第65条 行政権は内閣に属する
日本国憲法
日本国憲法内の上の非常にシンプルな一文により、三権分立した立法権・行政権・司法権のうち行政権は内閣に与えられています。
今回は内閣が何をしていて、どんな人が働いているのかを見ていきましょう。
行政権とは
行政権とは、行政を行う権力です。
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「は? 説明になってないやんけ。」と感じたと思います。
なぜこんな説明になってしまうかと言いますと、実は行政権はあまりに権力が及ぶ範囲が広いので、その定義がとても難しいのです。
行政書士の範囲では、行政権とは政治や行政を行う権力とざっくりイメージしておく程度でOKかと思います。
または「立法権と司法権以外の残った全ての権力」という認識でもOKです。
では行政権という権力を任されている内閣という組織がどのような組織で、どのような人が働いているか見てみましょう。
内閣=大臣ズ
内閣という組織は行政に関わる全てのことを行う権利・権力を持っています。
その内閣という組織は最大定員15人の大臣と呼ばれる人たちで構成されています。(実際は15人から3人ほど増えることもあります)
15人の定員のうち、1人がリーダーで内閣総理大臣と言います。 内閣総理大臣はニュースでもよく聞きますね、日本のTop of the Topで日本の代表を務め、国務大臣たちを取りまとめます。
残りの(最大)14名が国務大臣と呼ばれる人たちです。 国務大臣たちは防衛大臣・環境大臣・厚生労働大臣など、それぞれの担当分野を任されて自分が担当の範囲の国政を担当します。
全員が○○大臣と名前がついているので、内閣は複数形のsをつけて大臣s = 大臣ズ。
すなわち大臣たちが集まった組織と憶えておきましょう。
ここで大臣たちの選ばれ方をまとめておきましょう。
内閣総理大臣は国会議員内での選挙で選ばれて、天皇が正式に任命します。
国務大臣は内閣総理大臣が選んで、内閣総理大臣自身が正式に任命します。
まず最初にリーダーの内閣総理大臣が選ばれます。
その後、内閣総理大臣が自分が一緒に仕事をしたい人・仕事を任せられる人を国務大臣に任命します。
この時、国務大臣の半分以上は国会議員の中から選ばないといけないというルールがありますので憶えておきましょう。
つまり国会議員にはなれなくても、内閣総理大臣から任命さえされれば一般人でも大臣になることができるのです。
内閣総理大臣が国務大臣を選んで「私の内閣はこのメンバーでやりますよー!」と発表するとニュースで「内閣改造」「新内閣」と言ったフレーズが飛び交います。 その時は「日本のリーダーたちはこんな人たちなんだなー」って目線で見てみると面白いかもしれません。
半分以上は国会議員の中から国務大臣を選ぶという縛り以外は、内閣総理大臣は自由に国務大臣を任命できます。 しかし実際は自分を内閣総理大臣にするために協力してくれた方などからお礼をする形で任命することが多いです。
国の実質的な支配者でもある大臣という立場は全ての国会議員の目標でもあり、とっても魅力的なポストですからね。
その結果、選ばれた国務大臣が得意じゃない分野を任されたりしてミスマッチが起きてしまったりします。 国務大臣が自分の長所を発揮できないポジションを任されるのは、国民にとっても国務大臣本人にとっても大きな損失なのでしっかりとした人選をしてほしいですね。
議院内閣制と大統領制
さっきの書いたとおり、内閣総理大臣は国会議員の中から投票で選ばれます。
全国民の1億2500万人の中から国民投票で国会議員713名が選ばれ、さらに国会議員713名の中で国会議員同士で投票を行った結果、国会議員の中からたった1名が内閣総理大臣(首相)になるのです。
内閣総理大臣になるには、まず国会議員になる必要があるんですね。
このように、国会議員の中から国のトップである内閣総理大臣(首相)を選ぶ方法を議院内閣制と言います。
※内閣総理大臣・総理・首相の違い 実はどれも全く同じ意味で使い分けにそんなに気を使わなくてOKです。
一方で、全国民の1億2500万人の中から国民投票で一気に国のトップを選ぶ方法を大統領制と言います。 アメリカなどが採用している方法ですね。
議院内閣制・大統領制の違いは「国のトップをどの様に選ぶかの違い」なんですね。
日本は今まで見てきたとおり、議院内閣制を採用しています。 なので、ごくたまーーーに勘違いしている人がいますが、日本に大統領はいません。 間違えない様にしましょうね。
