第1節 占有権の取得

【唯一の三者間引渡し方式】民法184条:指図による占有移転をわかりやすく解説

2022年7月27日

伊藤かずま

国際行政書士(第21190957号)
宅地建物取引士合格(未登録)
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ウリム

指図による占有移転の概念を教えてください。

特に,譲受人の承諾は誰に対してするのかや,占有代理人の承諾は不要なあたりを詳しくお願いします。

本記事では,民法184条の指図による占有移転の概念や,憶えるべきポイントをわかりやすく解説しています。

 

本記事を読むことで,以下を達成できるように執筆しています。

  • 指図による占有移転の概念がわかる
  • 指図による占有移転の引渡しの特徴や,憶えるべきポイントがわかる

 

記事の信頼性

本記事は,4ヶ月の独学で試験に一発合格した当ブログの管理人が記載しています。
現在は,現役行政書士として法律に携わる仕事をしています。

参考:独学・働きながら・4ヶ月・一発(202点)で行政書士試験に合格した勉強法
参考:筆者を4ヶ月で合格に導いた超厳選の良書たち

 

読者さんへの前置き

赤文字は,試験対策として絶対に知っておくべき単語・用語・概念・考え方,その他重要ポイントです
太文字は,解説中で大切なポイントです
※本記事は,2020年4月1日施行の民法改正に対応しています

 

結論:占有代理人の存在が与える影響を理解しよう

代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。

民法184条 【指図による占有移転】

 

民法184条は,4パターンある引渡しのうちのひとつである,“指図による占有移転”という引渡し方法を規定しています。

【引渡し4パターン】

指図による占有移転とは,目的物を譲渡人の占有代理人が所持するとき,譲渡人が占有代理人に対して「今後は譲受人のために,ソレ(目的物)持っといて」と,指示することで占有を移転する引渡し方法のことです。

 

指図による占有移転において憶えておくべきポイントは,以下の2点です。

  • 占有代理人に指図をするのは
  • 指図による占有移転を承諾するのは,占有代理人ではなく

 

指図による占有移転は,引渡し4パターンの中で唯一,占有代理人という,譲渡人と譲受人以外の立場の人が引渡しに関与する引渡方式です。 (現実の引渡し・簡易の引渡し・占有改定では,譲渡人と譲受人しか引渡しに関与しません。)

これは,指図による占有移転は,占有移転があったことを,占有代理人という第三者によって客観的に証明が可能であることを意味します

民法・引渡し4パターンの特徴一覧表
民法・引渡し4パターンの特徴一覧表
あわせて読みたい

 

解説:指図ができるのは譲渡人のみ

指図による占有移転の概要

代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。

民法184条 【指図による占有移転】

指図による占有移転は,前提として,譲渡人(本人)が目的物を占有代理人に預けている状況が必要です。

その状況で,譲渡人(本人)が占有代理人に対し,「今後は譲受人(第三者)のために,ソレ(目的物)持っといて」と,指示することで占有が移転します。

つまり,簡易の引渡し・占有改定と同じく,指図による占有移転も,意思表示のみによって占有が移転します

 

条文中の以下の単語を,それぞれ対応する者に書き換えてみると,民法184条の見通しが良くなります。

  • 本人→譲渡人
  • 代理人→占有代理人
  • 第三者→譲受人

占有代理人によって占有をする場合において、本人譲渡人がその占有代理人に対して以後第三者譲受人のためにその物を占有することを命じ、その第三者譲受人がこれを承諾したときは、その第三者譲受人は、占有権を取得する。

民法184条 【指図による占有移転】

↓書き換え

民法184条 書き換えVer

①占有代理人によって占有をする場合において、②譲渡人がその占有代理人に対して以後譲受人のためにその物を占有することを命じ③その譲受人がこれを承諾したときは、その譲受人は、占有権を取得する

 

すなわち,指図による占有移転の成立要件として,

  • ①:占有代理人が目的物を占有している
  • ②:譲渡人が,占有代理人に対して,「以後は譲受人のために占有して」と命じる
  • ③:譲受人が②を承諾する

以上が満たされることで,指図による占有移転が成立し,占有権が譲渡人から譲受人に移ります。

 

事例で考えてみましょう。

ある人(兄)が,ペットホテルにペットのワンちゃんを預け,沖縄に旅行に行きました。

すると,以前よりそのワンちゃんが好きな妹さんが「ペットホテルに預けるくらいなら,旅行行ってる間,私が預かりたい!」と言ってきたため,預け先をペットホテルではなく,妹さん変更することにしました。

しかし,既に兄は旅先なので,本人の手元に目的物(ワンちゃん)が無く,現実の引渡や占有改定はできません。 また,目的物(ワンちゃん)が,妹の手元にあるわけでもないので簡易の引渡しもできません

 

