コラム

法律用語『平等権』

2021年2月18日

伊藤かずま

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国際行政書士(第21190957号)
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2019年の4月、それまでネットのごく一部でのみ使われていた、とある言葉がネットの世界を飛び出し日本中を駆け巡りました。

のちに社会問題へと発展し、なんと流行語大賞の候補にまでなってしまいました。

その言葉というのが「上級国民」です。
この言葉がなぜ物議を呼んだのでしょうか?

物議に発展した原因は「日本国憲法が私たちに保証しているはずの平等が、実は裏では守られていないのではないか…?」という疑念でした。

今回は日本国憲法が私たちに保証している平等権について、「上級国民」問題とともに見ていきましょう。

平等権

日本国民は平等権を全員が持っています。

平等権とは、すべての人が自由・義務に対して等しく扱われる権利のことです。

つまり、どんな人も特別扱いされないってことです。

校長先生は偉いから腹が立ったらクラス担任の先生を殴ってもOK、なんて特別扱いは日本では許しません。

あの家族はお金持ちだから、電車やバスをタダで乗れるよ!なんてこともありません。

私たちは日本で暮らす以上は差別されることはありません。

これは当たり前に感じると思います。

みなさんの周りを見渡してみるとわかりますが、今の日本には周りに貴族と呼ばれる人はいないし、奴隷もいないと思います。

その当たり前は、みんなが知らず知らずのうちに平等権を持っているからです。

法の下の平等

ただ平等権を持っているだけで、みんながみんな平和で平等な世界になればそれに越したことはありません。

ところが、ただ権利を持っているだけでは大抵の場合は国家権力という巨大な権利に押しつぶされてしまいます。

国家権力が持っている立法権・行政権・司法権に対して、ただ1人の人間が持つ平等権はとてもか弱い権利なのです。

平等権と同じく、人間が生まれ持っている権利に「人権」というものもありましたね。

人権もマグナ・カルタが誕生する前までは国王の持つ権力によって握りつぶされていた歴史があります。

(マグナ・カルタ誕生後も、マグナ・カルタを無視する国王が現れ、本当に人権が認められるのは数百年後でした…。)