なぜ日本は議院内閣制なのか
日本が議院内閣制を採用する理由をちょっと見てみましょう。
まず大前提として一ヶ所に集めると暴走を始める権力をコントロールするために三権分立で権力を立法権・行政権・司法権に分けたのでした。
そして、分割した権力をそれぞれ立法権→国会・行政権→内閣・司法権→裁判所と別の3つの機関に割り当てたのですね。
ところで、内閣という組織は内閣総理大臣と半分以上の国務大臣は国会議員から選ぶのでした。 国会議員は立法権の国会という組織で働く人ですよね。
少し違和感を感じないでしょうか。
分割した権力を近づけると暴走を始めるからできるだけ離したいのに、内閣の組織の半分以上の人は国会の組織の人なわけです。 組織の距離が近すぎないか…?と感じるかもしれません。
実は...、実際に距離は近いです。
政治というのは、国会がルールを作って内閣が新しいルールを実際に運営するという流れで行われます。 なので政治を行う上で、国会と内閣は仲良く連携する必要があるのです。
しかし、国会と内閣に組織を分けないと権力が暴走してしまいます。 国会と内閣は、連携するためにお互いにより添いあわなきゃいけないのに、より添いあいすぎると権力が暴走してしまう…。
政治を行う世界にはそんなジレンマがあるのです。
そんなジレンマを改善するのが、少し前に説明した議院内閣制です。
内閣という組織のリーダーである内閣総理大臣は国会議員から選ばれるんでしたね。
これは国会が「国会議員であるあなたを信用して内閣のリーダーとして選出します。 その代わり、私たちの期待を裏切らないでくださいね。 約束です。」という約束を、選ばれた内閣総理大臣とかわして内閣という組織を作ることを意味します。
つまり、「国会は信用した人を内閣総理大臣に選び、内閣総理大臣は信用してくれた国会の期待を裏切らない様に内閣を運営する」という信頼関係を国会と内閣は約束しているのです。
ところが、みなさんも経験あるかもしれませんが信頼していても約束を破られたり、裏切られたりするものです。
国会と内閣も、ただの口約束だけでは不安定な信頼関係です。 そこで、内閣は選んでくれた国会に対して連帯責任を負うことが憲法で決められています。
その連帯責任とは、国会が「あかん、今の内閣は全然期待に応えられてないわ。 今の内閣はいったん潰すわ」として内閣不信任決議という決定をすることができます。
内閣不信任決議は、内閣を無かったこととして解散させることが出来ます。 つまり内閣で大臣している人たちはいきなりクビです。 非常に恐ろしい国会の決定です。
「え? じゃあ、内閣の態度が気に入らなかったらいつでも内閣を潰せるの? 無敵じゃん。」と思うかもしれませんが、そうはいきません。
内閣不信任決議が出されて、クビが決定した内閣の大臣たちは10日以内に次のどちらかを選ばないといけません。
- 総辞職して、おとなしく大臣を辞める
- 衆議院を解散して、衆議院議員465名全員をクビにする
1.はおとなしく国会の決定に従って大臣たちが全員仕事を辞めることです。
2.は「あぁ? お前らが俺たちに内閣任せるって言ったくせに勝手にクビにしてんじゃねーよ。 お前らも責任とって辞めろよ」として衆議院議員全員をクビにできます。
すなわち、国会はやろうと思えばいつでも内閣不信任決議で内閣の大臣たちをクビにできます。
しかし、内閣総理大臣を選んだのは国会自身です。 その責任として、もし国会が内閣不信任決議を出せば、自分たちも国会議員をクビになる可能性が高いのです。
自分も国会議員を辞めなければいけないかもしれない…、そんなリスクを覚悟で出すのが内閣不信任決議です。
つまり、内閣不信任決議が出されるということは、国会が自分たちがクビになってもいいから内閣を止めるべきと判断しブチ切れている状況です。
内閣は国会から出されにくとはいえ、内閣不信任決議が決まったら100%クビが決定です。
なので内閣はいつクビになってもおかしくないリスクを抱えていることから、持っている権力を使って横暴をしにくいんですね。
つまり内閣不信任決議とは、国会と内閣が仲良く連携しつつもお互いが暴走しない様に見張り合い、信頼関係を維持するための仕組みです。
この様にして内閣は、国会の信任に基づいて成立し、国会に対して連帯責任を負う仕組みを持っています。 連帯責任は内閣不信任決議によって実現しているのです。
この様にして、国会と内閣は連携すべきところは連携し、権力を分割するべきところはお互いにけん制しあって三権分立を行なっているんですね。