コラム

公共の福祉 -自由制御のカギ-

2021年2月20日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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初学者&独学&4ヶ月&一発合格(202点)で行政書士試験に合格しました。
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現代日本における自由

2021年の時点で、日本というひとつの国に約1億2500万人が暮らしています。

日本国憲法という憲法は日本国民全員に平等なルールです。 なので、憲法が守っている権利も日本国民の数だけ存在します。

日本国憲法は権利をたくさん守ってくれている存在です。 たったひとりの国民に対しても、数え切れないほどの自由という権利を守っています。

例えば…、

海外旅行に行くのも自由、将来YouTuberだろうが何だろうがどんな仕事をしても自由、どこに住むのも自由、海外へ移住するのも自由、頭の中なら何を考えても自由、どんな宗教に入っても自由、将来どんなことを勉強しても自由、奴隷のような拘束をされない自由、証拠などが無い場合に不当に逮捕されない自由、自分の財産を好きに使って良い自由、他人から理由なく拘束されない自由、言いたく無いことは黙秘できる自由、LINEなどのやりとりの内容を見られない自由、意見を好きに発言できる自由、TicktokやTwitterで好きなことを発信できる自由、好きな音楽を聴く自由、好きな映画を観る自由、自分が考えたことを発言する自由…。

以上のように私たちは数え切れないほどの自由がまだまだいくらでも保証されています。

私たちは生まれてから今までこれらの自由に囲まれながら生活してきています。

なので、これらの自由は当たり前になっていてその恩恵を感じることはなかなか無いでしょう。

自由であることが当たり前に感じるくらいに、日本国憲法が私たちの自由を尊重し守っているからです。

「~してはいけない」という自由の制限は、人間の持つ可能性をつぶしてしまう可能性があります。

過去の歴史の反省から、日本はできる限りの自由を国民に与えることにしたのです。

侵食する自由

ところで、たったひとりの国民をとっても数え切れない自由が存在し、その国民が1億2500万人もいると少し困ったことが起こってしまいます。

「自由」が他人の権利を侵害して迷惑をかけてしまうのです。

例えば、私たちは思ったことや考えたことを言葉として発信する自由を持っています。

その自由である権利を行使して、あなたがTwitterで嫌いな人の名前を出してけちょんけちょんに悪いところをけなして罵倒しまくる、周りがドン引きするくらいのツイートをしたとします。

