今回は民法85条を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
この法律において「物」とは、有体物をいう。
民法 第85条【定義】
条文の性格
「人間とは何か?」
「愛とは何か?」
「正義とは何か?」
以上のような問いに答えを探す人を現代では哲学者と言います。
この民法85条は「物(ブツ)とは何か?」というものを考え、民法界にその答えを定めた、いわば哲学者的な性格を持ちます。
ただ、85条はその答えを条文にシンプルに書きすぎたため、少し人間によるプラスアルファの解釈が必要となりました。
数学者のフェルマーが、余白が足りないから答えを書かなかったですが、民法85条はフェルマーをリスペクトしていたのかもしれませんね。
ここでは、85条が「物とは何か?」に見つけた答えと、それに対する人間の解釈を見ていきましょう。
条文の能力
物とは何か
85条が言っているとおり、民法において物とは有体物のことを言います。
有体物とは気体・液体・個体のことと考えて頂ければOKです。
みなさんが持っているスマホや服、ジュース全てが物です。
気体・液体・個体ではないもの
電気は気体・液体・個体のどれでしょうか?
実は電気は気体・液体・個体のどれでもありません。
ちょっと理科っぽくなりますが、電子というものが動くことで生まれるものが電気です。 つまり、電気は電子の動きのことなので気体・液体・個体のいずれでもありません。
その他には、熱や光のエネルギーも気体・液体・個体ではありません。
なぜ物を定義するのか
なぜわざわざこれは物、これは物では無いと85条は定めているのでしょうか?
民法は、権利や義務のルールを定めている法律ですが、その中で民法は物に対する権利である物権を認めているからです。
法律の勉強をしたことがない人でもほぼ大多数の人が知っている有名な物権は所有権でしょう。
「コレは私のだから触るな」とか「私のコレあげる」など、自由に使ったり・譲渡したり・貸したりできる物権が所有権です。
そして、『コレ』になることができるのが物すなわち有体物です。
つまり、85条が物は何なのか考え、その範囲を有体物と定義しているのは、私たち人間の物権(所有権など)の範囲を明確にするためです。
人間の解釈
電気などの有体物で無い場合
85条が物の範囲を有体物と定義し、めでたしめでたしかと思えばそうではありませんでした。
前述の通り、電気は気体・液体・個体のいずれでもありません。
では民法の世界において、電気は有体物ではないので物ではないとして良いでしょうか?
もし仮に、電気は有体物では無いので物ではなく、所有権の対象にはならないとしたとしましょう。
そうすると盗まれることに対して所有権で防御することができないので、目の前で我が家の電気メーターに機械を繋がれて電気を盗まれていても、「おいおい何してるんだ!やめろ!」と言ってやまさせることができません。
そこで電気(や熱や光など)のエネルギーは、誰のものとわかる形で管理できる(排他性がある)なら物として特別に認められることになっています。
物でも物権が認められない例
基本的に、物なら物権の対象になれます。
ただし、以下の3つの性質が認められない時は有体物でも物とは認められないとしています。
①支配ができる
→大気中の空気は支配できないので物ではありません
②独立性がある
→カフェラテに入っているミルクはカフェラテの一部であり、分離できず独立していないので物ではありません
③特定ができる
→お米10kg袋が物として所有権の対象になるためには「どの10kg袋か」を特定できなければいけません
以上が85条に対する人間の補足解釈です。
コメント
この条文からしばらくの物権編などと深い関わりを持つ物についての条文が続きます。
行政書士や宅建試験で物とは何か?という観点で知識を問われることはまずないと思います。
ただ、法律を適用する際に物権が認めれる範囲はどこまでなのか?などを民法はしっかり定義しておこうとしている姿勢は抑えておきましょう。