今回は民法89条を3分でわかりやすく解説します。
※当シリーズは条文が持つ効力を個性として捉えた表現で解説しています
1 天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。
2 法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する。
民法 第89条【果実の帰属】
条文の性格
民法85条から,全5条に渡って続く,”物”シリーズの最後の条文です。
民法89条は,前条88条で登場した概念である”果実”が,一体誰のものになるのかを,天然果実・法定果実に分けた上でルールを定めています。
果実を生み出した物と果実自体は,完全に別の物として扱うのでした。
そのため、ちゃんと果実は一体誰の物になるのかルール整備が必要でした。
そこで活躍するのがこの89条です。
89条の考え方・性格は「キレイなジャイアン」(または劇場版ジャイアン)でしょうか…。
ドラえもんに出てくる畜生状態のジャイアンの名言に「お前のモノは俺のモノ、俺のモノも俺のモノ」があります。
特権階級や上級国民的な存在を許していない日本国憲法の方向性を受け継いでいる民法は、上記のジャイアニズムを当然許していません。
民法を誰に当てはめても不平等にならないような、一律なルールをこの89条が定め、果実が誰のものになるかを規定しています。
その一律ルールは「お前の果実はお前のモノ、俺の果実は俺のモノ」的なルールなので、イメージはキレイなジャイアンです。
条文の能力
天然果実は誰のもの?
天然果実の場合は、果実を生み出した物と生み出された果実が分離した時を基準として、果実を収取する権利を有する人の物になります。
以下、法定果実の場合のポイント2点を分けて確認しましょう。
分離した時を基準とする
天然果実を生み出した物と,天然果実が分離した瞬間を基準に判断しましょうということです。
これは直感的でわかりやすい基準なので、そんなに難しく無いかと思います。
果実を収取する権利を有する者≠所有者
89条1項をよく読むと、天然果実の帰属は「収取する権利を有する者の物とする」と書いてあり、「所有者の物とする」と書いてありません。
1 天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。
民法 第89条1項【果実の帰属】
つまり、天然果実を収取する権利を有する者≠所有者ということです。
(誤解を招かないように補足します。 もちろんですが、天然果実を収取する権利を有する者=所有者であれば、天然果実をGetするのは天然果実を生み出した物の所有者です。 多くの場合は、果実を収取する権利を有する者=所有者です。)
天然果実を収取する権利を有する者≠所有者なのはわかったとして,「じゃあ,天然果実を収取する権利を有する者って誰や?」って疑問が生じると思います。
この点,民法ではこの点を定めた条文が多く存在しているので、各条文で学習することになります。
ここでは、果実を収取する権利を有する者とは、色々な場合を想定して民法の各条文に定められている、という認識があればOKです。
果実を収取する権利を有する者≠所有者の例
一応、果実を収取する権利を有する者≠所有者の例を記載しておきます。
民法189条1項に以下の条文があります。
善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
民法 第189条1項【善意の占有者による果実の取得等】
この条文を前提に例を見ましょう。
AさんはAmazonの置き配を利用してニワトリを1羽を注文しましたが、この注文はネットワークエラーで正常に注文できていませんでしたが、Aさんは気づかずちゃんと注文できた認識でいました。
翌朝、近隣のBさんが飼っていたニワトリが1羽逃げ出し、ちょうどAさんの玄関前にいるところをAさんが発見し、Aさんは自分がAmazonに依頼した置き配のニワトリであると信じて飼い始めました。
飼い始めた翌朝、ニワトリは卵を1個産みました。
さて、上記のCaseでは、Aさんはニワトリを自分の物と信じて飼っているので善意の占有者と言えます。
ところが、当該のニワトリは本来はBさんのものであって、ニワトリの所有権はBさんにあります。
ここで着目するのは、天然果実であるニワトリが産み落とした卵は,AさんとBさんのどちらの物になるかです。
まず民法89条によって天然果実である卵は産み落とされて親鶏から分離した瞬間に、果実を収取する権利を有する者が果実を手に入れます。
では誰が果実を収取する権利を有する者なのかですが、民法189条1項によって果実を収取する権利を有する者は善意の占有者となるので、Caseの場合はニワトリの占有者であるAさんが果実である卵を手に入れることになります。
以上が、果実を収取する権利を有する者≠所有者の例でした。
法定果実は誰のもの?
まず民法88条2項の条文から、法定果実が発生するには、ある物を他人に使用させている状況・前提が存在します。
この状況・前提があるため、他人に使用させている物=法定果実を生み出す物の所有者がちゃんと存在します。
なら、法定果実の帰属は、他人に使用させている物=法定果実を生み出す物の所有者でいいんじゃね?と思うかも知れません。
全くその通りで,法定果実は法定果実を生み出した物の所有者と考えてOKです。
実は法定果実が誰のものになるのかが問題になるケースが存在します。
それは、法定果実が発生している間に法定果実を生み出す物の所有者が変わったパターンです。
法定果実を生み出す物の所有者が法定果実を生み出している最中に変更になった場合に、法定果実の帰属をどうするのかは、民法は89条2項が前所有者と新所有者で仲良く日割りしなさい、としています。
例えば、Cさんが自分の車を2021/4/1〜2021/4/30までの間、1日1,000円のレンタル料でFさんに貸していたとします。
ただCさんは急にお金が必要になったので当該車を2021/4/16付けでEさんに売り,Eさんはそのまま2021/4/30まで当該車をFさんに引き続き貸しました。
この場合は、民法89条2項にしたがって、レンタル料=法定果実は日割りで仲良く分け合うことになります。
つまり,CさんはCさんが車の所有者だった2021/4/1〜2021/4/15のレンタル料を手に入れて、一方のEさんはEさんが車の所有者となった日からの2021/4/16〜2021/4/30のレンタル料を手に入れることになります。
コメント
89条は実はそんなに難しいことを言っていないのですが、それをすごく短い条文で書かれているのでぱっと見では理解が難しい気がします。
でも、具体例に落とし込めば条文が言っていることは至極当然のことで、常識的な感覚にも近いと思います。
学習する際は条文やテキストが言っていることがよくわからない時は、身近な具体例に自分で落とし込んでみると理解の助けになることがあります。