なんらかの方法で平等権を守ってあげなければ、平等権は無いも同然になってしまいます。

そこで日本は、日本国民の平等権を守るために日本国憲法に「平等権を認め、保証する」内容を盛り込みました。

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

日本国憲法 14条

このたった一文のおかげで、私たちは日本で生活するかぎり、差別されて奴隷にされたりすることもなく、平等に暮らしていけるのです。

言葉・文字のチカラってすごいですよね。

さて、このように憲法や法律のチカラを使って平等権を守り、国民の平等を実現することを法の下の平等と言います。

とても大切な概念なので憶えておきましょう。

いるはずのない上級国民

日本国憲法が法の下の平等として、差別することを禁止していることは、先ほど確認しましたね。

差別することを禁止ということは、逆に誰かを特別扱いすることも、もちろん禁止です。

ところが、この「法の下の平等」に日本国民が疑問を抱く事件が発生したのです。

2019年の4月に自動車が歩行者に突っ込み、十数人死傷させる悲しい事故が起こりました。

普通であればこれだけの事故を起こしてしまえば、運転手は即逮捕です。

ところが、なぜか警察はこの事件を起こした運転手を逮捕しませんでした。

それどころか、運転手の自宅周りを警察がパトロールを行なって、警備している素振りすら見られました。

さらに、ニュースでこの運転手は「~さん」と、さん付けで報道されました。

これは異例中の異例です。

ニュースで事件・事故を起こした人は◯◯容疑者と呼ばれるのが普通です。 みなさんもそんなにニュースを見なくても容疑者と呼ばれているのは聞いたことあると思います。

人を十数人死傷させて、逮捕されず・警察が身の回りを警護し・さん付けで呼ばれた、この運転手に国民は疑問を抱きました。

なぜこんな特別扱いなのでしょうか? 国民が疑問に思ったところでひとつの事実が判明します。

それは、この事故を起こした運転手の方は過去に日本の発展に貢献をしたとして、天皇から表彰されて「勲章」を持っていたという事実です。

特別扱いのような扱いや報道に対し、この勲章を持っていた事実の判明が火に油を注ぐかたちとなり、日本中で運転手に対してバッシングが巻き起こりました。

勲章を持っており、特別扱いを受ける運転手はまるで特権階級の貴族のようでした。

この突然現代に現れた貴族のような運転手に対し、それまでネットの世界でネタで使われていた「上級国民」という単語があだ名として与えられました。

前述したとおり、日本国憲法により国民は全員平等です。 なので国民に上級も下級もないのです。

一応、警察は運転手を逮捕しなかった理由を「運転手がケガをして入院し、逃亡や証拠を隠す心配がなかったから」と説明しています。

ところが、ほぼ同時期起きた京都アニメーション放火事件を起こした男も大ヤケドを負って事件後入院しました。

彼も逃亡や証拠隠蔽のおそれはなかったので入院中は逮捕されませんでしたが、ニュースは逮捕前から「容疑者」と報道していたのも事実です。

この差をみなさんはどのように考えますか?

今回はたまたま、勲章を持っているということ、警察の言う通りの事情があったことが重なり、特別扱いのように見えてしまったのかもしれません。

しかし、私たち国民は毎日マジメに法律を守って生きているのです。

なので国もしっかり憲法を守り、実は裏で誰かを特別扱いして憲法違反してました…なんてことは無いようにして欲しいですし信じたいですよね。

憲法の改正案は「法の下の平等」を無くそうとしてる?

この「上級国民」がちょっとしたブームだった2019年は、当時の安倍内閣が初の憲法改正をしようとアピールしていた年でもありました。

改憲賛成の国会議員の数がそろわなかったので、安倍内閣の憲法改正は実現せずに終わりそうです。

…ところで、みなさん安倍内閣が新しく変えようとしていた憲法の案は見たことありますか?

私は新しい憲法案を読んでみて、「んん?! なんで?」って強く思う変更点がありました。

ちょっと一緒に見てみましょう。

栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。 栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

日本国憲法 第14条 3項

さっきの上級国民事件でも話題になった、表彰され天皇から勲章をもらった人に関連する記述ですね。

現在の日本国憲法は、「勲章を持っていても、どんな特別扱いもしない。」としっかり書いてありますね。

では、当時の安倍内閣が新しく変えようとしていた憲法案を見てみましょう。

安倍内閣の新しい憲法案 第14条 3項

栄誉、勲章その他の栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

新しい憲法草案 第14条 3項

あれ?って思いませんか?

(勲章を持っていても)いかなる特権も伴わないが無くなっています

私は「いかなる特権も伴わない」を消す必要性を感じません。

記述が無くなっただけで、「特権を与える」とは書いて無いからいいんじゃね?と考えるのも問題があります。

なぜなら、特権を与えるとは書いてはいないけど、特権を与えても良いという風にも読める文になってしまうからです。

勲章などは天皇から授与されますが、これは天皇の国事行為なので、実際に誰に勲章を与えるかは内閣が選びます。

もし、前述の上級国民ではありませんが、勲章を持っていると逮捕されないなんて特権が作られ、新しい憲法案が採用されたとします。

すると、何をしても逮捕されない人を自由に内閣は指名することができてしまいます。

ここまで言うとかなり話は飛躍していますが、可能性はゼロではなくなる憲法案だと言うことです。

新しい憲法案は法の下の平等をおびやかしかねない内容だと感じます。

みなさんはどう思いますか?

いつか、きっと憲法を改正しようと国民投票を行う日が本当に来ると思います。

その時に、「なんか古臭い憲法より、新しい方がいいじゃん!」って選ぶのは危険です。

一度は憲法案に自分の目を通してみて、自分自身で変えるべきかどうか考えてみて欲しいなと思います。

日本国憲法は私たちの自由・権利・平和を70年近く守り続けてくれている大切なものです。

憲法を守り、より良くしていくのは私たちの義務でもあり権利でもあるのです。

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