民法の物権範囲の,不動産と動産自体の定義はなんとなくわかります。
でも,不動産か動産かで色々ルールが違うんだけどなんで? 横断理解したいな...
本記事は,上記のような,民法における動産と不動産の違いに起因する各制度について,解説しています。
記事の信頼性
本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログ管理人の伊藤かずまが記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。
参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
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読者さんへの前置き
※赤文字は,行政書士・宅建・公務員試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方です
※太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています
結論:不動産vs動産の違いの根本は資産的価値の差
不動産とは,土地とその定着物のことです。(建物は土地とは別の不動産)
動産とは,不動産以外のもののことです。
民法は,物権において,対象物が不動産か動産かでルールを大きく区別する構成を取っています。 具体的には,以下のような差があります。
不動産・動産の住み分けを,しっかり押さえておくと,民法の物権分野の見通しがとても良くなります。
解説:不動産は高価・動産は安価
物の資産的価値・経済的価値
ダイヤモンドや歴史的絵画などの例外はあるものの,原則として,資産価値において不動産は高価,動産は安価です。
ここでいう高価・安価は,単純に物の値段の高い安いである資産的価値のみではなく,経済的価値をも含みます。
経済的価値とは,物を使用することで人が満足する・欲望を満たす価値のことです。
動産である本やパソコンも有れば生活が便利になりますので,経済的価値をもちろん有してます。
対する不動産の土地や建物の経済的価値は,動産に比べ,非常に高いものです。
建物は人が住むことで生活拠点にすることができます。 土地であれば,家・マンションを建てることで,多くの人の生活拠点を創造することができます。
それだけでなく,土地を,コインパーキング・駐車場としたり,農地にして人々の食生活を支える農作物を栽培するなど出来るため,土地は利用価値が非常に高いものなのです。
したがって,土地を利用不可能な状態にしておくことは,社会経済的に非常に不利益をもたらします。
そこで,民法は,不動産を誰も利用できないような状況にならないように配慮しています。
例えば,動産質では質権の要件に占有継続を課し(民法342条),所有者の承諾が無ければ質物を使用・賃貸・担保に供するなどすることができません。(民法350条,民法298条)
対する不動産質は,不動産質権者は質物である不動産を使用及び収益することができます。(民法356条)
つまり,質権では,質物が動産なのか不動産なのかで,その質物を質権者が自由に使ってよいか否かについて,全く逆のルールで規定しているのです。
これは前述のとおり,不動産の経済的価値に着目し,不動産を遊休状態になることを回避するためです。
さらに,物の価値が不動産では非常に高く,動産では低い傾向にある以上の実態から,以下の要請が導かれます。
- 不動産取引:取引物が高価であることから,取引の安全保護の要請が強い
- 動産取引:取引物が安価であることが多いため,取引の安全保護の要請を弱めてもよい
取引の頻度
読者の皆様は,今までの人生で,土地やマイホームなどの不動産を何回購入しましたでしょうか?
おそらく,ほとんどの方がすぐに数えられる程度の回数かと思います。
不動産は動産と比して,高価であるため,ホイホイと買えるものではありませんので当然です。
対する動産はどうでしょうか?
読者の皆様は今までの人生で,コンビニで買い物を何回されたか答えられますでしょうか?
絶対に答えられないと思います。
ここにスーパーやユニクロ,スタバに行った回数を含めて…となると,それは途方もない回数になると思います。
コンビニ・スーパー・ユニクロ・スタバ…どれも動産を販売するお店です。 これらの店舗で購入をするということは,動産取引をするということです。
以上の例示は,動産を購入する機会の,ごくごく一部です。 このように,動産取引はかなりの頻度発生するものなのです。
ここまで見てきたとおり,不動産の取引頻度は少なく,動産の取引頻度は非常に多いという,社会の実情が存在します。
ここに,前述の,資産的価値の高低と,取引の安全保護要請の強弱の傾向を加味し,民法は以下のように設計されています。
- 不動産取引:取引する物の価値が非常に高価であり,取引頻度は低いため,多少めんどうな手続きを当事者に課してでも,取引の安全の保護を優先する
- 動産取引:取引する物の価値が安価傾向にあり,取引頻度は高いため,簡易的な手続きで有効に取引が成立するようにして,取引の利便性を優先する
これらは,後述の登記制度・即時取得制度の話につながります。
登記制度と即時取得制度
ここまで見てきたとおり,不動産と動産の資産的価値の差から,取引の安全・利便性のどちらを優先するかの違いが設けられているのでした。
これらは,不動産取引には登記制度を採用し,動産取引には即時取得制度を採用することで,実社会上で表現されています。
登記制度とは,自分の所有する不動産が自分の物のであると証明するには,登記に登録することを必要とする制度です。
また,登記に記載されている所有者を漫然と信じて不動産を購入しても,真実の所有者が別にいれば,所有権を有効に取得できません。
このような制度設計により,不動産の取引をするときは,めんどうですが,登記の登録を経つつ,登記だけを信じずに,ちゃんと真実の所有者を調べた上で取引を行うことを課して,取引の安全の保護を実現しています。
対する動産取引は,即時取得制度が採用されています。
即時取得とは,動産を保有している人の外観を見て過失なく所有者だと信じて取引して動産を手に入れた場合,有効に所有権を取得する制度です。
即時取得は,登記制度に比べ,『動産を保有している外観を信じた』というだけで,たとえ相手が真実の所有者でなかったとしても,有効に所有権を取得できます。
すなわち,取引の相手方が真の所有者であることが,何かしらの(登記のような)書面で証明がされていなくてもOKなので,スムーズな取引が実社会上で実現されています。
コンビニの棚に陳列されている物が,本当にコンビニがちゃんと仕入れた物かどうか,確認したことや,掲示されていたなんて経験はありませんよね?
私たちは,無意識のうちに,即時取得制度の成立を前提として生活しているのです。
まとめ
以上をまとめると,以下のような関係になります。
全てのスタートは,不動産が高価であること,動産は比較的安価であることでした。
民法のルールは,私たちが快適に生活を送れるようにすることを目的として,設計されています。
テキストを読んでいると,ついつい勉強の概念として『登記』や『即時取得』や『物権』をとらえてしまいます。
そうではなく,それぞれの概念や条文は,全て実生活上の要請から設計されていることを理解し,知識を頭の中で整理していきましょう。
参考文献など
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