーパー簡単に言うと「在庫あります!」って状態のことです。
私たちはモノを買って使う立場である消費者なので、基本的には商品たちがきちんといつでもそろっている状態を目にすることの方が多いです。 ただ、ごくたまに供給が追いついていない、つまり「ごめんなさい!売り切れです!」って状況を経験することがあります。
供給が追いつかなくなるのは、大体が社会的ブームになった時です。
最近ですと、Nintendo SwitchやPlaystation VRなどが供給不足におちいりました。 ゲーム機本体のような、その時の世界最先端の技術を持った商品は生産するのにどうしても時間がかかってしまいます。
なのでニュースなどで発売前に情報が流れることで、欲しい人が増えまくるとどうしても商品が足りなくなりがちです。
商売の基本である「売れるものを、売れる値段で売る」って意外と難しいんですね。
需要や供給の関係で、「いくらで売れば良いのか」を決めるのがとっても難しいのです。
需要と供給の関係
先ほど学んだ、需要という買う側の「欲しい」感情と、供給という売る側の「在庫あるから売れるよ」という状態はお互いに強い関係があります。
需要と供給の関係を場合分けして整理しましょう。
需要>供給
需要>供給という状況は、欲しい人がたくさんいるのに商品が足りない状況です。
この状況になると、売り切れや品薄になります。 数に限りのある商品に対して、みんなが欲しい欲しいと集まってきてしまうからです。
するとどうなるかと言うと「多少値段が高くてもいい、お金は出すから私に売ってくれ!』という買いたい人が出てきます。
売る側も、供給が足りてなくて在庫が少なくて貴重なわけですから、少しでも高く売りたいので値段が高くても買ってくれる人に売ります。
するとどんどん値段が上がっていきます。
つまり、 需要>供給=値段up↑↑↑ です。
需要<供給
需要<供給という状況は、欲しい人は少ないのに商品がたくさん余っている状況です。
この状況になると、商品は売れ残ります。 いくらでも売るための在庫はあるのに対して、みんなが欲しがらなくて誰も買いに来ないからです。
するとどうなるかと言うと「めっちゃ安くするから、誰か買ってくれ~!」という売りたい人が出てきます。
在庫は場所も取るし、お店の売る側の人も売らないと商品もお金になってくれません。 ただ在庫を持っているだけでは0円だし、もしも保管している倉庫や家が火事にでもなって燃えてしまったら大損です。
なので多少安くしてでも売ってしまいたい人が出てくるわけです。
するとどんどん値段が下がっていきます。
つまり、 需要<供給=値段down↓↓↓です。
需要=供給
需要=供給という状況は、欲しいと思う人の数ぶん商品が世の中に出回っている状況です。
欲しい人は余計に高いお金を払う必要もなければ、売りたい人も安売りしなくても在庫を仕入れれば売れていく、いわば理想の状況です。
ではどうすればこの理想の状況になるのでしょうか。
アダム=スミスは売買がおこなわれている市場を研究し、観察しつづけているうちにあることに気づきました。
需要>供給で、商品が足りなくて値段が高くなっていても、次第に会社や工場の供給が追いつき、だんだんと値段が下がっていき、需要=供給の状態になる。
需要<供給で、商品が余っていて値段が安くなっていても、儲かりにくい商品を作る会社や工場が減っていき供給量を減ることで安売りする必要がなくなり、だんだん値段が上がっていき、需要=供給の状態になる。
結局、市場がどんな状況でも最終的には需要=供給に落ち着くというわけです。
アダム=スミスは人間が一切関わることなく、市場・需要・供給たちに人間がコントロールされてモノの値段が自動で決まっていく状況を「見えざる手に操られている」と表現しました。
人間がコントロールされている現象であることから少し神格化されて「神の見えざる手」と呼ばれています。
2010年代最大の需要と供給のバランス崩壊
最近10年間で需要と供給が大きくゆれ動いたのは妖怪ウォッチだと思います。 ちょうど2019年に中学生の学生さんですとドストライク世代ではないでしょうか?
今でこそ少しブームは落ち着きましたが、社会現象になっていた当時は妖怪ウォッチのアニメやゲームを一切触れたことのない人でもジバニャンは知っているほどの人気でした。
グッズは売れまくり、ジバニャンのメダルはなかなか手に入らず、十数万円の値段がついてネットオークションで売っていました。 完全に需要>供給の状態です。
この妖怪ウォッチも、のちにブームが落ち着いて行き見えざる手によって需要=供給に戻りました。
妖怪ウォッチほど大きく需要と供給がゆれ動くのはめずらしいですが、小さいものなら毎年のようにちょくちょく発生しています。
最近はタピオカブームですが、もしこのブームが終わることがあれば、お店の数(供給)はどうなるかな?など周りを見てみると面白いかもしれませんね。