ここで活躍するのが指図による占有移転です。 指図による占有移転を用いて,兄から妹へ,ワンちゃんを引き渡してみましょう。

 

まず,ワンちゃんをペットホテルに預けているので,指図による占有移転の成立要件①「占有代理人(ペットホテル)が目的物を占有している」を満たしています。

 

ここで,本人(兄)はペットホテルに「やっぱり妹がワンちゃんの面倒を見てくれるそうです。 妹がワンちゃんを迎えに行くと思うので,以後,妹のためにワンちゃんを預かっておいてください。」と指示(要件②)します。

 

そして,兄から妹へ,指図による占有移転を占有代理人に指示したことを伝え,妹が要件②について承諾します(要件③)。

これにより,要件①②③が全て満たされ,占有権は本人から妹に移ります。

指図による占有移転
指図による占有移転

これが指図による占有移転です。

 

気を付けるポイント2点

指図による占有移転で間違えやすく,試験で問われやすいのは以下の2点です。

  • 占有代理人に指図をするのは
  • 指図による占有移転を承諾するのは,占有代理人ではなく

それぞれ,詳しく確認してみましょう。

 

占有代理人に指図をするのは“譲渡人”

占有代理人に指図をするのは,占有権を渡す立場の“譲渡人”です。

占有権を受け取る側の“譲受人”から,占有代理人に指図はできません。

 

これは,占有代理人が「今,誰の元に占有権が存在するのか,確実に把握する」ためです

 

目的物を(占有)代理人に占有させている張本人である譲渡人が「以後は,譲受人のために占有してね」と言っているのなら,ペットホテルのフロント係さんも「あ,そうなのね」と納得できます。

 

しかし,譲渡人以外から,占有を移転する旨の指図を受けると,ペットホテルのフロント係としては「本当にこいつは譲渡人から占有権を譲り受ける人なの?」と,信頼ができません

また,もしも譲渡人から指図による占有移転の指示が無いのに,譲受人らしき人の言うことを信じて,譲受人らしき人に目的物を渡してしまうと,誘拐など,大変な事件に発展する可能性があります。

よって,目的物を占有代理人に預けた張本人である本人からの指図がないと,指図による占有移転は成立しないようになっています。

 

指図による占有移転を承諾するのは,占有代理人ではなく“譲受人”

指図による占有移転によって占有権を移すことを承諾するのは,譲受人です。

占有代理人の承諾は不要です。

 

占有代理人はあくまでも,本人の代わりに占有をしているだけの存在であり,本人が他人に占有権(や所有権)を譲るという物の処分をどうこう言う権利を持っていないためです。

また,譲受人の承諾は,(占有代理人ではなく)譲渡人に対してするものと考えられています。

 

引渡し4パターンのうちで,唯一,第三者が関与する

指図による占有移転は,引渡し4パターンの中で,唯一,譲渡人と譲受人以外の者が関与する引渡しです。

先ほどの事例を振り返ってみてもわかる通り,指図による占有移転は,物が移動しません。(指図による占有移転が成立したとき,ワンちゃんはペットホテルから移動していないことを確認してください。)

 

したがって,簡易の引渡し・占有改定と同じく,指図による占有移転も,意思表示のみで占有移転が実現します

 

指図による占有移転においては,譲渡人と譲受人以外の存在である占有代理人が関与するため,物の移動こそ有りませんが,占有代理人という存在が占有権の移転を客観的に証明することになります

4パターン存在する引渡しのそれぞれの方式において,占有権の移転を客観的に証明するものが存在するかどうかは,即時取得成立のために要求される“引渡し”に含まれるか含まれないかを分ける大事なポイントです。

 

たとえば,占有改定(民法183条)は,占有の移転を客観的に証明するものが存在しないため,占有改定で動産を取得したと主張する者は,即時取得成立を主張できません。

 

引渡し4パターンのそれぞれの特徴を表にまとめると,下図のとおりになります。

民法・引渡し4パターンの特徴一覧表
民法・引渡し4パターンの特徴一覧表

 

引渡しは,それぞれの方式にどのような違いがあるのか,横断理解しておくことが非常に大切です。

以下の記事で,引渡し4パターンの特徴を横断理解できます。

あわせて読みたい

まずは,上記の記事で学習してから,現実の引渡し&簡易の引渡し(民法182条)占有改定(民法183条)→指図による占有移転(民法184条)と読み進めてみてください。

きっと引渡し分野の見通しが,すごく良くなるはずです。

 

解説はここまでです。 読んで頂きありがとうございました!

 

※前条の解説はこちらです。

あわせて読みたい

※次条の解説はこちらです。

(現在 準備中です!)

 

参考文献など

参考文献

この記事は以下の書籍を参考にして執筆しています。 より深く理解したい方は以下の基本書を利用して勉強してみてください。 必要な知識が体系的に整理されている良著なので,とてもオススメです。

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最後まで読んでくださりありがとうございました。

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