「あいつムカつく、カス・ゴミ・クズ…」みたいな感じですね。

この場合、ツイートしたあなたは、ただ単純に表現の自由を行使しただけです。 与えられた自由を使っただけです。

でも、けなされた側の人がそのツイートを見たら深く傷つき、メンタルクラッシャーされてしまうでしょう。

他人を言葉で傷つけてしまうことは、実際に殴ったり蹴ったりするのとなんら変わらない、暴力と同じものです。

この場合、けなされた人は「人から傷つけられない」という権利を侵害されたことになります。

他にも、私たちは自由に歌う権利を持っています。 基本的にいつでもどこでも歌を歌って良いのです。

でも、真夜中の3時に窓を開けてベランダで大声で歌っていたら、そのうち警察が来るでしょう。

これも自由があるからといって自由に行動した結果、他人の「静かに平穏に暮らす」という権利を侵害したわけです。

このように、「自由」というのは少し困ったやつなのです。

守ってあげるべき存在なのに、守りすぎると他人の権利を侵食しはじめてしまうんです。

そこで、日本国憲法は次の方針で自由をコントロールすることにしました。

日本国憲法は「国民は無制限な自由権を持っていること」は大前提として認めます

ただ全面的に自由を認める一方で、他人の権利を侵害する場合には自由権を制限することにしました

「他人の権利を侵害」と言うと堅苦しいですが、「他の人の迷惑になるようなことをする」ということです。

要する、日本国憲法は「他人の迷惑になる行為は、自由ではなくただの迷惑だから禁止」としたわけです。

逆を言えば、他人の迷惑にならないことなら、なんに対しても日本国憲法は自由を守ってくれています。

自由を制御するために超えなければいけない2つのカベ

「原則自由だけど、他人の迷惑になることは制限をかける」ってとてもシンプルな方針です。

この日本国憲法の方針を聞いて、「うーん…意味不明っ!」って人はそんなにいないと思います。

ところが、方針はシンプルなのですが、実際に運用しようとすると簡単そうに見えて、実はかなり難しいのです。

この方針で自由を制御するには、次の2つのカベを越えなければいけませんでした。

  1. どのくらい自由を認め、どこから制限するのか
  2. 現代にはまだ無い、未来に新しく誕生する「自由」と「迷惑」はどうするのか

これだけだとわかりにくいので、細かく見てみましょう。

どのくらい自由を認め、どこから制限するのか

まず次のことを、絶対頭に入れておいてください。

日本国憲法は、国民の自由を守るルールです

この日本国憲法の大前提は、日本という国が滅ぶまでずっと変わりません。

日本国憲法は本当は、私たち国民の自由を守りたくて守りたくてしょうがないのです。

ところが自由というのはやんちゃなので、守りすぎると他人の権利に迷惑をかけてしまうのです。

なので日本国憲法は、しかたなく自由に対して制限をかけるという立場です。

日本国憲法の大前提と立場を加味すると、かけるべき制限は可能なかぎり少なくしなければいけません

ここの調整が非常に難しいのです。

制限をゆるくしすぎると、自由すぎて他人に迷惑をかける確率が高くなります。

逆に制限がキツすぎると、日本国憲法の方針と合わなくなります。 さらに、制限がキツいと国家権力に憲法を悪用される可能性が出てきます。

そのため、自由を制限するにしても、どの程度制限するのかが難しいのです。

現代にはまだ無い、未来に新しく誕生する「自由」と「迷惑」はどうするのか

日本国憲法は2021年で約70歳の憲法です。

憲法の内容は国民投票で書き換えることができます。 しかし日本国憲法はその内容の変更は非常に厳しい条件なので今まで一度も書き換えられていません。

つまり、日本国憲法は70年前に生まれたままの内容なわけです。

憲法は変わらないですが、時代は進化を続けています。

すると時代の流れにともなって、憲法が想定していなかった「自由」と「迷惑」が新しく発生することが考えられます。

例えば、70年前はスマホは当然のこと、インターネットも無い時代でした。 ネット掲示板への悪口の書き込みなど誰も想像もできない時代です。

するとここに「ネット掲示板へ書きたいことを書く自由」と「自分の悪口をネット掲示板に書き込まれる迷惑」が発生します。

70年も前にこの新しい自由と迷惑を予想して憲法に書いておくなんて不可能です。

みなさんは今から70年後にどんな世の中になっているか想像できますでしょうか? 無理だと思います。

つまり、憲法の内容を書き換える必要なく、未来に新しく登場する自由と権利を守る必要があるのです。

自由を制御するカギ 公共の福祉

見てきたとおり、

  1. 「自由」をゆるすぎず・キツすぎずにちょうど良く制限する
  2.  未来の新しい「自由」と「迷惑(=その自由と衝突する他人の権利)」を保護する

という2つのカベをクリアする必要がありました。

あなたなら、このカベたちをこれから先、憲法を書き換えることなくクリアするにはどうしますか?

日本国憲法はこの2つのカベをクリアするために、「公共の福祉」という言葉を使いました。

この公共の福祉というのが、自由を制御するカギです。

ところで「公共の福祉」ってあまり聞かない言葉ですよね。

それもそのはず、なんと「公共の福祉」は日本国憲法が作ったオリジナルの言葉です。

 日本国憲法は、自由を制御する専用の言葉を作ることで2つのカベを突破することにしました。

「公共の福祉」とは、「未来も含めた、その時・その時代の日本社会全体としての利益」と考えてください。

憲法内に「これ以上はNG」と明確な記載をするのではなく、「主張した自由・権利が、公共の福祉(=日本社会全体としての利益)を侵害する場合はNG」というかたちで可変的な区切り表記とすることにしたのです。

これによって、事象を問わず、他人の迷惑にならない範囲なら自由を広く認めつつ、もし「自由」が他人の権利を侵害した場合は、公共の福祉の基準に則り救済される、というバランスの取れた制御が可能になりました。

まとめ

今この瞬間も、私たちが(他人の迷惑にさえならなければ)広く様々な自由が認められているのも、公共の福祉という見えないけど確実に存在する自由制御のカギが活躍してくれているからなんですね。

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